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第77回 東京医科大学 学長 林由起子氏

2018/11/15

患者とともに歩む医療人を育てる
東京医科大学 林 由起子 学長
 
 100年を超える歴史と伝統を紡いできた東京医科大学(東京都新宿区)。思いやりの心と深い教養に裏付けられた最高水準の技能を持った医療人を育成するとともに、臨床を支える高度な研究を推進し、地域そして世界の健康と福祉に貢献することを目指している。
 今秋10月には、初の女性学長として林由起子氏が就任。林学長を訪ね、目指すビジョンや教育の強みに迫った。



「女性初」が強調されることのない
誰もが活躍できる社会へ
――広く社会から注目されていますが、学長就任に当たり、現在の心境をお聞かせください。
 学長に就任したことで、「女性初」と言っていただくことが非常に多いのですが、そこだけが強調されて取り上げられたり、注目されたりする風潮がないような社会を望んでいます。
 私自身は、男女の差は意識したことはなく、本学のミッションを遂行することが役目だと考えています。学生たちが性別などで左右されることなく、その能力や高い志によって活躍できる社会の構築を目指します。

――〝新生・東京医科大学〞が目指すビジョンをお聞かせください。
 本学は「自主自学」という建学の精神と、校是である「正義・友愛・奉仕」をベースに、「患者とともに歩む医療人を育てる」というミッションを掲げています。それはすなわち、病気だけを診るのではなく、その方のバックグラウンドなど内面も含めて、全人的に患者さんに寄り添うことのできる医療人を育てていくということです。
 社会的活動への参加や実習等を通して多様に活躍する多くの方々とふれあえる教育を積極的に取り入れ、現代の医療に求められているヒューマニティを感じ取って欲しいと思います。
 医療は日進月歩の世界です。学生には常に前を向いて情報収集をしながら、それに惑わされずに疑問を持ち、「自ら考える力」を養ってもらいたいです。

――どのような医療人を育てていこうとされていますか?
 医療とは、か弱き者に寄り添うべきものです。広い心を持った医療人の養成が私たちには求められています。患者さんは病気やケガなど、通常より弱っている状態であることに配慮した言葉のかけ方や接し方を身につけられる教育を目指しています。
 ありがたいことに、本学の卒業生はよく「優しい」と評価されることがあります。心豊かな医療人を育てるという本学の教育方針はもちろん、社会活動や部活動等を通した人と人との充実した関わりがそうした〝優しい医療人〞を育てることにつながっているのだと考えています。

――来年7月には、新たに大学病院が開院される予定だと聞きました。
 大学(新宿キャンパス)とは少し離れていますが、新大学病院(西新宿キャンパス)も教育の場として積極的に活用していく予定です。
 1年生から臨床の現場に出る場面も増えており、実際に病院がどのような流れで動いているのかを見ることができます。また、患者さんの様子を見ながら基礎を身につけられる機会を設け、可能な限り一貫して基礎と臨床に取り組めるようにしています。新大学病院ではそうした動きをより活性化してくれると期待しています。
 大学病院が新しく生まれ変わることに、学生たちはもちろん、私自身の胸も高鳴っています。
 今後の医療では、チーム医療が特に重要な役割を果たす中、本学は幸いにも医学科と看護学科が同じ敷地内にあり、授業や部活動等で交流があるため、より良い関係が築けていると自負しています。


基礎と臨床が融合した教育
時代のニーズに応える多様性

――近年、特に注力している取り組みを教えてください。
 医学科では、患者さんに寄り添うための臨床医学ばかりに重きを置くのではなく、生体のメカニズムを知るための基礎医学を相互的に修得できるカリキュラムを編成しているのが特徴の一つです。
 臨床医学と基礎医学は切り離すことができません。入学後、早い段階から臨床現場に入り実践的に学ぶと共に、基礎をしっかり学ぶことで、確かなスキルが身につき、良き医療人になれるはずだと考えています。

――昨今、医療従事者の不足が指摘されています。どのようなお考えをお持ちですか。
 極端な高齢社会となる今後の日本のことを考えますと、医療従事者の育成は急務です。一方、患者数や手術件数が多い地域には情報が集まり、アカデミックなチャレンジもその周辺に集まりがちなため、政府が中心となって地方での医療従事を促すような政策が打ち出されています。
 本学においても、地方出身者が卒業後に地元に帰るケースも少なくありません。
 そうした意味では、地方との連携も視野に入れ、交流を強化したいと考えています。
 本学には東京医科大学病院(東京都新宿区西新宿)のほかにも、東京医科大学茨城医療センター(茨城県稲敷郡阿見町)と東京医科大学八王子医療センター(東京都八王子市)があるため、まずはそれらの附属病院を中心に地域や他所との連携を深めていきたいと考えています。

――時代のニーズに応える多様な取り組みをなされている印象です。
 本学ではICTを活用して、実習の振り返りや疑問点を教員に直接聞くことができる環境を整えています。学生と教員双方が都合の良いタイミングでコンタクトが取れるようになり、勉強もスムーズになったように思います。
 また、本学は教育における目標の一つとして「国際交流を盛んにし、グローバルに活躍する人材を育成する」ことを掲げています。「国際交流センター」を設置しており、世界トップレベルの医学教育にふれることができるよう、医学科では海外留学を推奨しています。具体的には、6年生が約1カ月間海外の大学・病院で臨床実習を選択できる制度がある一方、海外からも日本の医療を学びに留学生が訪れています。世界と比較して、日本の医療はいま、どのレベルにあるのかを把握することで、より向上できるものと期待しています。

――進路を模索する高校生に向けてメッセージをお願いいたします。
 好きなことに好きなだけ取り組んでくださいと伝えたいですね。受験勉強に没頭していると視野が狭くなりがちです。医療人は多方向にアンテナを張り、情報をつかむようにしていかなければなりません。最低限の社会常識は必要ですが、常に新しいことに興味を持ち、積極的にアプローチしてみてください。
 例えばスポーツなどは、私も中学・高校時代にバレーボール部で活動していましたが、身体の仕組みを理解する上で効果的ですし、部活動を通して良い意味での上下関係を学ぶことができるため、人間形成にも役立つのが魅力です。医療に携わる者は体力も大事ですから、若いうちに運動する習慣を身につけておけば、必ずみなさんの役に立つでしょう。
 高校の先生方は、生徒のみなさんの好奇心をより後押しするような環境を整えて、あたたかく見守っていただきますようお願い申し上げます。

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