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第8回 大学で何を学ぶか(2)学習の目標
2015/12/14
連載 社会の地殻変動と大学
第8回 大学で何を学ぶか(2)学習の目標
金子 元久
前回は、大学教育の理念として「職業準備」「専門学術」そして「教養」教育の三つの考え方があるが、そのいずれかのみでは、大学教育は現代社会での役割を十分に果たすことができないことを述べた。そして重要なのは、大学教育を通じて何を「獲得する」かだと指摘した。
大学教育を、教育の「理念」という視点からだけでなく、個々の学生の学習、成長の視点に立ってみると、学生が獲得するべきものは、ただ一つではありえない。個人の知識や技能、さまざまな要因が重層的に作っているものだからだ。
知識・技能は次の三つの「層」からなると考えると分かりやすい。
①知識・技能
学術的な知識とその体系的な理解、職業で要求される知識・技能。
②汎用能力
論理的な考え方、コミュニケーションの能力、文章の書き方など、一般的に使われる能力、技能。
③自己認識
自分自身がどのような特質を持ち、将来に何をしたいのか、また社会の中でどのような役割を果たすのかについての認識。
三つの「層」のうち、知識・技能は、大学教育で学ぶこととして最も分かりやすい。前回であげた「職業準備」や「専門学術」という大学教育の理念は、この層を直接の対象としている。実際、大学の教員は、こうした知識の専門家として選ばれている。
しかし前回も述べたように、大学で学んだ専門的な知識をそのまま社会で使うことはあまりない。また卒業後に就く職業を、大学入学の時点で明確に決めている学生も少ない。しかも職業は多様化し、流動化している。
そうだとすれば、むしろ大学で身につけておくべきなのは、二番目の汎用能力だ、ということになる。仕事の場で、誰にも共通して要求されるのは、状況に的確に応じて、情報を収集・整理し、それをもとに他の人々と共に考え、判断すること、そしてそれを文章に論理的に表現することだ。
同時に重要なのは、職業の中で、要求する知識を柔軟に学習し、吸収する能力だ。それには、基本的な学習能力や、一定の考え方の基礎が必要となってくる。いわゆる「社会人基礎力」はこれにあたる。
実際、大学の専門的な教育も、その学習の過程で、そうした汎用能力が形成されることを想定し、期待している。いまの大学教育の課題は、それを単なる想定ではなく、明確な教育目的として設定することだ。
しかし、さらに考えてみると、大学での学習や、社会での仕事への取り組み、学習への意欲の基礎となるのは、自己認識が形成されていることだ。
多くの大学生にとって、そうした意味での「自分探し」は切実な課題になっている。大学卒業者の2割程度は、卒業時点で就職先が決まっておらず、また採用された学生も3年以内に退職・転職している。それにはさまざまな理由があるが、共通しているのは、やはり自分自身が何をしたいのかが明確でないことだろう。
また私どもが行った、事業所の人事担当者への調査でも、大学新卒者の最大の問題は、「人格的な成長」が十分ではないという点だった。
さらに重要なのは、以上に述べた三つの層は互いに独立しているのではなく、相互に依存していることだ。
汎用能力は、専門的な学問を身につける過程で作られる。また、未知の世界についての知識を学習することによって、自分が何をしたいかが、明確になってくる。逆に自己認識が、学習への意欲を作る。
大学での学習は、こうした意味で、三つの層での学習が、循環し、互いに補強しあう、ダイナミックな過程でなければならない。それに至る教育と学習が必要なのだ。次回では、この「成長」という観点から、大学教育を考え直してみよう。
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