トップページ > 連載 キャリア教育と高校・高等教育改革 > 第8回 学生の就職と大学の支援活動

前の記事 | 次の記事

第8回 学生の就職と大学の支援活動

2022/12/21

連載 キャリア教育と高校・高等教育改革

第8回 学生の就職と大学の支援活動

夏目 達也

 今回は学生の就職と大学の支援活動を考える。就職は学生にとって人生の重要な転機であり課題である。大学院進学や留学等を目指す者も、いずれ直面する問題だ。
 日本には就職に関する多様な慣習があるが、諸外国のそれと比べるとかなり特異である。まず就職が特定時期に集中する。3月31日を境に、大半の学生が大学から会社へと移行する。多くの企業が定期一括採用を行うためだ。諸外国では欠員補充が一般的であり、職場で欠員が生じた場合に補充する。しかもまず内部から適任者を探すため、募集人員は少なく募集時期も一様ではない。
 採用選考では、職務をすぐ遂行できる知識・スキルや関連能力が求められる。日本では一部の学部を除くと専門的能力は一般的に問われない。職務限定で採用する「ジョブ型」雇用ではなく、職務を限定せず定期異動のある「メンバーシップ型」雇用が中心だからだ。学生の意識も、どの職に就くかよりも、どの会社に入るかに向かいやすい。
 さらに、大学が就職支援に関与するという点も特徴的だ。諸外国でも大学が支援することはあるが、学生個人の活動が中心であり、大学の関与は概して小さい。日本では、私立大学が戦前から学生の就職支援に熱心だった。国立大学が支援を本格化させたのは1990年代以降で比較的新しい。現在では、どの大学も取り組みを活発に展開している。学生の就職状況が大学の評価に直結するためだ。
 大学の支援活動は、キャリアセンター・就職課が中心になって行う。❶就活全般のガイダンスの実施❷カウンセラーによる面談❸各種セミナー・講座の開催❹業界・企業研究❺自己分析の仕方の指導――等である。実際は、こうした大学の支援活動を利用しなかったという学生も多い。就活サイトの利用等により単独で就活を進めるなどして、利用しなくても問題なかったと感じているようだ。大学の支援が就活時期とずれる、支援内容が期待はずれだったと、大学の支援活動に不満をもつ学生もいる(キャリエデュ「22年卒内定者調査」)。
 学生の就職活動や就職の実態は多様だが、文部科学省等の就職状況調査では、就職内定率は例年高い(令和3年度は95・8%)。大半の学生は順調に就職できていると言えよう。ただし、問題はある。
 第一に、各大学がていねいに支援し、学生も多くの時間と労力をかけてようやく就職しても、卒業後3年以内に離職する学生が依然として多い(平成31年3月卒業者で31・5%)。新卒期を逃すと、一般的に就職は困難になる。それだけに新卒期の就職は重要で、新卒期に慎重に就職先を選定することが必要だ。転職者が多いことは、その選択に多少とも問題があった可能性も否定できない。状況改善に向けて国は卒業後3年以内は新卒扱いとする指針を打ち出し経済界に協力を求めている。大学側も、卒業後に何らかの支援・指導を行うことが必要になっている。
 第二に、就職のルートに乗りきれない学生の存在である。大学の支援活動をうまく活用できない、就活を積極的に行えない、結果的に就職できない学生は、一定数いる。彼らは、しばしば大学での勉学や学生生活でも困難を抱える。在学中はなんとかやり過ごせても、就職段階になると問題が顕在化する。大学のキャリアセンター等の支援組織は、彼らのケアにも熱心だ。いわばセイフティーネットの役割を担っている。
 学生の就職は学生と企業が個別交渉を通じて決定されるものであり、最終的には学生が自分の責任で処理すべき問題だ。就職の成否には多くの要因が関係し、学生の努力や責任が及ばない部分も大きい。それが及ぶ部分では最大限の努力が必要だ。卒業後の長い職業生活を乗り切るために、まず自力で適職を選び就職にこぎ着ける力を、大学教育や学生生活を通じて獲得することが求められる。就職は、学生にとって自立した社会人・職業人になるための準備と覚悟が試される問題だ。




[news]

前の記事 | 次の記事