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第7回 大学におけるキャリア教育④サービスラーニング

2022/11/22

連載 キャリア教育と高校・高等教育改革

第7回 大学におけるキャリア教育④サービスラーニング

夏目 達也

 サービスラーニング(SL)とキャリア教育の関係について考えてみたい。
 SLとは、社会の諸課題に関係する活動への取り組みを通じて、既存の知識と得られた知識を連関させつつ、課題に対する深い洞察力や行動力を修得する活動を指す。米国の大学を中心に実践されてきたが、日本でも1990年代から広がり始めた。全体の普及はまだ不十分だが、いくつかの大学が特徴ある実践を行い、実績をあげている。
 この問題に詳しい桜美林大学・林加奈子准教授は、以下のような事例を紹介している。桜美林大のSL科目「地域社会参加(わたしたちに身近な貧困)」では、日本における貧困の背景や現状、社会保障制度について学ぶことと並行して、月に2回程度東京の山谷で行われている野宿者・生活保護受給者の支援活動(炊き出し、医療関係の聞き取り、散髪、夜回り、協働作業活動等)か、大学近隣地域の生活保護世帯の子どもたちへの学習支援のどちらかに継続して20〜30時間程度参加する。サービス活動と学習の両方に重きを置き、両者を往復しながら学生は学びを深める。同大の「カンボジア・ストリートチルドレン・ボランティア研修」では、実際にカンボジアに赴き2週間のボランティア活動を行う。同時に、カンボジアの文化や価値観、子どもの厳しい現実、国際機関・NGO等の支援活動の実態を学ぶ。ボランティア活動と前後の学習を組み合わせて、意味のある支援活動のあり方や異文化について深い理解へと導いている。
 ほかにも、注目すべき実践が多くの大学で展開されている。❶震災復興支援のボランティア活動をSLにするために関連する授業と連携して地域復興の課題の学習につなげる❷地域の企業と連携して学生の目線を活かした商品を開発する❸近隣の社会教育施設と連携して住民のニーズを反映したプログラムを企画・実施する❹コロナ禍で来訪者が激減した地域の魅力を発信して商店街の活性化に貢献する―等々である。
 SLの意義は何か。授業を通じて、社会の成り立ち、社会各方面で営まれる生活の実態、発生する諸問題の構造や背景、解決のための関係者の働きについて具体的かつ正確に学ぶ。このことは、授業で学ぶ内容を現実の社会と照らし合わせて、より深く理解したり、大学で学ぶ意義や大学教育の社会的な有用性を再認識したりすることにつながる。また、普段接することのない人と一緒に活動するため、他者理解やコミュニケーション能力の向上も期待できる。さらに、卒業後の進路を考えたり、社会の一員としての生活や活動の準備をしたりする機会にもなる。後者の点はキャリア教育の目的や内容と重なっており、SLはキャリア教育としての機能の一端を担っているとも言える。
 課題は何か。大学には多様な制約がありSLを実施しづらい面がある。例えば、教員による一方向的な知識伝達の授業方法が最善との考え方である。確かに、学ぶべき知識量が急増する現在、効率的な知識修得として有効だが、科目や学生の特徴によっては別の方法が必要だ。教員が熱心に多くの知識を伝えても、学生がそれを受け止め理解できなければ学習は成り立たない。学生の新たな思考や行動につながるような真の学習にするためには、教科書や教室内での学習だけでは不十分だ。現実社会に参加し、そこで身につけた知識・技能を活用したり、新たな学習課題を発見したりするなど、主体的な学びが必要となる。SLはその学びを引き出す活動で、その普及には授業観や学習観の転換が必要不可欠だ。
 学生には、履修に当たり、内容が自分の興味・関心・学習スタイルに合うか、学びの質向上につながるか、進路の選択やキャリアの構築につながるか等の見極めが大切だ。
 伝統に囚われない斬新な発想による大学の教育内容や方法の改善は、政策的に推奨されており、以前より容易になった。キャリア教育のためにもSLの普及が期待される。



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