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第4回 存在感を増す「アドミッション・ポリシー」

2019/09/27

連載 入試研究からみた大学入試

第4回 存在感を増す「アドミッション・ポリシー」

西郡大

 「アドミッション・ポリシー(AP)」は、珍しい言葉ではなくなった。この言葉が中央教育審議会の答申に初めて登場したのは平成11年のことである。平成14年度入試からは文部科学省が各大学に通知する『大学入学者選抜実施要項』において、APに基づく入試の運用が明記された。しかし、APの重要性について、受験当事者が実感することは多くなかったのではないだろうか。まずはその背景を考えてみたい。
 以前は、「こんなに素晴らしい理想的な学生など実在しないだろう」と、疑問を抱くような学生像をAPとして示す大学は少なくなかった。受験生全員が、その学生像に合致していない場合、全員を不合格としなければならないが、そのような合否決定は行われていないだろう。このタイプの多くは、大学の教育目標で目指す人材像が「求める学生像」となっている。仮に、こうした学生を入試で獲得できたとして、その後の大学教育では何を育成するのか。受験生にとっても役に立たないAPと言える。入学希望者に求めるものは、あくまで入学後のカリキュラムに適応するために必要な能力や適性等を示すべきで、大学の教育目標で目指す人材像とは分けて考えなければならない。
 一方、APと実際の選抜方法が整合していないことも問題とされてきた。例えば、「基礎的な学力と共に、社会に貢献しようとする積極的な意欲と行動力を持つ学生」をAPとして定めた学部の入試が学力検査のみである場合、「積極的な意欲と行動力」を入試で評価しているとは言い難い。わが国の伝統的な入試制度では、大学が独自に個別試験を実施し、「この程度の問題は解いて欲しい」「これは知っていて欲しい」といったメッセージを込めた試験問題を出題することで実質的なAPの役割を果たしてきた。受験生や高校教員も実際の試験問題を見て、「このような問題を解ける学生を求めているのか」といった解釈をしているはずだ。つまり、APが機能しなくても深刻な問題とはなりにくいのである。
 ところが、平成29年度の法令改正により、ディプロマ・ポリシー(DP)やカリキュラム・ポリシー(CP)を踏まえたAPの策定・公表が義務付けられた。高大接続改革も大学の特色と学生の志向をマッチングさせる方向で進んでいる。つまり、「〇〇の人材を育てるために、この教育カリキュラムを準備しているから、△△の能力と適性を持っている学生に入学して欲しい。だから入試ではこのように評価する」といった明確なメッセージをAPに示すべきということである。入学者の受入方針という限定的な役割だけでなく、教育目標やカリキュラムと一体となった枠組みの中でAPが捉えられるようになったのだ。
 さらに、「学力の3要素」の多面的・総合的評価の導入はAPの実質的な転換をもたらす。APで示す複数の能力や適性等を評価することを「多面的な評価」だとすれば、APにおいて入学後の学習に必要な能力や資質等を評価対象として明示し、それらを具体的な評価方法と対応付けなければならない。最近では、こうした対応付けに加え、どの側面に重点を置いた評価を行うかなども含め、全体を俯瞰的に確認できる図表でAPを示す大学も多くなってきた。従来の抽象的な文言が並んだAPより、格段に機能的で分かりやすい。また、APの理解が入試での評価に有利に作用する書類審査や面接試験などを実施することにより、受験プロセスの中にAP理解を組み込んで動機付けを図る入試も増えている。受験生にとって、APを十分に理解することが合格の可能性を高めるのであれば、さらにAPの重要性は増すだろう。一方、前号でふれたように、大学にとってはAPに基づく人材獲得が公正かつ妥当な手続きで行われたことを合理的に説明する責任があるため、中途半端なAPの策定はリスクとなる。高大接続改革の中でAPの存在感は着実に高まっているのである。

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