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第5回 STEM分野大学卒業生のグローバル・コンピテンス

2021/11/16

連載 2040年に向けての大学教育

第5回 STEM分野大学卒業生のグローバル・コンピテンス

山田 礼子
  
 現在のグローバル化と知識基盤社会において、世界の高等教育政策はSTEM領域におけるイノベーションにつながる教育プログラムの充実化を唱っている。知識基盤社会では、STEM人材はイノベーションとの関連性からも、グローバル労働市場での移動がより流動化するであろう。2019年1月下旬に「大学教育を通じてのグローバル・コンピテンス(以下、GC)の経験と習得状況は?」という問いを立て、日・米・中のSTEM関連の学位(学士・修士・博士)取得者で、かつ高等教育機関以外の企業や研究所等で現在就業状況にある30〜40代(各年代50%)を対象にウェブ調査を実施した。なお、STEM人材に求められるGCを「多様な人々と議論・協働して問題を発見し、解決していくスキル」と定義した。日・米・中で2472人が回答。本稿では、とりわけ全国規模で実施した日米の結果を紹介する。
 大学在籍時のGCに関連する経験の有無について見てみる。質問では「人権や民族に関する授業を履修した」「異文化理解の授業を履修した」「学生寮などで留学生の学友と生活した」「海外研修プログラムに参加した」「海外インターンシッププログラムに参加した」「海外での短期間の研修や留学」など12項目を尋ねているが、日本は一つも「あてはまるものがない」と回答した者が約6割だった。人権・民族や異文化理解の授業の履修は2割程度が受けているが、その他の項目については1割を下回っている状況だ。米国については、異文化理解の授業の履修が4割前後であり、学生寮での留学生との交流が3割近くなのも特徴的である。GC習得に影響を与えるような海外経験や異文化体験に関して、日本は米国に比べて経験する機会や実際に体験した人が少ない様子がうかがえる。
 また、大学における教育において、アクティブ・ラーニングなど15項目からなる学修経験や活動がどの程度あったのかを4段階(1〜4点)で評価してもらった。米国は、留学生チューターや教員との海外研究・海外学会発表はやや平均値が低いが、それ以外は平均値3を超えている。日本においては、他の学生と勉強したといった項目では評価が高い。ただし、留学生と関わる機会や国際的な課題の議論などの経験については低く、GC習得に影響を及ぼす学修経験が少なかったことが分かる。プロジェクト・ベース型授業や自身がリーダーを務めるような高度な協働学修の経験も少なく、全体的に米国を下回っていた。
 次に、22項目からなるGCに関する知識・能力・態度・志向性が現在どの程度身についているのかについて、4段階(1〜4点)の自己評価結果を示す。米国に関しては、「複数の言語でのプレゼンテーション」や「母語以外の言語の運用ができる」は少し低いものの、それ以外の項目はおおむね平均値3を超えていた。その一方、日本は、「専門知識の習得」が項目の中では最も高く2・7前後であったが、他は平均値2・5点前後の項目が多く、米国の平均値を下回っていた。
 なお、日米の大学を「ワールドクラス研究大学(米国)Highest大学(日本)」「研究大学(米国)Higher大学(日本)」「総合大学(米国)High大学(日本)」に分類して、質問との関連を検討した。米国では大学分類間でのGCの経験や習得に関して大きな差は存在しておらず、ある程度共通したGCに関する学習経験をSTEM分野の学生に積ませ、それが成果として認識されていることが確認できた。それに対して日本では、GCに関連してHighest大学出身者の経験や習得度が高いなど大学分類間に差が見られた。STEM高等教育分野でのグローバル化に関する機能分化が、現在の30〜40代が在学中だった1990 〜2000年代には、すでに進んでいたとも解釈できよう。



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