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第5回 適切な面接試験の実施に向けて

2019/10/16

連載 入試研究からみた大学入試

第5回 適切な面接試験の実施に向けて

西郡大

 入学試験と言えば、受験生が着席して試験問題に取り組んでいる様子を思い浮かべる人は多いはずだ。しかし、大学入試は多様化し、受験生はさまざまな手法で評価されている。第5回は、入試の評価手法として定着してきた「面接」に注目したい。
 『テスト・スタンダード』(日本テスト学会編)は、面接を「面接者と被面接者との互いのコミュニケーションによって、人間の心理学的特性を測定する方法」と定義する。筆記試験では評価が難しい側面を人と人とのコミュニケーションを通して評価できるのが強みだ。そのため、学力の3要素に含まれる「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の評価に適した方法の一つである。しかし、客観式のテストと異なり、人(面接者)が評価するという手法は、何らかの基準があるにしろ主観的な判断への依存が避けられない。こうした課題に対し、採用面接の世界では面接評価の精度を少しでも高めようと科学的な研究が蓄積されてきた。技術的な観点からみて良い評価とは、「妥当性」(評価したい特性を的確に捉えている程度)と「信頼性」(繰り返し評価しても安定した結果となる程度)の両者が高いものだ。その代表的な手法に「構造化面接」がある。入試で言えば、アドミッションポリシーに基づき評価したい能力や特性を明確にし、質問内容や評価基準を構造化(ルール化)して評価者で共有する手法だ(ルーブリック評価も含まれる)。
 ただし、構造化面接も万能ではない。あるAO入試の構造化面接を検証した研究では、専門分野に対する興味・関心に関する質問において面接者間での評価が一致しやすいのに対し、一般的な意欲や態度に関する質問では評価が安定しないことが報告されている。この場合、さらに質問内容や評価基準を構造化し、面接者の主観が入り込む余地を少なくすれば、信頼性を高めることができる。しかし、面接者によって個別に工夫される展開や評価の視点を一定の枠組みに押し込めてしまうことになり、面接の利点を損ないかねない。また、極端な構造化は受験生にとって対策が講じやすいため、面接評価の形骸化をもたらす。つまり、大学入試における面接評価は、さまざまな技術的限界や実施上の制約の中で成り立っている。過度な期待や幻想を抱くのではなく、その機能と限界を明確にした面接評価こそ最良の在り方だろう。
 一方、受験生にとって面接の手応えは、合否を左右する感覚が強いようだ。筆者は、面接終了後(本試験)の受験生を対象に調査を行い、その心理的な作用を分析したことがある。まず、自身が受験した面接への肯定感に強い影響を与えたのは、「面接者が親切に接してくれた」「自分の話に耳を傾けてくれた」という認識であった。逆に、「面接者が疲れていたので嫌な感じだった」「面接者が足を投げ出し、よそ見をしていたのは不愉快」と回答した受験生の面接への肯定感は低かった。次に、面接の達成感に影響を与えたのは、審査過程を自分自身でコントロールできたという感覚であった。つまり、事前に準備した志望動機やアピールポイントなどを十分に主張できたかどうかと関係する。そのため、「自分をアピールできる質問がもっと欲しかった」と回答する受験生の達成感は高くない。こうした肯定感や達成感が「適正に評価された」という認識と結びつき、ひいては合否結果を手にしたときの「納得性」につながるのである。
 多面的・総合的な評価には、面接のように人が人を評価する手法が含まれる。筆記試験や書類審査とは異なり、面接者と受験生との間に直接的かつ動的なコミュニケーションが生じる。適切な面接試験を実施するためには、評価の精度向上に向けた技術的検討といった評価側からの視点だけでなく、「適正に評価された」という認識に基づく「納得性」の在り方など、受験生側の心理からみた検討も欠かせないのだ。

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