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第3回 高校職業学科におけるキャリア教育・職業教育

2022/06/17

連載 キャリア教育と高校・高等教育改革

第3回 高校職業学科におけるキャリア教育・職業教育

夏目 達也

 前回は、普通科を中心に高校のキャリア教育の実施状況や問題点について紹介した。今回は、職業学科を中心に、この問題を考える。高校生総数に占める職業学科生徒の割合は18%(2021年)で、1970年の41%から大幅に減少した。経済的余裕と共に大学進学志向が高まり、進学に有利な普通科希望者が増えた。職業学科は普通科目の時間数が少ない上、入試で職業学科の生徒が不利にならない配慮をする大学は限られた。そのため、大学進学希望者増加・進学率上昇と共に、職業学科の生徒は減少した。
 職業学科では、教育課程の一定部分を職業教育科目が占める。2022年度から実施の新学習指導要領では、卒業に必要な単位数74単位以上のうち25単位以上が職業教育だ。内容は、学科の種類(工業、商業等)や学校により多様だ。職業関係者との接触機会もあり、職業の知識は普通科の生徒と比べ豊かだ。校内・外での実習を通じて、心身を使って具体的な対象に働きかけながら知識を獲得する。教科書中心の知識と異なり、具体的で実際の場面で応用できる。学習意欲も高まりやすい。事実、普通科進路多様校の生徒と比べ、職業学科の生徒は勉強に対する姿勢が積極的との調査結果もある。例えば「学校での勉強は将来つきたい仕事に関係している」「学校での勉強に積極的に取り組んでいる」と回答した生徒の割合は、職業学科の生徒のほうが高い(東大教育学部・ベネッセ「都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査2008年)。これらは職業教育の重要性・必要性を示すものと言える。
 普通科での職業教育実施が難しいのはなぜか。第一に、施設・設備の問題だ。職業教育の実施には多種類の施設・設備が必要で、整備や更新も定期的に必要。普通教育よりもはるかに高額の経費を要する。第二に、教員の確保も問題だ。職業教育を担当できる教員は多くない。第三に、生徒・保護者の進学指導への要望が強いことである。のような状況下で、行政側としても普通科で職業教育を行うことに消極的になりがちだ。
 この状況に問題はないか。法律を見てみよう。学校教育法は、高校の目的を次のように規定する。「高等学校は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、高度な普通教育及び専門教育を施すことを目的とする」(第50条、2007年改正)。ここでは、差し当たり「普通教育及び専門教育」が重要だ。普通に読めば、普通教育と専門教育の両方を行うことと解釈される。事実、戦後教育改革下の1947年の制定当時、普通教育と「専門教育= 職業教育」の両方を行うものとされた(佐々木享『高校教育論』1976年)。高校は大学進学準備機関ではなく、完成教育機関とされた。つまり卒業後に就職し、社会生活を営む能力の形成が求められた。現在の条文は2007年改正によるもので、同条文には元・文科省高官による以下のような解釈が示されている。「法制定当時と比較すると、例えば、①専門教育科目の内容自体が変化してきており、従来のような職業に直結するだけでなく、理数や英語なども専門教育に関する科目に属するものとされている」「普通教育に関する教科・科目のうち、高度な内容のもの(数学Ⅲ、音楽Ⅲなど)を履修することも含まれると解される」(鈴木勲編『逐条学校教育法』2011年)。ここでは、本来普通教育科目と見なされる科目も専門教育科目とされる。職業教育をめぐる扱いは両者で180度異なる。
 職業教育実施が困難な現状を考慮すると、この解釈は現実的と言えるかもしれない。しかし、普通科でも就職者が一定数いるし、進学する生徒もいずれ就職する。それを考えれば、職業について学び考えることは普通科の生徒にも必要だ。教科外中心のキャリア教育以上に、体系的かつ長時間職業について学べる職業教育は重要である。実際に普通科で行うには何が必要なのかが問われている。





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