トップページ > 連載 入試研究からみた大学入試 > 第8回 大学入試におけるCBT活用を考える

前の記事 | 次の記事

第8回 大学入試におけるCBT活用を考える

2020/02/14

連載 入試研究からみた大学入試

第8回 大学入試におけるCBT活用を考える

西郡大

 昨年末、大学入学共通テストへの記述式導入の見送りが決定され、約55万人の受験生が挑む一斉試験に新しい仕組みを導入することの難しさを改めて認識することとなった。一方で、高大接続改革の議論では、CBT(Computer Based Testing)の導入も提案されている。平成29年の「大学入学共通テスト実施方針」( 文部科学省) には、CBT導入に向けた調査・検証を行うと示されているが、解決すべき課題も山積みのため、記述式導入の轍を踏まぬよう慎重な検討が求められる。筆者の所属する佐賀大学は、個別選抜にCBTを3年前から導入した。第8回は、大学入試におけるCBT活用について考えたい。
 佐賀大学のCBTは、PBT(Paper Based Testing)では問うのが難しい学力について、デジタル技術を用いて評価することを目指したものだ(PBTの廃止が目的ではない)。現在は3タイプある。まず、「基礎学力・学習力テスト」だ。教科書の基礎的な問題を択一式で出題し、試験時間内に受験者自身が解答を確定させると即座に自動採点される仕組みである。そこで誤答となった問題には、当該問題を解くために必要な知識や考え方を「解説文」として表示する。受験者は、解説文を確認した上でさらに類題を解き、それに正解すれば一定の学習力があると評価される。採点結果は、その後の面接試験の参考資料となる。その他のタイプには科学的な現象を動画で示し、その現象を説明させたり、関連情報を与えることで類似の科学的事象を推論させたりして観察に基づく思考力・判断力等を問うものや、英語のリスニングとスピーキングの能力を評価するものがある。これらのテストは、推薦入試やAO入試など受験者数が限られた試験で実施しており、一定の成果を収めている。
 すでに私たちの周りには種々のデジタル教材やe–ラーニングシステムなどが溢れており、これらを選抜試験の仕組みとして導入すれば、容易に実施できる気がする。しかし、これまでの大学入試でタブレット等を利用した事例は見当たらない。その最大の理由は、試験運用の難しさだろう。まず、受験生の慣れの問題である。誰もが馴染みのあるPBTと異なり、タブレットを用いる試験の在り方を受験生に正確に理解してもらう必要がある。テストの仕組みや操作方法が理解できずに解答できないという事態は絶対に避けなければならない。すでに定着している大学入試センター試験の英語リスニング試験でさえ約30分の説明時間を設けているように、新しい試験を導入する際には、試験監督の指示まで含めて慎重な準備が求められる。次に、トラブル時の適切な対応だ。システムトラブルはもちろん、試験中の地震の発生や周囲の受験者の嘔吐などにより、試験を一時中断しなければならないことがある。この場合、中断した時間の分だけ試験時間の延長が必要になるが、タブレットの場合、試験中断の間も時間は進む。オンライン試験であれば全端末を一斉に制御できるが、セキュリティの確保やネットワークの安定性など、別のリスクやコストが生じる。このように大学入試は、円滑な試験運用に向けて、さまざまなトラブルの発生を想定し、すべての受験生が同じ条件で試験を受けられる環境を整えなければならないのだ。
 こうした中で、CBT導入に向けて試行錯誤した経験から分かったのは、入試の運用面におけるPBTの優れた安定性だ。逆に言えば、伝統的な入試の在り方は、PBTであることを前提に試験が構築されているため、CBTであるが故に生じる課題への対応は容易ではない。この枠組みを前提にする限り、一発勝負の性格を持つ大規模な一斉試験にCBTを導入することは極めて困難だと思われる。高大接続改革の中でCBT導入を議論するのであれば、高等学校で修得すべき基礎学力やスキルの定着を測定するツールとして位置づけるほうが現実的なのかもしれない。


[news]

前の記事 | 次の記事