トップページ > トップインタビュー > 第88回 国際学院埼玉短期大学 理事長・学長 大野 博之氏

前の記事 | 次の記事

第88回 国際学院埼玉短期大学 理事長・学長 大野 博之氏

2022/01/24

外部を巻き込むことで学内での学びを深く掘り下げる
国際学院埼玉短期大学 理事長・学長 大野 博之氏




 「誠実・研鑽・慈愛・信頼・和睦」の建学の精神のもと、人間教育と実践的な専門教育に重点を置いた「人づくり教育」に注力する国際学院埼玉短期大学(さいたま市)。「幼児保育学科」「健康栄養学科」の2学科を擁し、近年ではSDGsを取り入れた卒業研究や海外研修など、独自の学びが注目を浴びる機会が少なくない。大野博之理事長・学長を訪ね、国際学院埼玉短期大学の学びの魅力をうかがった。



教養型の総合的な学習に特色 卒業後の満足度を逓増させる
――貴学の学びの特徴や特色について教えてください。
 本学では、建学の精神と教育理念である「豊かな人間力」と「確かな専門力」に基づいた教育を展開しています。
 幼児保育学科と健康栄養学科を設置し、人格形成の重要な時期に寄り添いながら導く「保育士」や「幼稚園教諭」、また児童・生徒に食の重要性を説く「栄養教諭」や「栄養士」など、各分野で活躍するスペシャリストを輩出してきました。
 ある研究結果によると、短期大学や専門学校などの短期高等教育機関では、卒業と同時に学生の学びに対する満足度は漸減するという興味深い内容が報告されています。一方、総合的な学習に取り組んでいた学生は満足度が逓増するパターンが確認されています。
 資格取得などの即効性のある学びだけではなく、2年間を通して学びを掘り下げていくことで、知識が身についていくからなのでしょう。そうした背景を踏まえ、本学では卒業研究や卒業論文などへの取り組みを通して、学びの根底部分を鍛えるのと同時に学生の満足度を高めるべく、短期高等教育としての「即効性ある効用」と、卒業年数ごとに「逓増していく効用」の二つの力を身につけることを目指しています。
 これは、カリキュラムを一面的に充実させるという意味ではなく、教養型というか、総合的に学べる機会や環境が整っているということを意味しています。教養科目を充実させることで、学生の学びに対する満足度も逓増していくと考えており、資格取得に向けた実学的学習などの「即効性のある効用」と「逓増していく効用」をバランス良く取り入れることで、学生の根の部分を鍛える学びを展開しているのが本学の特長と言えるでしょう。

――貴学が学びのビジョンとして掲げる「ナレッジ・ビレッジ構想」とは何ですか。
 本学では2年前に、キャンパスの最寄であるJR 「大宮」駅周辺の再開発に伴い、これまでの歴史と伝統の中に新しい教育方針、すなわち「知識」を意味する「knowledge」、「村」を意味する「village」を冠する施策を打ち出しました。具体的には、本学が提供するさまざまな「場」に、地域社会の多様な世代や国籍の人々が集い相互関係を築くことで、知識創造と知識創造社会を担う人材育成を進めることを目指す「知的創造の場を創出」していくというのがその趣旨です。
 先ほど述べた通り、大学での学びを満足したものにするには総合的な学習を取り入れるのが重要で、その一つの手段としてさまざまな人と交流する場を設けるようにしたのです。大学の中にこだわり過ぎると、交流する人も限定的にならざるを得ません。また、専攻分野を究めようとするあまり、学びの質が偏るケースも珍しくなく、学生の視野や知見を広げることに限界を感じていたのも事実です。
 ナレッジ・ビレッジ構想を取り入れたことで実際に社会的課題を解決する場に学生が参加することが可能となりました。地域市民のみなさんにも、これからの若者の成長にひと役買ってもらえるような「知識村」づくりを進めています。

――貴学が取り組む「人づくり教育」の本質はどこにありますか。
 当たり前のことを当たり前に実行することを大切にしています。学生には、その力を「人づくり教育」で養ってもらいます。元気な挨拶や整理整頓、マナーを守るといったことは、生きていく上で欠かすことができない人間関係の基礎であると考えているためです。「礼をつくし、場を清め、時を守る」を教育方針とする「凡事徹底」により、豊かな人間性を備えた人材の育成に注力しています。
 また、基本的教養を身につけて社会人力を養うことを目的とする独自の「教養科目」を数多く設置しています。これからの時代を生きるために必要な教養や、汎用的技能、態度・志向性などを修得できる科目で編成しています。これらの履修を通じて保育者・栄養士・調理師、それぞれの分野で必要な「専門力」、専門職に求められる「人間力」、さらに「コミュニケーション力」を育んでいきます。

――貴学の教育プログラムは文部科学省が主導する「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に採択されています。
 「五峯祭(大学祭)」や「卒業研究」、また「キャリア教育」などが優れているとして、「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に採択されました。これらのプログラムを通して学ぶ内容も人づくり教育のベースに直結しています。これに限らず、さまざまな「GP」―すなわち「優れた取り組み」が採択されてきました。人間性の涵養や人間同士の相互関係などに取り組んできたことが評価されているのでしょう。

――海外研修制度も充実していると評判です。
 本学では、オーストラリア、カナダ、台湾における短期間の海外研修を選択科目の一つとして開講しています。同プログラムを選択した学生は、ホームステイをしながら現地大学での演習、現地学生との異文化交流や幼稚園の視察などさまざまな体験を重ねていきます。
 学校で学ぶ時期というのは、人生の中でも得てしてギャップを感じる経験が意外と少ない印象があります。例えば、高校は入試偏差値が同程度だったり、気の合う仲間とだけ一緒に過ごしたりしますよね。似通った価値観や育成環境が近い仲間とのコミュニティでの時間が大半を占めています。しかしながら自分と異なる文化で育ってきた人と出会い異なる価値観や視点を体験し、「こんな世界があったのか」と驚きつつ、新しい世界観にふれることができます。 
 20才前後の感受性が強い時に異文化にふれることは学生にとって大きな刺激になり、仲間と協力して壁を乗り越えることで協調性が身につきます。


大きな目標が担保する学びの質 SDGsに関連した卒業研究
――貴学での卒業研究が注目されています。
 開学当初から「卒業研究」や「卒業論文」に特に力を入れて取り組んできました。平成30年12月に国連グローバル・コンパクト(UNGC)に署名し、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の会員に名を連ねたことを契機に、学生には「卒業研究プレゼミ」「卒業研究ゼミ」において、2030年までの国際目標である「SDGs」の17の目標とゴールに関連づけた研究テーマを設定するようにうながしています。25のゼミナールの中から興味のある研究室を選び、各自が研究した内容を仲間で分担執筆して一つの研究成果をまとめていきます。これは本学ならではの取り組みの一つでしょう。
 幼児保育学科では、「学習科学」「教育学」「保育学」をはじめ、「音楽心理学」や「健康・幼児体育」「特別支援教育」など幅広い13の研究分野を揃えています。一方、健康栄養学科食物栄養専攻では「臨床栄養学」「生化学」「薬理学」「食品学」など、「食」と「健康生活」に力点を置いた八つのゼミナールを用意。調理製菓専攻では、「調理」「食文化」など、人間と環境に優しくSDGsの目標の一つとして12番目に掲げられている「つくる責任 つかう責任」を果たすのに直結する四つの研究分野が揃っています。

――このような取り組みには特別な理由があるのでしょうか。
 かつては本学でも、一人ひとりが個人研究で自分の関心のある分野を掘り下げて文献研究やフィールドワークに取り組んでいました。これは、世界に通用する世界標準の研究方式です。その意味では、従来方式でも学びを深めることは十分可能ではありますが、これからの未来社会で重要視されるのは、相互関係です。ゼミナール制を導入して、卒業研究に取り組む「卒業研究ゼミ」を設置することで、基本は個人研究であっても、近くに仲間がいることで相互関係を築き上げることが期待されます。そこにあるのは、学習者としての根源的な学びの欲求に目覚めてもらいたいという大学側の狙いです。敷かれたレールの上を走るような、使い古されたテーマに沿った研究を予定調和的に進めるのではなく、より大きな世界的課題と関連するような、自分の心から湧き出る興味・関心が学びのきっかけになることを期待しているのです。
 私は、そうした意欲を「真正な学び」と位置づけています。基本的には、学びの質を高めるということにほかなりません。身につけた学びを自分の知識として定着させるためには、学びたいという意欲や好奇心を持つことが重要です。卒業研究の答えは一つではないため、最初はどのように進めていけば良いのか見当がつかず苦労している学生も少なくありません。しかし、困難なことに積極的にチャレンジしていくことで素養が培われてきます。
 令和3年3月卒業者を対象とする「卒業研究アンケート」の調査結果によると、94・4%の学生が「卒業研究を通してSDGsへの理解は深まった」と、回答しています。加えて卒業研究をする中で学んだスキルとして、「議論する力」「問題解決力」が挙げられるなど、ゼミでの活動を通して自分の意見を伝えて問題解決する力が身についていることが分かります。

――卒業研究の取り組みに対する大学からの支援が充実しているとうかがいました。
 学生が卒業研究や卒業論文に全力で集中できる環境を用意するため、令和2年度から「卒業研究プレゼミ・卒業研究ゼミ運営補助費申請制度」を用意するようにしました。学生の経済的負担を軽減するのと同時に、教育効果の向上を目的として掲げています。この制度を活用することによって活発な研究活動を下支えしています。


困難な時にこそ笑顔を忘れず 意欲は能力、「知的に正直に」。
――学生に何を求め、期待していらっしゃいますか?
 気が進まないことであっても、「負担」ではなく「貢献」だと考えることはできないのか。「なぜ自分が取り組まなければならないのか」と、ネガティブな感情を抱くこともあるでしょう。しかし、自分が取り組むことで助かる人がいると考えれば気持ちが上向きに変わるのではないかと思います。「社会のため」「人のため」という「他者思考」を身につけられたら素晴らしいですよね。
 「デュシェンヌ・スマイル」という笑顔の法則をご存じでしょうか。これは、笑顔が多い人のほうが少ない人よりも人生が豊かになるというものです。困難な時にこそ笑顔でいられるというのは素晴らしく大切なことなのです。仮に、負担を貢献ととらえようとしていても、行動に移せないこともあります。そのような状況の時こそ笑顔を忘れないでください。

――高校生の間に身につけておくべきことを挙げてください。
 意欲は能力です。私は時折学生に「点字を読む人の指先の感覚は才能ですか? 偏差値ですか?」と尋ねます。点字を読むのに「才能」は関係ありませんよね。字を読みたいという意欲が指先に感覚を宿らせるのです。何事においても自分の力に変えたいという思い入れがあれば、少しずつであっても着実に実力につながるのだということに気がついて欲しいのです。
 日本の高校生は、学校という狭い比較対象の中で生きていて、常に相対的な世界の中にいます。過去の自分と比べる経験が少ないのでしょう。過去の自分と比べていまの自分はどれだけ成長しているのかということを積み重ねていくと、成長を実感することができます。誰しも失敗を恐れ、極力避けたいと考えています。しかし、失敗などのさまざまな経験を積み重ねることが、自分の強みや武器につながる可能性も考えられます。

――進学を考えている高校生に語りかけてください。
 「知的に正直に」という言葉を贈りたいと思います。素直でいることは、学力の差がない仲間うちのコミュニティであればあるほど難しいと思います。自分と知識の差がそれほどない相手に対して、自分だけ分からない状況を恥ずかしいと感じ、分かっている振りをしてしまいがちだからです。しかし、分からないことを放置していても当然知識は定着せず、何の解決にもならない。まずは、分からないことを認める勇気を持つ必要があります。もう一つは、多くの良い経験から学ぶ力を培う必要があります。物事がうまくいかなかった時に責任転嫁する人が少なからずいます。言い訳ばかりしていても良い経験にはつながりません。自分の非を認めることは怖いことではありますが、素直に認めることが次の一歩となるはずです。失敗を繰り返しながら、責任を持つことを覚えるようにしてください。

――高校の先生方に投げかけをお願いします。
 高校生の自己肯定感を一層育んでいただきたいと思います。失敗した時にどのようにフィードバックするのかはとても重要です。日本の若者は「自信がない」「自己肯定感が低い」と言われています。指導する立場の人間として、改善点にとどまることなく、良いところを見つけて伸ばしてあげられると良いのではないでしょうか。
 生徒がさまざまなことにチャレンジする環境を整え、背中を押す。上手くいったら我事のように喜び、失敗した時は成長のチャンスと捉えて励ます。先生方の想いが生徒にしっかりと伝われば、その言葉を素直に受け取り成長につながるはずです。



[news]

前の記事 | 次の記事