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最終回 大学卒業後のキャリア教育

2023/03/20

連載 キャリア教育と高校・高等教育改革

最終回 大学卒業後のキャリア教育

夏目 達也

 本連載の最終回は、大学卒業後のキャリア教育について考える。大学を卒業して無事に就職をすると、学生も保護者も一段落、キャリア教育も終了との見方もある。しかし、高年齢者雇用安定法改正で70歳までの雇用確保が企業の努力義務となった今日、卒業時の就職は長い職業人生活のスタートに過ぎない。
 職業人生活は山あり谷あり。就職が不本意だった学生だけではなく順調にできた学生でも、早い時期から理想と現実のギャップや職場の人間関係に悩み、せっかく見つけた仕事を辞める例はあとを絶たない。就職後3年以内の離職率は、新規大卒就職者で平均31・5%だ。事業所規模や産業によってその割合は異なり、規模別で5〜29人の事業所、産業別で宿泊業・飲食サービス業がそれぞれ約5割に達する(厚生労働省調べ。平成31年3月卒業者)。転職は、決して他人事ではない。
 かつて日本の職場では長期雇用が一般的で、大卒で就職すれば、あとは定年まで転職なしという人生もあり得た。経済成長が続いた1980年代まではそれが可能であり、かつ一般的だった。現在、契約・パートタイム・アルバイト等の非正規雇用で働く人は、労働人口の約4割に達する。国内外で競争が激化しており、大企業の正社員でも長期間の安定雇用は難しい。非正規の労働者はなおさらだ。
 こうした状況下で、「生涯キャリアガイダンス」が課題となっている。大雑把に言えば、生涯にわたり継続的に行われるキャリア教育・ガイダンスのことであり、主な対象は社会人だ。キャリア教育の対象は、時代と共に中学校・高校中心から、大学・大学院にまで広がってきた。それが社会人にまで拡大した形だ。
 社会の変化が激しい状況では、長期雇用の維持は望めず、中期や短期の雇用を余儀なくされる。雇用契約が終わり一時的に職を失っても、次の仕事が用意されていれば、差し当たり問題は回避できる。次の仕事に就くためには、それまでの能力をベースに新たな職業能力を形成すること、それにより対応できる職種を拡大して就職機会を増やすことが必要になる。支援として、本人の経歴や雇用状況を踏まえて、就くことができる仕事や必要な職業能力は何か、どこで能力を修得できるか等の情報や助言を専門的立場で行うことが求められる。これが生涯キャリアガイダンスの基本的な考え方だ。
 不安定な雇用は、欧米諸国ではすでに一般的で、失業率も日本よりはるかに高い水準が続いている。いずれ日本も同様になる可能性はある。安定的な職に就いて順調にキャリアを形成することは理想的だが、現実にはどの国でももはや困難になっている。
 学校在学中の成績や出身学歴によって安定した職に就き、あとは仕事に就いてからの経験で何とかなるという、言わば先行逃げ切り型では対応できない状況だ。
 労働環境や必要な知識・技能が急速に変化する中で、雇用を維持して働き続けるためには何が必要か。例えば、社会や職場での多様な学習機会や経験を積極的に活用して、知識や技能の内容を更新・高度化させること、必要に応じて専門家によるキャリアガイダンスを受けること等だ。
 これらの学習や能力形成を支援するために、政府はキャリアコンサルタントの国家資格を設けて、社会人がキャリアガイダンスを受けやすくしている。また、助言を踏まえつつ、次の仕事に向けて知識や技能を修得できるように、社会人の学び直し=リカレント教育を重視し、その促進に努めている。大学でも、それに呼応して、社会人向けに多様な内容のプログラムを提供する動きが広がっている。教育内容も伝統的なアカデミックなものに加え、職業に直結するものも増えている。
 このように、雇用をめぐる状況の急速な変化はキャリア教育・ガイダンスの内容や対象者の変容をもたらしている。同時に、働く人々や大学を含めた社会全体に対して、そのあり方の見直しを迫っている。



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