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第1回 大学入試改革を支える入試研究
2019/05/22
連載 入試研究からみた大学入試
第1回 大学入試改革を支える入試研究
「平成」が終わり、「令和」の時代が始まった。令和3年4月に大学生となる現・高校2年生は、まさに新しい時代の大学入試を目前に準備を進めていることだろう。周知の通り、令和2年度に実施される大学入試では、大学入試センター試験が廃止され、新たに「大学入学共通テスト」が実施される。記述式問題の導入や民間英語資格・検定試験の利用などが大きな変更点となる。各大学の個別選抜においても、学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」)を多面的・総合的に評価する入試への転換が推進され、多くの大学が令和3年度入試に向けた予告を公表しているところだ。
ところで大学は、どのように入試改革を検討しているのだろうか。大学としては優秀な人物を獲得できる入試制度にしたい。受験生にとっては、公平で信頼のできる入試制度でなければならない。ほかにもさまざまな要因を考慮する必要がある。当然のことながら、経験論や思いつきで検討しているわけではない。
こうした議論を支える基盤となっているのが「入試研究」と呼ばれる存在だ。例えば、学力や能力等の評価技術について心理測定学的に検討するもの、志願動向のメカニズムや入試広報の効果などについて経営学的に検討するもの、高大連携プログラムの効果について教育学的に検討するものなど、多様な学問分野を基盤にしている。さまざまな研究が『大学入試研究ジャーナル』という雑誌にまとめられているのでぜひご覧いただきたい(大学入試センターのウェブサイトに掲載)。少し専門的な内容もあるが、入試研究のイメージがつかめるだろう。これらの研究に取り組むのは、個々の研究者だけではない。大学入試センターには、教育学、心理学、統計学などの研究者で構成された研究開発部という組織がある。また、入試業務に専門的に携わるアドミッション部門を設けて入試研究に組織的に取り組む大学もある。
では、なぜ入試研究のような基盤が必要なのか。当たり前の話だが、各大学の入試制度はそれぞれの大学が設計する。18歳人口の減少が進む中、入試制度設計は学生獲得戦略の重要な要素である。高い精度の評価方法や志願者動向のメカニズムに関する知見や技術に加えて、高大接続改革のもとで進められている政策的な事項も考慮しなければならない。となれば、信頼できる情報や根拠に基づく議論が欠かせない。これらは、個々の大学の実情や目標からみた個別的視点での検討と言えるだろう。
一方、大学受験に向けて高校の授業内容や学習活動が構成される「受験シフト」という言葉があるように、大学入試の存在は高校教育に強い影響をもたらしている。こうした影響力は、「波及効果(washback effect)」と呼ばれる。受験シフトは、その負の側面が強調されたものであろう。しかし、入試で課される教科・科目の数や種類は、大学進学を目指す受験生の学習内容や学習量と密に関係する。過去の良質な入試問題は、受験生にとって良質な学習教材ともなってきた。こうした実態を踏まえれば、大学入試は大学の専権事項であると同時に、国内の教育システムの一部として機能してきた側面を持つと言えるだろう。東北大学の倉元直樹教授は、「(大学の)近視眼的な個別利益の追求は次第に高校以下の教育を疲弊させる帰結をもたらす」ことを指摘する。大改革であればあるほど、高校以下の教育に配慮した入試設計が求められる。つまり、大学個別の利益と共に、教育システムの一部として、大学入試の役割を問い直す視点を持つことが入試研究に課せられた重要な使命なのである。
筆者は、これまで入試研究に取り組んできた。現在は佐賀大学の入試設計も担っている。以降の連載では、大きな改革が実行に移されていく中で、入試の在り方を捉えるための視点について考えていきたい。
第1回 大学入試改革を支える入試研究
西郡大
「平成」が終わり、「令和」の時代が始まった。令和3年4月に大学生となる現・高校2年生は、まさに新しい時代の大学入試を目前に準備を進めていることだろう。周知の通り、令和2年度に実施される大学入試では、大学入試センター試験が廃止され、新たに「大学入学共通テスト」が実施される。記述式問題の導入や民間英語資格・検定試験の利用などが大きな変更点となる。各大学の個別選抜においても、学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」)を多面的・総合的に評価する入試への転換が推進され、多くの大学が令和3年度入試に向けた予告を公表しているところだ。
ところで大学は、どのように入試改革を検討しているのだろうか。大学としては優秀な人物を獲得できる入試制度にしたい。受験生にとっては、公平で信頼のできる入試制度でなければならない。ほかにもさまざまな要因を考慮する必要がある。当然のことながら、経験論や思いつきで検討しているわけではない。
こうした議論を支える基盤となっているのが「入試研究」と呼ばれる存在だ。例えば、学力や能力等の評価技術について心理測定学的に検討するもの、志願動向のメカニズムや入試広報の効果などについて経営学的に検討するもの、高大連携プログラムの効果について教育学的に検討するものなど、多様な学問分野を基盤にしている。さまざまな研究が『大学入試研究ジャーナル』という雑誌にまとめられているのでぜひご覧いただきたい(大学入試センターのウェブサイトに掲載)。少し専門的な内容もあるが、入試研究のイメージがつかめるだろう。これらの研究に取り組むのは、個々の研究者だけではない。大学入試センターには、教育学、心理学、統計学などの研究者で構成された研究開発部という組織がある。また、入試業務に専門的に携わるアドミッション部門を設けて入試研究に組織的に取り組む大学もある。
では、なぜ入試研究のような基盤が必要なのか。当たり前の話だが、各大学の入試制度はそれぞれの大学が設計する。18歳人口の減少が進む中、入試制度設計は学生獲得戦略の重要な要素である。高い精度の評価方法や志願者動向のメカニズムに関する知見や技術に加えて、高大接続改革のもとで進められている政策的な事項も考慮しなければならない。となれば、信頼できる情報や根拠に基づく議論が欠かせない。これらは、個々の大学の実情や目標からみた個別的視点での検討と言えるだろう。
一方、大学受験に向けて高校の授業内容や学習活動が構成される「受験シフト」という言葉があるように、大学入試の存在は高校教育に強い影響をもたらしている。こうした影響力は、「波及効果(washback effect)」と呼ばれる。受験シフトは、その負の側面が強調されたものであろう。しかし、入試で課される教科・科目の数や種類は、大学進学を目指す受験生の学習内容や学習量と密に関係する。過去の良質な入試問題は、受験生にとって良質な学習教材ともなってきた。こうした実態を踏まえれば、大学入試は大学の専権事項であると同時に、国内の教育システムの一部として機能してきた側面を持つと言えるだろう。東北大学の倉元直樹教授は、「(大学の)近視眼的な個別利益の追求は次第に高校以下の教育を疲弊させる帰結をもたらす」ことを指摘する。大改革であればあるほど、高校以下の教育に配慮した入試設計が求められる。つまり、大学個別の利益と共に、教育システムの一部として、大学入試の役割を問い直す視点を持つことが入試研究に課せられた重要な使命なのである。
筆者は、これまで入試研究に取り組んできた。現在は佐賀大学の入試設計も担っている。以降の連載では、大きな改革が実行に移されていく中で、入試の在り方を捉えるための視点について考えていきたい。
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