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第85回 高岡法科大学 第6代学長 石崎 誠也氏

2020/11/13


リーガル・マインドを持って地域で活躍できる人材を輩出
高岡法科大学 第6代学長 石崎 誠也氏



 北陸地域にキャンパスを構える法科単科大学として、法的な説得力を持って社会の諸問題や人々の悩みに対する解決策を導き出すことのできる人材を育成している高岡法科大学(富山県高岡市)。一人ひとりに親身に寄り添う少人数教育を強みとして、6年連続就職率100%を達成している。
 今年9月、新学長に就任した石崎誠也氏に、法学の学びの魅力や同大の今後のビジョン、地方大学の可能性などについてお話をうかがった。





あるべき人間社会のルールを探求 法学は「ヒューマンな心」が第一
――はじめに、学長就任に当たり、現在の心境を教えてください。
 もともと勤めていた新潟大学(新潟市)を2年前に定年退職し、隣接する富山県の法科大学である本学に着任しました。私の専門分野である行政法の研究を続けようと思っていましたが、6月に根田正樹前学長の健康上の理由により、急遽次期学長としてご推挙いただきました。私にとっては青天の霹靂でしたが、根田前学長のこれまでの取り組みを引き継ぐ気持ちで、学長職をお受けしました。
 昨年に開学30周年を迎えた本学は、地域のさまざまな団体や官公庁と対話を重ねてきた根田前学長のご尽力もあり、入学者数も増加傾向にあります。私自身、こうした取り組みを維持しつつ、地域にしっかりと根を張って活躍できる人材をこれからも育てていきたいと思っています。そうすることで、本学を地域に貢献できる大学、そして地域社会から信頼される大学にしていきたいと考えています。

――法学とはどのような特徴や魅力を持った学びだとお考えでしょうか?
 法学とは、究極的には、人間社会にとって何があるべきルールなのかを探求していく学問だと思っています。そもそも法というのは、人間社会の規範やルールのことですよね。近現代の社会にあっては、公権力を統制するルールであるのと同時に、人と人との間の揉めごと、あるいは日本と外国との間のさまざまな問題を解決する基準でもあります。
 こうした揉めごとにおいては、直感的な判断ではなく、やはりお互いが認め合う共通のルールや原理から理性的に解決していく作業が必要になります。私は、このように問題の本質をきちんと見て理論的に解決の道筋を示すということ、これがリーガル・マインド(法的に考える力)だと考えており、本学はこのようなリーガル・マインドを培う教育を大切にしています。
 また、法学の魅力とは、第一にはお互いに認め合う一つの法規範から、問題解決の道筋を論理的に追求していく、その営為にあると考えています。重要な点は、その結論に至るまでの論理性や説得力です。共通の法律からある結論を導いた時に、理論的な理由づけがきちんとなされているか、また法体系全体の中で矛盾がないかということを考えて、あるべきルールを探求していく。その作業そのものが法学の一番の魅力だと、私は思っています。
 ただ、合わせて重要なのは、そうした共通の法律などが現代社会において、本当に妥当なのかと考えることです。私たちは法律を基にして、相手が納得する解決策を導きますが、もともとの法律が間違っているかもしれないということも考えなければいけません。
 例えば、現代ではAI(人工知能)やゲノム編集など、科学技術が目覚ましく進歩しています。30年ほど前に人類が手に入れた臓器移植提供という技術は、私たちに人間の死や尊厳というものについて、改めて考えることを要求しました。同様に、DNA解析に関する技術の進展は、家族法の在り方に対して今後確実に影響を及ぼしていくだろうと思います。このように、人類が得た新しい技術や知見は法学の在り方にも大きなインパクトを与えますから、今後法学を勉強していく人たちは、そうした自然科学や人文科学、あるいは社会科学なども勉強しながら、法の在り方を見ていかなくてはならないだろうと思います。
 要するに、人間が好きであれば、人間社会のルールは何であるべきかという点に考えが及ぶわけであって、そこに法学の究極の目標もおもしろさもあるように思っています。

――将来法学を学びたいという高校生に対して、求めたい素養を挙げてください。
 一番に求めるのは、何といっても「ヒューマンな心」ですね。お互いの人間性を大切に思う気持ち、あるいは他人を傷つけるようなことは黙って見過ごせないといった気持ちが大切だと思います。ドイツ基本法にあるように、長い人類の歴史の中で、やっと辿り着いた法の究極の目的が「人間の尊厳の尊重」なので、その心は重要です。
 それを前提として第二に求めたいのは、理論的に考える力、あるいは理論的に考えようとする姿勢です。人間は言葉にできないドロドロとした感情を持っていて、その感情はとても大切です。ただ、法学を専門にする者は、理性的・論理的に話し合うことで相手方を納得させる、あるいは少なくとも、裁判官を納得させるという作業が必要になります。高校生のうちは難しいかもしれませんが、大学ではぜひ理論的・説得的に、自分の気持ちや考え方を伝えることを学んで欲しいと思います。
 付け加えて言うと、法学の勉強に丸暗記は不要です。例えば、中学の数学で二次方程式の解の公式を習いますよね。法学を学ぶ上では、解の公式を丸暗記するよりも、解の公式がどのように導かれるかという論理の過程をおもしろいと感じることのほうが、はるかに大事だという気がします。法学は理論的な理解が重要で、司法試験でも丸暗記はほとんど通用しません。ですから、論理の道筋を通して考えることが好きな人は、ぜひ法学の世界に来ていただきたいと思います。

――貴学が育成を目指す学生像や学生たちの就職状況について教えてください。
 本学の入学者の多くは、富山県や石川県、新潟県などの出身者のみなさんです。私たちとしては、民間であれ公務員であれ、あるいは行政書士や弁護士といった法専門職であれ、本学における教育を通して、地域社会を大事にするという想いを強く持った人材を輩出していきたいですね。
 幸いなことに、本学では6年連続就職率100%(就職希望累計259人全員就職)を達成しています。この背景の一つには、本学で開講している「社会人基礎力養成講座」という科目を挙げることができます。これは、学生が3年間で自身の職業意識を培っていくための系統的なカリキュラムとなっています。1年次には企業や職業について考えるための授業を行い、2年次には高岡市で活躍する事業家や金融関係の方などを講師としてお招きして、さまざまな企業についてご紹介いただきます。3年次にはインターンシップを行います。これらの授業と並行して就職指導を徹底することで、高い就職率を実現できているのだと思います。

――新型コロナウイルス感染症の感染拡大に配慮して、授業で工夫されていることなどをご教示ください。
 現在本学が行っている授業には、オンラインによる遠隔授業と、遠隔授業と対面授業を同時並行で行う授業と、対面授業の3タイプがあります。この3タイプの授業が同程度の割合になるようにカリキュラムを編成しています。
 オンラインによる遠隔授業については、Web会議サービス「Zoom」や、ビデオ会議アプリケーション「Google Meet」等を使って同時双方向型で行うものと、レジュメや音源を事前にアップロードしてオンデマンドで受講するものの二つの形があります。遠隔授業を行う場合に気をつけている点として、学生と教員との間のやり取りを従前以上に重視しています。具体的には、授業の中で必ず学生から質問を受け付けるようにして、教員はそれらの質問に対して回答するということを徹底しています。本学で実施した前期授業に関するアンケート結果によると、ほぼすべての授業で学生と教員間の質問のやり取りがあったようです。小規模大学である本学の強みが、まさに活かされた結果と言えるでしょう。
 また、オンラインによる遠隔授業のメリットの一つに、学生による質問が活発になる点を挙げることができます。一般的な対面授業の場合、どうも周りの目を気にしてしまい、発言を遠慮してしまう学生が多いように見受けられますが、オンライン授業の中で課題提出後に質問をするよう促すと、学生一人ひとりが積極的に質問するようになりました。各学生の質問内容からは理解度や成長過程が見えますし、今後、対面授業が再開しても、こうしたオンラインによる質問は継続していきたいと考えています。
 対面授業については、キャンパスに入構する学生の安全を確保するということを一番に考えています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止し、また、クラスター(感染者集団)を発生させないために、登校してきた学生に対して、毎回体温測定をしています。授業後の机上のアルコール消毒を徹底するなど、教職員が一丸となって学生の最大限の安全確保に努めています。
 このような形で、本学では現在、オンラインによる遠隔授業と対面授業を組み合わせた教育を展開しています。


遠隔授業で拓く地方大学の可能性 地域からより信頼される大学へ
――東京一極集中の弊害が指摘されています。地方の大学の望ましい在り方や今後の可能性についてお教えください。
 都市部にある総合大学や大学院大学などは、高い研究力や大規模な教員集団を擁するなど、それ自体が一つの魅力ある大学像で、重要な役割を果たしていると思います。私自身、高校卒業時に宮崎県から都内の大学に進学しました。都市部の大学に通うメリットとしては、最新の文化だけでなく、能などの伝統文化にも接する機会が充実しており、さまざまな文化芸術にふれることができる点も挙げることができます。
 また、地方出身の若者が学生時代に都市部の生活を経験するということも、大変意義あることだろうと思います。
 一方、地域住民との交流を通して、地域社会との結びつきができるという点は、都市部ではなかなか得られない地方大学特有の魅力だと言えるでしょう。例えば、本学は高岡市の戸出地域に位置していますが、地域の伝統行事である「戸出七夕まつり」や「高岡万葉まつり」には、本学の教職員や学生、留学生が毎年参加しています。
 また、本学の「企業経営コース」では、高岡地域で企業経営や起業経験のある方々に、その体験談をお話しいただく科目を開講しています。
 さらには、本学が小規模大学だからということもありますが、教務職員が学生一人ひとりを熟知している点も、都市部の大学にはない特徴ではないかと思います。
 最後に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を図るため、本学ではオンラインによる遠隔授業を実現しました。これには、教職員の奮闘や学生の協力が不可欠でしたが、やはりインターネット技術の進展によるところが大きい。いまや都市部の情報はほぼリアルタイムで入手できますし、地方と都市部の情報格差はこれからますますなくなっていくでしょう。それどころか、こうしたテクノロジーの普及によって、地方大学は世界とつながり、情報を発信できる可能性を持ちました。これは、先述した地方大学の特性や魅力を活かしながらも、地方大学のデメリットを克服できるような技術を手に入れたということを意味しています。
 その部分では、本学は新型コロナウイルス感染症の広がりに対して、必死に対応しましたが、ある意味では地方大学の一つの新しい可能性を見い出す良い契機になったとも言えると思います。

――学長として今後の目標や抱負などをお聞かせください。
 第一には、先ほど申し上げた通り、根田前学長の取り組みを引き継いで、本学を経営的に安定させていくことです。これを当面の最大の課題と位置づけています。第二に、学生一人ひとりにていねいな教育をしていくことで、地域社会を支える人材を育成していきたいですね。第三に、本学は法科大学ですから、法律系の資格を取得したり、法曹に進んだりといった学生も、合わせて育てていきたいと思っています。法曹に進みたいという希望がある学生に対しては、法科大学院への進学をサポートしていきます。第四には、これらの教育を通して、本学を地域からより信頼される大学へと発展させていきたいと考えています。これらが今後、学長として私が成し遂げたい目標です。

――読者である高校の先生方にメッセージをお願いします。
 法学というのは、人間社会のあるべきルールを探求する学問ですから、まさに人間学なんですね。仮に法曹の世界に進まなくても、その学びは社会に出てから必ず役立つでしょう。繰り返しになりますが、法学は長い歴史を経て、やっと「人間の尊厳」を究極の価値とする地平に到達しました。「人間の尊厳」を究極の価値とする法の在り方を目指す学問が法学だと知っていただきたいですし、これからの人間の幸せや自由な発展を目指す法学へ、ぜひ多くの若い人たちに参加して欲しいと思います。
 高校の先生方にお伝えしたいのは、どの学問でもそうですが、法学も丸暗記ではなく考える学問だということです。法学である以上は、理論的な道筋を通していくという作業が必要になります。ただし、究極的には人間が好きだという気持ちが最も大切です。
 論理よりも先に「ヒューマンな心」が来ることが法学で大切だと私は思います。そうした気概を持って、法学に進む高校生が一人でも増えてくれるとうれしいですね。



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