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第68回 女子栄養大学 女子栄養大学短期大学部 理事長・学長  香川 明夫氏

2016/05/31

「実践栄養学」で健康社会を創造する
女子栄養大学 女子栄養大学短期大学部
理事長・学長  香川 明夫氏



  「食により人間の健康の維持・改善を図る」を建学の精神として掲げ、日本の栄養学をリードしてきた女子栄養大学(埼玉県坂戸市)・女子栄養大学短期大学部 (東京都豊島区)。全国一の管理栄養士国家試験の合格者数や就職実績など、その教育力の高さを誇る同大では2016年4月より新学長として香川明夫理事長 が就任した。2013年に創立80周年を迎え、今後の発展と飛躍を期待される同大の新たな時代に向けた「実践」について香川新学長にお話をうかがった。






単科大学としての強みを最大限に活かす

―新学長としての抱負をお聞かせください。
 
「不 易流行」という言葉があります。変わらない本質は、流行の中にこそ見出せるという意味です。本学には栄養・保健分野の教育と研究を80年以上にわたり実践 してきた歴史と伝統がありますが、それに甘んじることなく常に変化する時代に合わせたあり方を模索し、教育と研究の質をさらに高めていきます。
  大学には、教育と研究を通して社会に貢献する使命があります。今まで多くの栄養士・管理栄養士さらには養護教諭や家庭科教諭、臨床検査技師、栄養教諭を輩 出し、人々の健康に資する人材養成に努めてきました。創立者である香川綾の考案した「計量カップ・スプーン」や「四群点数法」など、画期的な考案や発表を 通して栄養学の発展に寄与しています。
 これらは現在本学が有する大切な資産でありますが、これからの多様化する社会に対応していくために、さらに教育と研究の質を高めることが私の責務だと考えています。
  「食」というものは人間の営みに直結したものであり、時代や地域、民族により多様性のあるものです、特に近年では、人々の価値観やライフスタイルの変化に より、健康志向の高まりであったり、逆に栄養の偏りが問題視されたり、さまざまな事象が散見されるようになりました。私はこれらの変化に対応できるような 柔軟性を持った「学び」をこれまで以上に本学に導入していくつもりです。食事というものは、個人的な要素が強く、10年先の食生活の予想をすることは意外 と難しいものです。しかし、時代を先取りして、人々の健康のための栄養学的な提言をしていくことは可能です。国家レベルでも国民の健全な食生活を目指す 「食育推進基本計画」の推進を行っていますが、本学では創立当初より「病気になってから治すのではなく、病気を防ぐこと」を目的とした「栄養学」を実践し てきましたので現代社会の「食」の問題を改善するための知見は充分に有しているといえます。


―貴学では料理の大切さを提唱しています。
  料理は栄養を実践するためのもので、そのためにはさらに調理技術を習得していかなければなりません。栄養学は食品を科学的に研究し、食品成分の健康に対す る作用を探求していく学問ですが、最終的には日々の食生活の問題となります。安全で栄養バランスに優れた食事であっても「まずい」ものでは人々に敬遠され てしまいます。
 おいしく食事を提供するための料理法は、栄養学を実践するためには必要不可欠のものなのです。
 そのため本学では、料理の実践を授業に取り入れています。栄養学的に考えられた献立をおいしく料理する技術を学びます。
 
1935 年に創刊された月刊誌「栄養と料理」は昨年創刊80周年を迎えました。同誌は学校法人香川栄養学園の前身「家庭食養研究会」の講義録として生まれました。 ご覧になられた方も多いと思いますが、誰もがおいしく栄養的に優れた料理のための料理法、レシピが満載されています。有名な「食品成分表」も同誌から誕生 しました。創刊当初より、「栄養学的に優れたおいしい食事の普及により、人々の健康増進に寄与したい」と願った香川綾の情熱と思いが同誌に込められ、現在 に至っています。


―食事は人間の営みの原点ですね。
 特に本学では、「食」という人間の根幹を支えるための学びとして、栄養学や料理法を包括して教えています。日々おいしく健康に役立つ食事をすることは誰にとっても楽しみなことです。
 栄養学的に完璧であるだけなら、サプリメントだけの食事でも良いことになりますが、それでは人生の楽しみが半減してしまいます。
  本学では、栄養学から食文化、養護教諭、臨床検査まで幅広く学ぶことができる学科を編成しています。そして、他大学と比較しても、授業数が多く学生にとっ てはハードな勉強となっています。それは、「食」と「健康」を支える有為な人材を世に送り出していきたいと考えているからです。そのため、教員には学生た ちに厳しく、かつきめ細かに指導するようにお願いしています。幸い本学は少人数の単科大学のため、一人ひとりに目が届きますので、入学後に学生たちは大き く成長していきます。
 また、少人数での学びをしていることで、学生同士切磋琢磨しつつも団結力があり、資格試験などにも協力して取り組んでいます。おかげさまで、管理栄養士の国家試験は全国でもトップクラスの合格率を誇っています。
 今後は、栄養学を牽引する大学としての誇りを持ちながら社会の変化に柔軟に対応していけるように、学内の環境と組織の整備に注力していきたいと思います。
 そして、建学の精神と共に創立者から受け継いだ「食は生命なり」の言葉を具体化するため、社会に貢献できる人材育成に邁進していきます。





「食」「健康」「栄養」による社会貢献が使命




 

女子栄養大学は外部機関とのコラボレーションに積極的なことで知られている。香川明夫学長と女子栄養大学常務理事で広報戦略室長を務める染谷忠彦氏に高大連携や産学連携についてお話をうかがった。

 

 

 

香 川:本学の高大連携事業は全国的に見ても相当な実績を上げていますね。

 

染 谷:その通りです。現在、全国の高等学校との連携協定調印は、39件になります。連携先高校の生徒や保護者への栄養指導やアドバイスなどの事案が多い現状ですがスポーツ栄養に関する連携も増えてきました。

 

香 川:スポーツ関連といえばアスリートを招いたスポーツ栄養セミナーも定着してきました。

 

染 谷:陸上やサッカー、スケートなど日本のトップアスリートの講演と本学教員によるスポーツ栄養指導を組み合わせたセミナーを全国主要都市で開催しています が、運動部のマネジャーや指導教員などに好評を博し、会場はいつも満員です。特に本学の上西一弘教授の「選手の健康管理―食事の面から」は実践的な講演と して終了後には質問者が列をなしています。

 

香 川:上西教授は東洋大学駅伝チームの栄養管理・指導を行っていますので、陸上部の高校生には本当に勉強になるようです。保護者も、日頃の食生活について大いに参考にされています。

 

染 谷:保護者に大学を理解してもらうためには、重要な存在ですね。本学のオープンキャンパスには保護者同伴の生徒が多く訪れますが、生徒と保護者をあえて、 別会場で説明会を実施するようにしています。特に保護者向けには本学に在籍する学生の保護者会メンバーによる説明がありますが、教職員の話より真剣に聞い ているくらい人気のプログラムとなっています。本学のオープンキャンパスにはリピーターも多く、何回も来ていただけるのは本当に嬉しいことです。

 

香 川:産学連携にも本学は積極的に取り組んでいます。寄付講座だけでなく、商品開発に関わる案件も多いですね。

 

染 谷:お弁当などの商品開発は、栄養学の知見を活かすことで、人々の健康につながりますし、企業も販売戦略として「女子栄養大学」ブランドに魅力を感じているので、共にメリットがあります。

 

香 川:こうした活動は社会貢献と共に、社会での認知度が高まる側面もあります。 

 

染 谷:その通りです。少子化で学生募集が厳しくなる中、本学のような少人数の単科大学には、「キラリと光る」ものが必要です。幸い「食」の分野は日々の食生活との関わりから多くの方に認識していただけるところがあります。

 

香 川:企業や地方自治体、学校への講師派遣事業もそうした役割を果たしています。本学卒業生や教員による栄養指導などの講演会を通して人々の健康な食生活に寄与すると同時に本学を知っていただくことにもつながります。

 

染 谷:地域との連携も大切です。坂戸キャンパスのある埼玉県坂戸市との連携は実践的なレベルとなっていて、重要な栄養素である葉酸を摂取するための取り組みなどを展開しています。同市では、市民の健康増進が医療費削減につながる成果が出ています。

 

香 川:養護教諭を目指す本学の学生を地域の小・中学校に約3カ月間派遣する「逆ギャップイヤー(長期学校体験実習)」も新たな取り組みです。教育実習より長い期間、現場で業務の厳しさや やりがいを体感することにより、養護教諭としての使命を自覚し、入職後のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。こうした新たな連携事業を通して、本学の学びを実践していく場を増やすことが教育の質を高めいくことにつながると確信しています。




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