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連載第1回 大学改革を問い直す

2014/08/28

連載 大学改革を問い直す

第1回 達成度テストのゆくえ

藤田英典


 大学改革が急ピッチで進められている。本連載(全7回)では、今回の「達成度テスト」をはじめ、いくつかの重大な改革(案)やテーマについて検討し、最終回で改革動向全般について考える。
 2013 年10月、教育再生実行会議は高大接続・大学入試改革に関する第四次提言を公表した。高校教育の質向上と大学の人材育成機能の強化、および大学入学者選抜方法の改善を一体的に図るため、に、大学入試センター試験に替えて、高校在籍中に複数回受験できる二種類の達成度テスト―基礎レベルと発展レベル―を実施するとした。具体的な内容については5年後の実施をメドに中教審で検討中だが、本年3月の審議経過報告によれば、概要は以下のようなものである。
 基礎レベルは、国語、数学、外国語(英語)、地歴、公民、理科の学習到達度を把握するもので、高校での学習改善に活かし、各大学の推薦入試やAO 入試での活用を促進する。発展レベルは、大学教育を受けるために必要な「主体的に学び考える力」等の能力を測るもので、複数の教科・科目にまたがる「合科目型」や教科の枠組みにとらわれない「総合型」の出題とし、コンピュータによる出題・回答(CBT)方式も検討する。成績は素点ではなく、段階別や標準化点数、百分位などにより提供する。
 こうした改革案については賛否両論あるが、高校・大学関係者は総じて批判的である。例えば大学新聞社が全国の高校2043 校を対象に実施したアンケート調査では(有効回答196 校、本紙第106 号・本年4月10日)、新テストに反対が73%だった。また、上記「提言」公表1カ月後に、中教審でも参考資料として配布された、全国の高校の校長と大学の学科長を対象に実施されたベネッセの調査では(有効回答と回収率は高校1228 名・49%、大学2015 名・40%)①現行制度に近い「共通試験を基礎とした上で各大学が多面的な評価を加えて実施する入学者選抜」に賛成が高校63%、大学61%②「基礎レベルの推薦・AO 入試への活用」に賛成が高校47%、大学48%③「基礎レベル・発展レベルの2種類の達成度テスト導入」に賛成が高校27%、大学37%だった。つまり、①の現行制度支持が6割強で最も多く、次いで複数回受験可となる点で現行制度の部分的改善にも見える②の基礎レベル支持が5割弱であるのに対し、③の2種類の達成度テスト支持は高校3割弱、大学4割弱で最も少ない。この結果は、③ではテスト過剰となり、高校の授業・課外活動や高校時代の過ごし方にさまざまな悪影響が及ぶという判断や、新テストの実施に伴う協力・対応負担が格段に増えるとの予想を反映したものであると推察される。
 問題はほかにもある。例えば、それらのテスト対応が高校や学習塾などで拡大するであろうから、結局、テスト学力は高まっても、改革推進勢力が期待するような学力・能力の向上にはならないどころか、むしろ低下することにもなりかねない。また、学習塾通いが増え、家庭の経済力等による格差がさらに拡大する可能性も予見される。さらに、中教審の審議経過報告は「幅広い資質能力の多面的な評価」を行うために「パフォーマンス評価やポートフォリオ評価」の開発・普及も必要だとしているが、評価過剰と教員のさらなる多忙化も危惧される。
 こうした経験的・直観的な判断・予想や危惧の背後には検討すべき根本的な問題がある。第一は、選抜・評価の方法やテストを変えれば、教育の質向上や時代のニーズに対応した能力形成が可能になると考える「道具主義・局所合理主義」の問題性である。第二は、選抜テストの精緻化と増加が「テスト対応教育の重視・拡大」と「テスト対応能力の学校間や家庭間の格差」につながる問題である。
 次回はこの点について、選抜テストの在り方とメリトクラシー、ペアレントクラシーの問題として論じる。





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