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第54回 工学院大学 水野 明哲 学長
2011/02/01
平成24年に学園創立125周年を迎える工学院大学(東京都新宿区)。記念すべき節目の年を目前に控え、同大では、今春より「建築学部」を開設するなど、新たな時代に向けて大きく歩み出した。新宿キャンパスに水野明哲学長を訪ね、今後の展望とともに、工学高等教育にかける熱意を語っていただいた。
輝かしい150周年を迎えるための変革
ー学校の歴史もすでに一世紀と四半世紀を数えます。
本学の前身である「工手学校」は、明治20年に産声を上げて以来、「実践的な技術者の育成」を掲げ、それを旗印に教育に邁進してきました。その精神は、124年を経た今日でも何一つ変わっていません。根底にあるのは、「実践的な技術者、エンジニア」を育成したいとの気概です。時代の大きな流れの中で最も大きなインパクトを残したのは、やはり昭和24年に「工学院大学」が設置されたこと。必ずしもトップリーダーを育てるのが目的ではなかった「工手学校」という教育機関が、エンジニアのトップリーダー養成に主眼を置いた新制大学――高等教育機関としてさらに大きなミッションを担うこととなったのです。けれども、当時は戦後の混乱期で、それゆえ経営的にも厳しい状況が続き、「これだ」という理念をしっかりと掲げるのは、なかなか容易ではなかったようです。
そうした歴史をいま一度振り返り、125周年を迎えるに当たって、理念や目標、あるいは社会的な責任なども改めて見直し、ステークホルダーはもちろん、広く一般社会にも分かりやすい形で存在感を高めていくつもりです。
ー他大学との差別化はどこで図っていきますか。
本学と芝浦工業大学、東京電機大学、東京都市大学の四大学は「東京四理工」と称されますが、目指す部分で重なるところが実は少なくありません。そうした中で埋没することなく特色を打ち出す一つのキーとして、本学は、「国際的に活躍できるエンジニアの育成」「ビジネス・マネジメントができるエンジニアの育成」を掲げています。
前者に関わる学びとしては、すでに12年ほど前から英語教育に力を入れるなどして取り組んでおり、今後はこれをいかに全学的に広げていくかが課題です。他方、後者については、今春から大学院に「システムデザイン専攻」を開設し、実際に企業経営に携わる現役のビジネスマンが主導する、より実践的な授業を展開していく予定です。
ー125周年を迎えるに当たり抱負をお願いします。
125周年が目前に迫るこのタイミングで、私に与えられた責務は、さらにその次の四半世紀――150周年を輝かしく迎えるため、より確かな地盤を築き上げることだと考えています。
誤解を恐れずに言えば、来年度に控えた125周年は、このまま何もしないままでも乗り切ることはできるでしょう。しかし、150周年となれば話はまったく違います。変化が激しい現代にあって、今から27年後の社会や技術がどのように変化しているのか。ある程度のイメージを描きつつ、それを大学教育に上手く落とし込んでいかなければなりません。
ウサギとカメが競争する有名な寓話にモチーフを求めたあるビジネスエピソードで、「現代社会には『昼寝をしているウサギ』などいない。だからカメのままでいてはいけない」というものがあります。周囲はすべて足の早いウサギばかり。のそのそと歩いているカメでは、到底競争に打ち勝つことはできないという意味です。そう、現代はもう待ったなしの時代なんですね。「いま本学に何が求められているのか。今後、何をしなければならないか」――。教育理念から教育内容、設定目標などを広範囲にわたって議論し、「工学院大学はウサギになって走り出します」と、社会に大きくアピールしたいと考えています。
ー近年、急ピッチで進む学科再編も注目されています。
4年前には大学を3学部体制にし、その後、化学系学科の再編を行いました。そして平成23年度からは大学に建築学部、大学院にシステムデザイン専攻を開設します。
もちろん、こうした学科改編も、150周年を展望する本学園の礎の一つには違いありませんが、最も重要なことは、さらに本質的な部分、とりわけ、教職員の意識を醸成していくことだと考えています。
例えば、本学はこれまで、立地の好条件に胡座をかき過ぎてきたのではないか。国が主管する国立大学ですら法人化し、学生確保に傾注して、さまざまな改革を断行しているにも関わらず、新都心にキャンパスがあるからと言って、ややのんびりと構え過ぎていたのでないかと猛省しています。
本学の変革は今、遅まきながら始まったばかりです。これから大きく変わっていく本学に期待していただけたらと思います。
学生の力を引き出し育てる教育と支援体制
ー貴学の「少人数制教育」の効果はどこにありますか。
本学では、各学科とも学生は、3年次の後半から各分野の研究室に所属し、4年次になると卒業論文に着手します。現在、4年生はおよそ1200人で教員は160人ほどいますから、研究室では教員1人当たりに対して、学生は8人~9人というのが平均的です。こうした徹底した少人数制のもとで、学生は教員と密接にコンタクトを取りながら、学びを深めていくことができるのです。
ところで、こうした研究活動の中で大切にして欲しいのは、学生同士のコミュニケーションです。教えたり、ヒントをもらったりといった濃密な人間関係を、大学4年間という限られた時間の中でも十分に築くことができる環境が本学には用意されています。
ー大学院にも手厚いサポートがあると伺いました。
そうですね。なぜ大学院を重要視しているのかと言えば、それは、「工学」という学問が現在では非常に多岐にわたるようになったため、分野やテーマによっては4年間では教育し切れない場合があるからです。とすれば、研究途上にある学部生の受け皿を自前で用意するのはむしろ必然のことです。海外渡航費の補助など、大学院生のサポートを充実させると同時に、院生が学部の演習を手伝う「ティーチングアシスタント」を導入するなど、大学との相互交流にも目を配っています。
ー「学生プロジェクト」について教えてください。
発足の端緒は、数年前、ある女子学生が英語の授業で「鳥人間コンテストに向けた活動に参加したくて入学したのに、そのサークルがなくてがっかりした」という内容のエッセイを書いたことにあります。それを読んだ当時の担当教員は、「それなら貴女が作ってみたら」と、アドバイスをして、その学生とともに、流体工学を専門とする私の研究室を訪れて、サークルの立ち上げを懇願してきたのです。たった一人ではサークルの立ち上げは認められない状況でしたが、その女子学生はすぐに行動に出て、10人ほどの仲間を集めてきました。こうして始まったのが本学の「学生プロジェクト」です。
ー現在では多くの学生が参加しているのだとか。
「鳥人間サークル」が立ち上がると、その活動に参加をしたいと言って本学を志願する学生が増えてきました。また、軌道に乗った同サークルに続けとばかりに、「ロボット」「フォーミュラカー」などのさまざまなサークルが加わり、現在では、9プロジェクトが活動をするまでに成長しました。
こうした活動を本学は「創造活動」と呼び、実際にモノを作る経験から与えられる示唆によって、学生たちは大きく成長を遂げています。
活動の中では、コミュニケーション能力や指導力、創造力なども求められますし、失敗することもあります。しかし失敗に慣れておらず、失敗を恐れがちな現代の若者にとって、失敗経験を積み重ねることにはとても意義があると本学は考えているのです。
全体の割合から言うと、残念ながら活動に参加している学生はそれほど多くはないのが現状ですが、これは本来は必修科目であってもいいのではないかとの指摘も多いため、本学としては今後もさらにこうした活動を応援していくつもりです。
好奇心のある高校生、工学院大学に来たれ
ー高い就職率を維持できる秘訣はどこにありますか。
コツコツと課題を解決できる実力が評価された理由の一つとして、本学の卒業生で、かつ社会の第一線で活躍後、リタイアされた方々が、キャンパスに常駐してエントリーシートの書き方や面接の心得を説くなどといった、経験者ならではのアドバイスを学生におくるという「就職支援アドバイザー」という仕組みがとてもうまく機能していることが挙げられます。
また、新年度にはオンラインで就職市場の動向や個別学生の状況を提供できるシステムを構築し、大学に寄せられた求人情報を学生が学外からでも見られるようになります。これらは「オンラインシステムとアドバイザー制度による総合的就職支援」の名称で、文部科学省の平成21年度「学生支援推進プログラム」テーマB「大学教育・学生支援推進事業」にも採択されました。さらに、平成22年度にも、「学生と社会をつなぐ就業力育成プログラム」という取り組みが「大学生の就業力育成支援事業」に採択されたように、学生を就職させる力を客観的に評価していただいており、この展開が高い就職実績に結びついているのだと自負しています。
ーインターンシップにも力を入れていると聞きました。
インターンシップを導入してかれこれ7~8年が経ちました。当初主導したのは教務課で、以来、正規カリキュラムの一環で、卒業要件単位の一部として認定する形式で取り組んできました。
しかし企業との接点という部分では、近年は「就職支援センター」が関わることも少なくありません。現在は異なる部署が動いていて、功罪両面があるのは事実ですが、これらの一体化も含めて、新年度から事務組織を改編し、インターンシップと就職支援をさらに強力に組み合わせていこうと考えています。
ー活発に活動する「保護者の会」もあるとか。
本学には、大学が設置された翌年の昭和25年に発足した、本部組織と21の地方組織からなる全国規模の「保護者の会」があり、教員と保護者とのダイレクトな話し合いの場として大きな役割を果たしています。実際に卒業が危ぶまれた学生を、会がフォローし、無事に卒業までこぎつけたという例も少なくありません。また、同会では学生が卒業した後でも変わらず参加して下さる方々もいるなど、とても熱心に取り組んでいただいているのは嬉しい限りです。こうした後援会組織の活動がサポート体制の一つの大きな柱になっているのも本学の特長と言えるでしょう。
ー最後に高校生にメッセージをお願いします。
大学で学ぼうとする上で最も大切なのは、「好奇心」があるかないかだと私は思っています。本学では、その好奇心を溢れんばかりに持っている高校生はもちろん、いまはまだ何も見つかっていないけれども、何かを見つけたいんだという人であれば大歓迎します。基礎学力に多少の不安があっても過剰な心配をせずに私たちに任せてください。
学生の好奇心を引き出し、育てていく熱意ある教員が本学にはいかに多いことか。入学後は、さまざまな形で学生一人ひとりを全力でサポートすることをお約束します。