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第2回 高校普通科におけるキャリア教育

2022/05/24

連載 キャリア教育と高校・高等教育改革

第2回 高校普通科におけるキャリア教育

夏目 達也

 高等教育進学率上昇と共に、キャリア教育の対象が大学等にも拡大している。とはいえ中学校・高校、特に高校は依然として重要な対象である。今回は、高校で展開されるキャリア教育について、その法的根拠、具体的な活動内容、実施をめぐる問題点について考える。
 学校教育法は、高校教育の目標を「(略)個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な知識、技術及び技能を習得させること」(同法第50条)と規定する。この規定を具体化する活動内容を、文科省は学習指導要領で定めている。直接には特別活動の中のホームルーム活動として実施される。そのうち特に関連の深い「学業と進路」では、❶学ぶことと働くことの意義の理解❷進路適性の理解と進路情報の活用❸望ましい勤労観・職業観の確立❹主体的な進路の選択決定と将来設計―を掲げる。さらに、学校行事の「勤労生産・奉仕的行事」では、勤労の尊さや創造の喜びを体得し、就業体験などの職業観の形成や進路の選択決定に役立つ体験を行うことが謳われている。これらが高校で実施するキャリア教育の大枠だ。
 高校生には、将来就くべき職業について知ることが必要との認識が背景にある。卒業後就職する生徒はもちろん、進学する生徒にとっても同様である。学部によっては、職業資格と直結しており、就職にはその学部卒業が基礎条件となる(その典型は医師、看護師、薬剤師等の医療職)。そうでなくても、大学で学んだ内容を活かせる職業に就くほうが有利である。また、就職は誰にとっても人生上の課題である。実際に就職するかしないかに関わらず、実社会では職業との関係は避けて通れない。青年期の若者にとって、職業の選択や従事は精神発達上も重要課題である。職業に向き合うためには、職業の実際の姿を知ること、できれば直接経験することが必要である。それを通してはじめて、部外者には知ることのできない職業の本当の姿や自分の適性を確認できる。
 問題は、学習指導要領で謳われた内容が、高校現場で実際に提供されているかどうかである。職業の現実を知るための活動の一つとして、高校ではインターンシップが推奨されている。実施状況は、公立高校(全日制・定時制)における「在学中に1回でも体験した生徒の割合」は、全体で34・8%。学科別にみると普通科22・5%、職業学科68・4%という状況だ(国立教育政策研究所「平成30年度職場体験・インターンシップ実施状況等結果(概要)」)。公立中学校の同割合が97・7%であることと比べると、著しく低い。特に普通科は職業学科と比べてもはるかに低い。その最大の理由は、高校が大学進学準備のための勉強を優先させていることであろう。高校は大学進学実績を上げることを各方面から迫られる。そのため、大学進学に関係ない活動は極力避けるべき、受験勉強に励ませて少しでも偏差値の高い大学・学部を狙わせるべき、と考えがちである。就職を考えるのは大学に入ってからで十分とか、有利な就職先を得るにはまず難関大学に入ることが必要との判断が働く。その結果、本来貴重な機会となり得る活動が後回しにされてしまう。職業の現実を知らないことは、将来展望を描いたり、高校や大学での学習意欲を高めたりすることに少なからず影響するはずだ。
 普通科在籍者が高校生全体の70%以上を占める現在、生徒の学力や進路も多様化しており、普通科でも就職する生徒は一定数存在する。普通科の就職者数は職業学科中最多の工業科よりも多い。経済不況が長引けば、就職する生徒はさらに増える可能性がある。就職者の多い高校はもちろん、いまはまだ進学者の多い高校でも、今後何らかの対応が必要だろう。職業に関する正確で具体的な知識を提供し職業の現実に親しませること、それらを通じて就くべき職業や生き方を考えさせる指導が不可欠である。問題の先送りは許されない。



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