トップページ > 連載 2040年に向けての大学教育 > 第7回 学生の成長を把握する学生調査の役割

前の記事 | 次の記事

第7回 学生の成長を把握する学生調査の役割

2022/02/22

連載 2040年に向けての大学教育

第7回 学生の成長を把握する学生調査の役割

山田 礼子
  
 近年、学修成果の測定が学修成果の可視化という高等教育政策の流れの中で大きな課題となっている。学修成果の測定方法は、科目試験やレポート、プロジェクト、卒業試験、卒業研究や卒業論文等の成果に対する直接評価と、学生の学修や生活行動、自己認識、大学の教育プログラムへの満足度等、成果に至るまでの過程を評価する学生調査に代表される間接評価に分類できる。直接評価は学修成果を直接測定し、評価するのに適している。一方、学生の学びのプロセスや行動を把握する上では限界性がある。なぜなら、試験結果に基づき、学修時間や予習・復習を十分に行ったと推定し、成果と結びつけたとしても、試験対策としての問題集への対処により高得点をあげるケースも少なくないからだ。それゆえ、学修の成果に至るまでの過程の把握が可能な間接評価の意義がある。学生調査には自大学内だけで行う場合や、標準的な調査を複数校で活用して相互評価をするケース、文部科学省が試行調査として全国の国・公・私立大学の学生が参加する形で行ったもの等もある。2022年には、文科省は試行調査として再度、4年制大学と短期大学も対象にした学生調査を実施する予定だ。これらは、大学・短大名の公開はしないが、現状での学生の学びの状況や満足度などを広く社会に公表し、社会が大学における教育の現状を学生の回答から知ることにもつながる。高等教育機関は、公表されている全体のデータと手元にある自大学のデータを見ることで、さらなる教育改善へとつなげていくことも可能だ。こうした全国型学生調査の内容はどの高等教育機関でも使えるため、標準調査に位置づけられる。また、継続的に学生調査を行うことで学生の成長をデータから把握することもできる。
 新入生がどのようなタイプであるかを把握し、教育の実践に活かすことも可能だ。調査からそれを紹介してみよう。筆者は2004年から全国の大学生を対象とした調査を行ってきたが、13年の新入生調査(国立4497人、公立940人、私立1万82人の計1万5519人)を使用し、新入生のタイプを概観してみる。自分の能力・スキルおよび行動特性の自己評価20項目から抽出した4因子をそれぞれ「共感的特性」「認知的特性」「積極的行動特性」「表現スキル特性」と命名し、さらに分析をして五つの学生タイプを抽出した。タイプ❶は表現スキル特性に相対的に自信がなく3133人(21・1%)が分類されるが、大学での授業を通じてプレゼンテーションや文章表現スキルを習得すれば自信を獲得する可能性がある。タイプ❷は表現スキル特性のみ相対的に自信を持つが、認知面・行動面を同世代の学生と比較した際に自分に自信を持っていないケースで、4365人(29・3%)と最も多い。タイプ❸は「共感的特性」と「表現スキル特性」が高いことから、人間関係を構築することに自信を持っているタイプと見受けられる。2452人(16・5%)がこのタイプに分類される。タイプ❹は「認知的特性」「積極的行動特性」「表現スキル特性」の3特性が高く、若干「共感的特性」が相対的に低い。表現力に優れ、認知面にも自信を持ち、積極的に行動する。2373人(15・9%)がこのタイプに分類される。タイプ❺は「認知的特性」得点が低いことから、学力に相対的に自信がない類型であり、2556人(17・2%)がこのタイプに分類される。こうしたタイプの把握を通じて、例えば、初年次教育での自己肯定感を高める教育プログラムを充実させる、ライティングやプレゼンテーションのスキルを向上させるプログラムを提供するなどの方策が考えられる。これは、学生調査を通じてデータを検証することで、より効果的な教育プログラムの開発や提供につながる一例だ。





[news]

前の記事 | 次の記事