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第7回 進みつつある大学入試のICT化

2019/12/26

連載 入試研究からみた大学入試

第7回 進みつつある大学入試のICT化

西郡大

 令和4年度に実施される入試をめどに、全面的に調査書の電子化を目指す方針が示され、既に文部科学省による調査研究の委託事業が進行中だ。「『一般選抜』における調査書等の活用の普及拡大については、調査書等の電子化や活用システムの構築などが不可欠であり、それらが早期に検討・実施されることを求める」(国立大学協会、平成29年6月)といった背景があるからだ。欧米の大学入試では、インターネット上で必要な情報を登録すると、一括して複数の大学に出願できる仕組みがあり、共通の出願情報以外にも各大学が求める志望動機やエッセイなどを入力できる。一方、日本の大学入試においては、インターネット出願の普及により種々の情報が電子化されているものの、出願情報(本人情報や志望学科など)に限った電子化にとどまっている。そのため、インターネット出願の仕組みを導入していても、志望理由書や活動実績報告書などは書類で提出させる大学が依然として多い。こうした中、筆者の所属大学では、選考書類の申請から採点作業までを一貫して行える電子書類採点システムを民間機関と共同で開発し、昨年度より一般入試で導入している。第7回は書類審査の電子化を中心に、大学入試のICT化を考えたい。
 まず、書類審査の電子化の主なメリットを3点挙げる。1点目は、事務作業の効率化による評価期間の短縮だ。書類の電子化によって、各書類への受験番号の印字や関連資料の整理、採点者人数分のコピーといった事前の事務作業が不要となり、評価期間の短い入試においても書類審査を導入しやすくなる。
 2点目は、効率的な採点作業および評価精度の向上だ。申請情報が電子化されるとはいえ、自動採点は現状では難しく、採点者がパソコンの画面上で情報を確認しながら評価することになる。ただし、効率的に採点を行うための画面表示、条件指定による受験者や申請書の抽出・並び替えといった紙ではできない処理により、採点作業は格段に効率化を図れる。また、各採点者の得点分布をリアルタイムで把握し、必要に応じて評価作業を修正するなど、評価の精度を高めることも可能だ。
 3点目は、受験者にとってアピールできる材料の広がりだ。従来の書類審査であれば、書類の枚数制限を行わざるを得ないが、申請情報の電子化により、ドキュメントだけでなく写真、動画、音声、eポートフォリオ等の提出が可能となる。評価する大学にとっても従来以上の情報を得られることになり、豊富な情報をもとにていねいな評価をしたいと考える募集単位にとっては有効な仕組みとなるだろう。面接試験などと組み合わせれば、より掘り下げた評価も可能となる。
 ところで、主体性評価というと「eポートフォリオ」の導入が前提という認識が一部にあるようだが、それは必ずしも適切ではない。ポートフォリオは生徒による学習と活動の履歴や振り返りと共に、それらを活用した教育的指導があってはじめて効果を発揮する。単に入試に向けた材料蓄積のツールとして利用するのであれば、eポートフォリオである必要はない。
 大学入試にはICT化の波が押し寄せている。調査書の電子化が本稼働すれば、この流れはより加速するだろう。そうすることで新たに生じる課題もあるだろうが、まずは新しく何ができるかを建設的に考えることが大切だ。例えば、レポートや論文の剽窃をチェックできる仕組みを利用すれば、人の目では気づかなかった視点から評価ができるかもしれない。また、入学後のパフォーマンスや学業成果を示す指標と組み合わせた分析が容易となり、入試制度の効果検証も充実する。そもそも「多面的・総合的な評価」とは、受験生に関する多様で豊富な情報を多角的に評価することだ。人間の情報処理能力には限界がある。ICTを活用することで多面的・総合的な評価をどのように支援できるのか。入試研究の新しい課題と言える。


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