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第4回 大学におけるキャリア教育①正課内の取り組み

2022/07/25

連載 キャリア教育と高校・高等教育改革

第4回 大学におけるキャリア教育①正課内の取り組み

夏目 達也

 前回までの高校のキャリア教育の状況に続いて、今回から大学での状況を取り上げる。大学はどのような指導・支援を行っているか、そこにどのような問題があるのか。大学でのキャリア教育の取り組みは、正課(正規カリキュラム)内と正課外に大別できる。今回は正課内の取り組みを中心に考える。
 文部科学省調査(「大学における教育内容等の改革状況について」2021年)によると、キャリア教育を教育課程内で実施する大学は97・8%(2018年度)。これには、「大学設置基準」により、学生の社会的・職業的自立に必要な能力形成のための体制づくりが大学の義務とされていることも影響している。主な活動内容は、「勤労観・職業観の育成を目的とした授業科目の開設」(実施大学は全体の86・7%)、「資格取得・就職対策等を目的とした授業科目の開設」(同86・1%)、「今後の将来の設計を目的とした授業科目の開設」(同82・7%)だ。特徴の一つは、初年次から実施されていること。学生が大学入学後すぐに大学に適応できるように、大学はさまざまな工夫をしており、一般に「初年次教育」と呼ばれる。その一環として、「将来の職業生活や進路選択に対する動機づけ・方向づけのためのプログラム」というキャリア教育関係科目を設ける大学は約8割に上る。
 なぜ、就職間近の上級学年ではなく初年次から実施するのか。3年生では遅過ぎると感じる教職員が多いためだ。3年生までぼんやり過ごし、明日から就職活動と言われてもすぐには対応できない。就職活動をうまく行えず、不本意な結果になる学生もいる。
 どのように学生生活を過ごすかに関係なく、卒業や就職はすべての学生にとって避けられない。この分かり切ったことを自覚できていない者は意外に多い。大学入学後の不慣れな生活や授業スタイル、キャンパス内外での多様な活動・アルバイト等に追われる。明確な目的を持たずに入学した学生、入学後に目的を見失い意欲を失う学生もいる。そうであればこそ、入学直後から大学側は取り組みを始める。彼ら・彼女らに、4年後の卒業時の自分の姿をイメージさせるのだ。待ったなしの状況に追い込まれ焦るか、余裕と自信を持てるか、その差は大きい。自分の希望する姿に近づけるために4年間の学修や生活を展望させ、1年次の課題を明確にさせる。就職では職業関連の知識・技能だけではなく、幅広い能力が問われる。とすれば、キャリア教育の対象とする学生や活動範囲はおのずと広がる。
 問題は、のんびりしていてエンジンのかかりにくい学生だけにとどまらない。逆に、就活に前のめりになる学生もいる。それほど多くはないが、中には就職を強く意識するあまり、就職準備に過度と思えるほど熱心になる学生もいる。大学での勉学や学生生活を、ひたすら有利な就職を得るために費やすタイプである。自分の望むような就職が得られればともかく、不本意な結果になった場合のダメージは計り知れない。
 大学がキャリア教育や就職支援に熱心になるのはほかにも理由がある。職業的自立の支援が法令で大学に義務づけられており、それが多様な形態で評価対象になる。保護者・高校側は、進学先大学の選定の際に就職の支援や実績を求める。マスコミの大学ランクづけの指標にもなる。そのため、大学は学生の就職支援に取り組まざるを得ない。
 しかし、大学は直接には就職支援を目的としてはいない。大学は、各専攻領域の専門教育や幅広い領域の教養教育、教員・学生との交流を行う場である。それらを通じて社会の構成員として責任ある生活を自立して営める人間を育てることなどを目指す。その一環として職業生活への準備の支援があるとしても、就職支援だけに矮小化するのは、本来の姿ではない。大学の本来の使命を踏まえ、少なくとも視野の狭い思考と行動に学生を駆り立てないことへの自覚が必要だ。




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