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第84回 群馬医療福祉大学 学長 鈴木 利定氏

2020/11/13



チーム医療をさらに深める多職種連携の学び
群馬医療福祉大学 学長 鈴木 利定氏



 真心を育てて人の道を行う「仁」を建学の精神に掲げる群馬医療福祉大学(群馬県前橋市)。人格教育と医療・福祉・教育の専門的な学修を受けた有為な人材を地域社会に多数輩出している。令和3年4月、同大は医療技術学部を新設する。医療福祉の総合大学としてさらに学びを究めようとする教育について、鈴木利定学長にお話をうかがった。



ボランティアの概念を越え「サービス・ラーニング」へ
――群馬医療福祉大学の特色について教えてください。
 最大の特色は「ボランティア」です。本学の学生は全員が何らかのボランティア活動に参加しており、幅広い活動を通して実践主義の考え方を身につけてきました。
 しかし、従来のボランティア活動は、依頼を受けて労働力を提供するケースが一般的であり、大学生の活動としては少しもの足りない。そこで本学では今年度より、ボランティア活動を「サービス・ラーニング」という名称に変更し、より主体性を持って活動できるように一新しました。
 例えば、従来は地域のイベントで当日の運営を手伝っていたボランティアが、サービス・ラーニングでは企画段階から携わるようになります。日常的に小学校や中学校、公民館などに足を運び、年間行事などにも積極的に参加する実践主義の学びだからこそ、企画段階から地域の方々と協力することができるのです。

――「実践主義」は授業にどのように影響していますか?
 本学は医療・福祉・教育の学部を有しており、実習の機会が多くありますが、専門職業人を育成するための高度な内容ということもあり、単純に座学で知識だけを詰め込んで実習に出てもすべてを理解することは難しいでしょう。しかし、先に実践の場を経験してから座学で学ぶと「あの時経験したことはこういう意味だったのか」と、スムーズな理解につながります。実践が先行することが、各教科の学びを深めていきます。
 もちろん、厚生労働省等で定める実習は他大学同様3・4年次が中心ですが、1・2年次のうちからサービス・ラーニングという実習の前段階の実践経験を積むことで、格段に力は伸びるはずです。


社会的な要請に応える医療技術学部を新設
――医療技術学部新設の経緯をお聞かせください。
 これまで医療系・福祉系の人材を養成してきて、ほかにどのようなエキスパートが求められているのかを考えた時に、さまざまな医療関係者の方から話を聞き、看護系や福祉系と比較して養成機関が少ないことから、社会的なニーズに応え得る臨床検査技師と臨床工学技士を育てようという考えにたどり着きました。医療業界、特に医師が激務であり、人材が不足していることは世間で知られている通りです。もちろん医師の業務は医師にしかできないものがほとんどですが、その助手としてなら、機械の操作等、サポートできる部分も実はたくさんあります。しかし、大きな病院でも、医療機器の操作を医師自ら行っているところが少なくないと聞きます。医療全体の負担を減らすことができるのではないか。
 また、現在の新型コロナウイルス感染症拡大の中「日本の医療技術者の絶対数が不足している」という実態が露見しました。PCR検査を行うのは基本的に臨床検査技師ですし、治療の過程で人工呼吸器等を管理するのは臨床工学技士の役割です。慢性的に人材が不足していたところにコロナ禍でその傾向が加速しており、人材養成は急務となっています。

――医療技術学部の特色を教えてください。
 保育士・社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士・看護師・保健師・理学療法士・作業療法士といった幅広い専門職業人を養成している本学ならではの「チーム医療」を学べる環境が充実しています。本学では現在、週に何度か各学部を集めて合同授業を行っており、そこでは広い意味での医療を身につけることができます。多職種連携を学生時代から自然と身につけた医療技術者の現場対応力は、考える以上に大きなものがあります。臨床検査技師と臨床工学技士が加わり、さらに幅広い職種が連携することで、福祉マインドを持つ医療技術者の養成を目指します。
 もう一つの特色は、複数の国家試験受験資格を取得できる点です。臨床検査技師と臨床工学技士を目指す学生が学ぶ内容には、共通科目が多数あります。もちろん、国家資格を二つ取得することを目指すというのは勉強なども容易ではなく、相応の努力が必要になります。
 「ダブルライセンスをスタンダードに」というのは、他学部でも取り入れている考え方で、社会福祉士と精神保健福祉士などのように、隣接する諸領域の国家試験受験資格を同時に取ることを勧めています。卒業してから「やはりあの資格もあると役立つ」と考えて勉強し直すより、吸収力があり勉強に集中できる環境がある学生時代に打ち込めるのは大きなアドバンテージとなるはずです。


地域と共に成長する大学 挨拶と礼儀を大切に
――新しい学部が加わることで、大学全体ではどのような変化が起こるでしょうか?
 医療技術学部の新設と共に、新校舎での学びがスタートします。広い学生ホールを設け、他学部との合同授業なども行います。学部の垣根を越えて交流し、互いの専門性が融合することで、さらに広い視野を培うことができるでしょう。
 臨床検査学と臨床工学に精通した高度な医療技術者を養成するため、施設・設備等の充実度を高めています。そうした設備を他学部の学生でも使用することができるというのも新しい試みです。カリキュラムが他学部の授業を受講できるようになっており、自分の専門領域にとどまらないプラスアルファの専門知識を身につけることができます。患者の生命の行方を左右しかねない医療現場では、医師以外が扱うことができない機材も多くあります。だからこそ、大学生のうちに多くの経験を積み重ねて欲しいのです。実際にふれることで、その機材の役割や使用すべき局面などをしっかり理解できるのではないでしょうか。

――大学としてのビジョンを教えてください。
 地域社会との連携を通して、より実践的な学修の場を提供していきます。地域の方々を受け入れて、教育や研究成果を地域に還元しながら地域と共に成長していくことは大学の責務です。
 受け入れるといっても、ただ待っているだけでは地域の方に足を運んでいただくのは難しいでしょう。そこで、気軽に来ていただくために何ができるかを考えています。
 子育てに関する相談所を開設したり、学園祭にみなさんをお招きしたりということも地域密着の在り方の一つです。サービス・ラーニングで関わった方々にもお声がけして、つながりはこれからさらに広がっていくでしょう。そうして大学に来ていただいた時、学園祭でご高齢の方々を案内したり、子どもとの関わりを持ったりすることが、実践的な学びの実現にも直結していきます。

――貴学を志望する高校生に何を求めていますか?
 現代社会はとても豊かになりましたが、人としての基本的な習慣の大切さは変わっていないと私は考えています。そこでみなさんにも、挨拶や礼儀といったことを意識していただきたい。日常の生活習慣がしっかりしている学生は、学業も伸びる傾向があるように思います。挨拶や礼儀はコミュニケーションの第一歩でもありますから、医療福祉の職業人としてそれらを欠かすことはできません。高等学校の先生方にもぜひ、そうした指導をお願いできればと思います。




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