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第79回 国際基督教大学 第10代学長 日比谷潤子氏 

2019/04/19

他者との対話を尊重して世界に開かれた大学へ
国際基督教大学(ICU) 第10代学長 日比谷 潤子氏

                                     
 新しく導入される大学入学共通テストで、受験生の知識の深さや思考力・判断力・表現力がより明確に問われるようになるなど、「学力」の定義が見直される中、リベラルアーツ教育に対する注目度も年々高まっている。
 本稿では、1953年の開学時から一貫して、日本と英語の二言語によるリベラルアーツ教育を行い、独自の学びを追求してきた国際基督教大学(東京都三鷹市)の日比谷潤子学長に、リベラルアーツの学びの魅力やポイント、受験生に期待することなどについてお話をうかがった。


複数の専門領域による知見から
問いを深めるリベラルアーツ
――リベラルアーツはどのような特徴や魅力を持っているとお考えですか?
 リベラルアーツの大きな利点として、複数の学問領域を横断して知識や問いを深めていくため、自身の興味・関心を狭めることなく、自由に学びの可能性を広げていけるという点が挙げられます。
 これは、早くから就きたい職業や専攻分野を決めて、その分野に特化したカリキュラムで学んでいくスタイルとは、対極にある学びの在り方だと考えています。
 世間ではリベラルアーツというと、さまざまな科目を茫漠と学んだり、単なる一般教養を身につけたりといったイメージで捉えられがちな印象がありますが、それは大きな誤解です。リベラルアーツ教育においては、それぞれの学問領域における知見から、複眼的なものの見方や深い洞察力を身につけた上で、自身の専門性を磨いていくことが求められます。
 本学では専修分野のことを「メジャー」と呼んでおり、学生は2年次の終わりまでに一つあるいは二つのメジャーを選択します。リベラルアーツの教育システムにおいては、異なるメジャーを専攻する学生が同じ授業に参加し、教室内での対話を通して、新しい発想を互いに得るということが少なくありません。一例に過ぎませんが、このように専門分野の垣根を越えた学びを可能にする点が、リベラルアーツ教育の大きな魅力だと思っています。

――なぜ日本語と英語の二言語によるリベラルアーツ教育なのでしょうか?
 理由の一つが、本学の開学当時からの柱である「日英両語を学園用語(学びの言語と同時に生活の言語)とする」という理念を守るためです。
 実際に、主に英語を母語としない学生には、入学してから本学の「リベラルアーツ英語プログラム」を通して、アカデミックな活動ができる水準にまで英語の運用能力を高める訓練をしてもらいます。これは、主に日本語を母語としない留学生や帰国生なども同様で、彼ら・彼女らには日本語の運用能力をある程度の水準にまで高めてもらいます。このように、日英両語の運用能力を学びの言語として、さらに伸ばしていくような工夫は、カリキュラムの中でしっかり整えています。 
 また、キャンパス全体で日英バイリンガリズムを徹底しているため、生活の言語としても日英両語を扱うことになります。例えば、本学の学生寮では原則的に留学生は日本人学生と同室になるように部屋割りをしており、学生たちは言語の壁を越えた意思の疎通が求められます。こうした環境に身を置くと、日常生活の中で生きた英語や日本語の表現にふれる機会を多く得ることができます。
 もちろん、本学の学位を取得して卒業するためには、英語であれ日本語であれ、アカデミックでフォーマルな表現ができるようになる必要があります。しかし、そのような形の外国語学習とは別に、異なるバックグラウンドを持つ他者とコミュニケーションするためには外国語の修得が必要なのだと、心から実感するような体験も多く積み重ねて欲しいのです。
 その意味で、日英両語によるリベラルアーツ教育を一貫して行う本学の言語学習環境には、非常に大きな意義があると自負しています。
 また、私たちはあえて二つの言語で学ぶことによって新たに見えてくる視点というものがあると考えています。そうした視点をぜひ獲得して欲しいと期待しています。
 さらに、現在は「2+1」といって、日英両語に加えてもう一つの言語を学ぶことを学生たちに推奨しています。これは、EU(ヨーロッパ連合)における「1+2」という考え方に通底するものです。域内の言語の多様性を文化の多様性として認め、その一つひとつをヨーロッパ全体の財産として守っていくという姿勢を強く打ち出しているEUでは、母語に加えてEU域内の二つの言語を学ぶことが提唱されています。
 本学でも数年前に「ユニヴァーサル・アドミッションズ」という入学者選抜制度を導入しました。これ以降、日本語も英語も母語としない留学生の志願者が増加しています。入学者数はそれほど多くはありませんが、世界中から集まる留学生のバックグラウンドも多様化し、豊かな広がりを見せ始めています。

――留学生活の充実度を高めるために、どのような支援体制を整えていますか?
 仮に海外の大学で長期の留学をしながら、4年間で本学の卒業を目指そうとすると、卒業要件として認められる単位を留学先で十分に修得してくる必要があります。そもそも、海外の大学で授業を受けて単位を修得するには、アカデミックなテーマの内容について、英語等でレポートや小論文が書けることが前提になります。
 ですから、留学前にアカデミックなトレーニングを受けておくことはとても大切で、本学では学部1・2年次のリベラルアーツ英語プログラムを通して、学生の英語力を丹念に鍛えていきます。とはいえ、高校時代に培う基礎力も非常に大切です。特に英語の「読む」力は重要で、読まないと語彙が増えず、書く力も伸びていかないため、読むことはすべての基本と思って高校時代から大切にしていただきたいと思います。

――今春から「学士・修士5年プログラム」に新コースを設置するとうかがいました。
 学士・修士5年プログラムは、学部で優秀な成績を収めた学生を対象に、最短1年間で博士前期課程の修了を可能にするというものです。リベラルアーツの素養を持ったプロフェッショナルを育成するため、今年の4月から三つのコースを新設します。
 「外交・国際公務員養成コース」では、国際連合をはじめ、多くの国際機関で働いている本学の卒業生にサポートしてもらい、外交分野や国際公務員のキャリアを目指す学生にステップアップの道筋を示します。「責任ある経営者・金融プロフェッショナルコース」では、経営ビジネス・金融を学ぶと同時に、企業の社会的責任(CSR)をいかに果たしていくかということも含めて、学びを深めてもらいます。「国際バカロレア(IB)教員養成コース」では、教員の道を志す学生たちに対して、IB校の教員になる選択肢も用意できるようにということで、この三つの柱を整えています。


興味・関心のあることを入り口に
外国語になれ親しんで欲しい

――今後の目指す方向性を教えてください。
 大学とは、本来は世界中の人々に開かれているものです。日本の大学全体の水準を客観的に捉えようとする時、国内大学で学びたいと考えてくれる留学生の数は大きな判断材料になります。
 その意味で、本学が導入したユニヴァーサル・アドミッションズの入学者選抜を通して、より多くの国からたくさんの留学生が入学してくれることを期待しています。さらに、本学で学位を取得したいという留学生が増えてくれれば嬉しいですね。

――入学志望者にどのようなことを期待しますか?
 本学の受験に当たって、英語が得意でなければとても無理だと敬遠する人が多いとしばしば耳にしますが、それは大きな誤解です。仮に英語が苦手であっても他の科目が得意であれば、十分に挽回ができる試験内容です。
 本学の授業では長文の課題図書や論文を課すことが多いため、ある程度の量の文章を限られた時間の中で読み、要旨をつかむということに慣れていない人は、入学してから苦労することが多いかもしれません。逆に言えば、長文の文章を読むことを苦に感じないという人は本学に向いているでしょう。
 さらに、同じテーマの内容について異なる視点から主張が述べられている文章を読み、自分はどちらの主張に賛成・反対なのか、あるいはどちらの主張でもない第3の考え方を支持するのかといった姿勢で、本を読む習慣を身につけておくと良いでしょう。そうした読み方ができていれば、入学後の学びがとても刺激的に感じられるでしょうし、英語力も飛躍的に伸びると思います。
 また、本学のリベラルアーツ教育では幅広い専門分野を学ぶことを重視しているので、普段から小説を読むことが好きな人は、たまには科学的なテーマを題材とするドキュメンタリーに挑戦してみるなど、あまり偏らずにさまざまなジャンルに好奇心を持っていただきたいと思います。
 もちろん英語がとても好きで得意な人を排除しているわけではありません。そういう人に向けては、英語の民間資格・検定試験における高水準のスコアを課すような選考も用意していますので、出願先の候補としてぜひ本学を検討して欲しいですね。

――高校の先生方にメッセージをお願いします。
 いまは大学入学共通テストにおける英語の民間資格・検定試験の導入など、外国語教育が大きな話題となっていますが、試験対策を目的とする外国語教育が高校生のみなさんにとって本当に実りあるものになるのでしょうか。
 あらゆる分野でそうなのかもしれませんが、何か興味・関心が持てるものを見つけた時に、より詳しく知りたいという望みが強くなれば、自然と外国語を学ぼうという気持ちになると思うんですね。
 例えば、サッカーが好きなのであれば、試合後のスペイン人選手のインタビューを見てスペイン語を理解してみたいと思うかもしれません。あるいは、茶の湯に興味のある高校生であれば、伝統的な日本文化である茶の湯の文化が海外でどう受け止められているのかといったことに興味が出てきてもおかしくはありません。そうしたことをきっかけに、外国語に興味を持つ高校生が増えてくれたら嬉しく思います。
 本学はコミュニケーションを重視した言語学習環境を整えていますが、「二枚目だけでは芝居ができない」というのと同様に、さまざまなタイプの人材がいるということが大切だと考えており、意思疎通が得意な人だけではなく、常に沈思黙考しているような人も受け入れます。リベラルアーツ教育においては年齢も関係ありませんから、さまざまな人がお互いの個性を認め合って、学びを深められるような環境をこれからも築いていきたいと思っています。

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