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第81回 日本体育大学 第12代学長 具志堅幸司氏 

2019/05/22

スポーツ文化のさらなる可能性を創造し、豊かな社会を実現する
日本体育大学 第12代学長 具志堅 幸司氏
                                               


 「體育富強之基(たいいくふきょうのもとい)」を建学の精神に据え、体育・身体活動・スポーツを通じて健康で豊かな社会・人づくりの実現を目指す日本体育大学(東京都世田谷区)。体育スポーツ学、教育学、保健医療学分野における先駆的・実践的研究を通じて、その真理を探究するほか、2020 年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、スポーツ文化の深化・発展に努めている。第12代学長・具志堅幸司氏に、同大の教育における展望や自身の現役時代について語っていただいた。





スポーツを通じて
豊かな社会の実現を目指す

――貴学の建学の精神「體育富強之基」が目指す姿についてお聞かせください。
 本学は1891年の創設以来、スポーツを基軸に教育や健康・福祉等の分野で数多くの人材を育成・輩出し、地球上のすべての人々の願いである「心身の健康」を一貫して追求してきました。また、1964年の東京オリンピックを契機に、優れたアスリートの要請にも注力し、日本のスポーツ界の国際競技力向上に貢献しています。実績として、オリンピックで日本が獲得したメダルの4分の1は本学の関係者によってもたらされています。こうした歴史と伝統は、世界に誇るべき実績と言えるでしょう。
 2020年には再び、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。私たちにとって、ここを新たな歴史のターニングポイントと捉え、その先の未来を見据えた取り組みを展開していかなければなりません。世界共通の人類の文化であるスポーツを通じて、生涯にわたって笑顔あふれる幸福で豊かな社会の実現を目指していきたいと考えています。

――近年は新たな学部・学科の新設もされています。
 本学は2013年に「児童スポーツ教育学部」、14年に「保健医療学部」、18年に「スポーツマネジメント学部」を設置するなど学部・学科体制を変え、現在は5学部9学科で学びを展開しています。
 将来は「全学統一カリキュラム」を作る構想もあります。5学部を横断して、日体大生らしさを体現できるようなカリキュラムー例えば、「保健医療学部の学生がオリンピアに関する座学や実技を履修する」あるいは「体育学部の学生が救急救命士を目指す上で必要な心肺蘇生の授業を受ける」など、日本体育大の学生であるということを実感できるカリキュラムを取り入れることが理想です。
 今後も「スポーツ」「身体」「生命」をキーワードに、学問の射程を拡大・深化させながらその魅力を発揮できるよう取り組んでまいります。

現役時代はオリンピック出場
人一倍の努力が強みに

――貴学の学生の特徴をお聞かせください。
 学部・学科の増設に伴い目指す進路が多様化したことで、良い意味で学生も変わってきていると感じています。また、本学は体育・スポーツを通して学び、成長していくところですから、その意味では障害を乗り越えられる、打たれ強い学生が多いという印象を持っています。
 卒業後の進路については各スポーツ界の選手をはじめ、民間企業や教員などへ進んでいます。特に、教員に関しては、年間で卒業生を含め350人程度が教員採用試験に合格し、中学・高等学校の保健体育の先生として活躍しています。全国各地にOB・OGがいるのも本学の特徴です。
 キャリア教育については、喫緊に取り組まなければならない課題だと認識しています。特に、教育課程や取得可能な資格・免許、就職先などを中心に学部・学科間の棲み分けを鮮明にした魅力ある大学づくりは欠かせません。これまでの本学の伝統や強みである教職を柱に据えながらも、一方で、企業や教職を除いた公務員就職者が6割強という現実も踏まえて、人材の育成に努めていきます。

――具志堅学長ご自身は現役時代、体操選手としてご活躍されていました。
 私は84年のロサンゼルスオリンピック競技大会に出場し、個人総合とつり輪、鉄棒の種目で金メダルを獲得しましたが、最初から完璧に演技できたわけではありません。団体の自由演技であん馬を失敗し、そこで順位を5位まで落としてしまってからが勝負でした。
 個人総合の試合前は、バスの中でイメージトレーニングをしていましたが、あん馬は一度失敗しているため、本番をイメージすると心臓が飛び出しそうなくらい緊張しました。しかし、集中して6種類の競技のイメージトレーニングを終えた時、優勝している自分の姿がハッキリと想像でき、実際に金メダルを獲得することができました。

――挫折を感じた経験はございますか?
 もともと、恩師である先生には「体操に対する素質がない」と言われていました。その代わり、努力する素質を認められました。私自身も不器用で脚力がないと感じていたため、人一倍努力をしました。気持ちを持ち続ける強さが人よりも強いのかもしれません。辛さや悔しさを感じる時は、バネにして頑張ろうと考えました。
 私は現役時代、ケガでしばらく練習ができなくなったことが何度かありますが、入院中も競技のことを考えるようにしていました。できなかった技を入院中に頭の中で繰り返し想像し、頭の中で完成した映像を作りあげたのです。
 また、80年のモスクワオリンピックの時、日本はボイコットで出場することができずに悔しい思いをしたので、4年後のロサンゼルスオリンピックでは、自分の力を発揮したいと意気込んでいました。ケガをしてしまった時も、現役を引退しようと思った時も、やはり戻る道は体操でした。

2020年に向けて
大学一体となり支援体制を

――2020年のオリンピック・パラリンピックに向けた展望をお聞かせください。
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、本学からは70人の選手を輩出したいと考えています。そのため、体育・身体活動・スポーツの価値を理解した高い競技力を有する学生アスリートの育成を目指しています。ロンドンオリンピックでは30人でしたから、ハンドボールやラグビー、柔道、レスリング、水泳などさまざまな種目でメダルを狙いたいところです。
 また、本学の学生には将来、国際社会や地域社会において、そのリーダーとして十分な素養を備え、活力に満ちた社会の創生を担える人材へと成長してもらいたいと思っています。また、アスリートとしても高い競技力を有すると共に、体育や身体活動、スポーツの価値を理解し、他者の憧れ、すなわち「生き方」のモデルとなるような学生生活を送ってもらいたいと思います。
 オリンピックの目的の一つはメダルの獲得ですが、国際平和を実現することもまた、果たすべき役割だと考えています。本学はスポーツ庁より全国展開事業の委託を受け、オリンピック・パラリンピック価値の理解を深めると共に、国際・異文化理解の涵養と共生社会の実現を目指しています。現在、先行例として全国7県・市で積極的にワークショップやセミナーなどを開催しています。大会を機にスポーツの価値を学び、スポーツを通して平和の実現に貢献し得る人が増えるようサポートしていきます。
 加えて学生にはボランティアへの参加を促しており、オリンピック・パラリンピック競技大会期間中は学校の授業を休講とする予定です。世界平和に向けて、本学が果たす役割は大きい。だからこそ、オリンピックの組織委員会から依頼があれば、施設の提供や事前キャンプも行う予定です。大会成功と世界平和に向けて、全面的に協力していきたいと考えています。

――高校生や教育関係者に向けてメッセージをお願いします。
 進路に悩んでいる方は、自分がいままで生きてきた中で、一番褒められたことや嬉しいと感じたことを振り返ってみてください。自分自身の得意分野や不足している能力、嬉しいと感じる瞬間などを通して自分を知ることが、将来目指す姿につながると思います。
 また、高校の先生方は生徒の進路に正解を出すのではなく、考えを引き出すことに注力していただきたい。そして出てきた考えを褒めてあげることです。例えば「オリンピックでメダルを獲得したい」という夢も、実際に取ることができるかどうかは関係なく、言葉にできるかどうかが自分を形づくるために重要です。
 加えて、理想の自分になるためには人との出会いも大切になってきます。理想とする自分になろうとする思いが強ければ強いほど、人生に影響を与える人との出会いがあります。その方たちの話に対して素直に耳を傾けるのも自分探しに必要なことでしょう。



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