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第94回 桜美林大学 第五代学長 畑山 浩昭氏

2024/04/23

自分の軸を持って成長する学生を支える
桜美林大学 第五代学長 畑山 浩昭氏



 キリスト教精神に基づく国際人の育成を建学の理念として、令和3(2021)年に学園創立100周年を迎えた桜美林大学(東京都町田市)。令和元(19)年より三つのキャンパスを新設・整備し、設置する各学群の強みがより明確になるようにカリキュラム再編を進めている。本稿では、第五代学長として令和6(24)年度より3期目の任期を務める畑山浩昭学長に、高大接続に関する先駆的な取り組みや今後の展望、高校生・大学生といった若者と高校教諭に向けたメッセージなどをうかがった。



学びを社会に還元する人材を育成 7学群の個性をより際立たせる
――平成30(2018)年度から2期6年間、学長を務められました。3期目の任期が令和6(24)年度より始まります。現在の心境を教えてください。
 平成30(18)年度、初めて学長を拝命いたしました。学長としての1期目で印象に残っているのは、令和元(19)年度の下半期から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が世界中で一気に流行し始めたことです。当時を振り返って教育現場にとって大きな展開の一つになったと思うのは、人々のオンライン教育に対する価値観の変容です。軽視されがちだったオンライン教育が実はそうではなかったと分かった衝撃は決して小さくはありませんでした。そのため、デジタル技術による教育・研究環境を急いで整え、教えるほうも学ぶほうも従来とは大きく異なる手法や意識が必要となりました。オンライン教育が有効な学びの選択肢であるという認識が、世界中で広く共有されました。
 私が再任され、2期目となった令和3(21)〜5(23)年度は、激動の3年間でした。キャンパスに直接通わないで学生生活を始めた学生が再び対面授業に戻るという経験をした中で、学生がハイブリッドな感覚を備えていることを強烈に感じました。具体例を挙げると、学生らは対面授業ができない時期にデジタル空間で知り合うなど、人間関係を構築する手段に変化がありました。さらに、高校生や保護者、社会の期待に対して、本学がこれからどのように応えられるのかを本当に考えさせられる3年間でした。
 そこで3期目となる本年の4月以降、学生一人ひとりが自分の軸をしっかりと持って学び成長していくことを実現するのが、これからの本学の責任ではないかと考えています。桜美林学園の教育モットーである「学而事人(がくじじじん)」は、学んだことを人々や社会のために役立てるという教えです。ただし、やはり揺るぎない自分の軸がなければ、他者や社会のために貢献することはできません。言い換えれば、自分軸をしっかり持って勉強することが、他者や社会への貢献につながるのではないか。そうした人々が共生するコミュニティが本学の理想ということです。そのため、4月以降の3年間に向けた抱負として、価値観や考え方、生き方が異なる多様な学生が〝自分軸で共生できるコミュニティ〞を目指していきたいと思っています。例えば、各学群の特徴や特色をもう少し明確に際立たせ、それに合ったカリキュラムを編成していきます。それが次の3年間の学長としての責務だと考えています。

――全学群で進めているカリキュラム再編について、その背景や狙いを教えてください。
 本学は平成17(05)年より学群制への移行を開始しました。平成19(07)年には人文・社会・自然の学問系統を総合的に持つリベラルアーツ学群を設置し、以後も特定の専門分野の学問に特化したプロフェッショナルアーツ系の学群を六つ設置しました。令和6(24)年4月現在、特色の異なる7学群を擁し、各学群の機能分化を強化しています。
 本学では、教授らが中心となって各学群のカリキュラムをアップデートする仕組みにしているため、より現場や社会の変化に合わせた進化を続けてきたという自負があります。いまは各学群と地域の相乗効果を図っています。例えば、ビジネスマネジメント学群は平成31(19)年4月に新設した新宿キャンパス(東京都新宿区)に移転し、旅行者が多く往来するビジネスの機会の多い新宿エリアで学んでいます。芸術文化学群は令和2(20)年4月より新設した東京ひなたやまキャンパス(東京都町田市)に移転して、自然豊かな環境で近隣地域と共生しながら芸術活動に没頭しています。令和5(23)年4月に新校舎を整備した多摩キャンパス(多摩アカデミーヒルズ、東京都多摩市)で学ぶ航空学群(令和7年4月、現行の航空・マネジメント学群より名称変更予定=構想中)は、調布飛行場にも近いエリアで航空・飛行機好きな学生らが切磋琢磨しています。このように、本学では学生の希望をかなえることを第一義に学群づくりを進めてきました。

――貴学が行う高大接続の先駆的な取り組みについてお聞かせください。
 本学が長年取り組んできた総合型選抜(旧・AO入試)の考え方をより発展させたものが、「ディスカバ!」です。「ディスカバ!」は本学が独自に行う高校生のためのキャリア支援プログラムのことで、多様な学問分野のテーマを選んで探究する取り組みを意味しています。
 いま高校では、令和4(22)年度から年次進行で進められた新学習指導要領のもと、「総合的な探究の時間」の中で、生徒が自身の課題意識や問題意識に合わせて、いくつかの科目を横断して思考を深めながら、その答えをプレゼンテーションなどにしてまとめあげていくといった活動に取り組んでいます。翻れば、そうした活動にはむしろ大学のほうがずっとなじみやすく、現に得意だったはずです。だからこそ、高校と大学を探究学習を媒介にして有機的に連携ができるのではないかと考えました。本学の「ディスカバ!」では、高校生らの持つポテンシャルを実際の探究学習を通して発揮できる流れをつくり、芽吹き出した高校生の学びに対する知的好奇心を下支えするという気持ちで、取り組みを全国に広げています。
 また、「ディスカバ!」のプログラムを体験した生徒に、本学の学びを提示して学生募集におけるマッチングを図るという小さな狙いもあります。実際に、本学では「ディスカバ!」で所定の成績を収めた参加者の1次審査を免除する総合型選抜「探究入試(Spiral)」という入試制度を用意しています。
 いずれにしろ、高校と大学がいまよりもう少し連続性を持った教育活動を活性化させ、互いがwin-winになるような関係性のあり方を目指したいと思っています。その上で、学群制に象徴される本学の学びの土壌と探究学習は、非常に相性が良いと考えています。


若者の自己実現が社会を創造する 一人ひとりの選択や志向を支える
――桜美林学園は創立100周年を迎えました。貴学の今後の展望を教えてください。
 本学では、学園創立100周年を迎えた令和3(21)年に、長期ビジョン「- Unique & Sharp -」を掲げました。本学の前身である崇貞学園は、清水安三が大正10(1921)年に中国で創立しました。キリスト教精神に基づく学校で、人や社会のためであれば大変なことでも挑戦してきた歴史があります。ですから、社会を眺め、誰もが敬遠するようなニッチな課題にも〝Unique〞な視点で取り組むことは、私たちが大切にする基本的な姿勢なのです。
 ただし、取り組んだことは、人や社会にとっての恩恵として通用するものにまで洗練させる必要があります。そうでなければ、自己満足に過ぎません。その理想を目指して伸びていくという気持ちを〝Sharp〞という言葉に込めました。これらはいままで本学が大切にしてきたことを、現代の言葉として言い換えただけです。この長期ビジョンのもと、次の50年に向けて邁進していきます。
 政府が目指すべき未来社会の姿として「Society 5.0」を掲げる中で、データサイエンスやAI(人工知能)といった分野にいま熱気があります。しかし、データサイエンスは、数学をはじめ、統計学やプログラミングの基礎、ビジネスなどの知識をもとに、目的に合わせてデータを抽出・活用、展開するものであり、それは本学の従来のカリキュラムが内包しているものでもあります。
 本学ではむしろ、IoTやロボティクス、eスポーツの取り組みを強めていきます。これは、本学には老年学などを扱う健康福祉学群があり、高齢化社会や福祉、バリアフリーといった課題に貢献できるテクノロジーとは親和性が高いと考えるからです。このように、実際のカリキュラムの中で効果的に機能するか、本学の教育理念に合致するかを判断した上で、社会の動きにも敏感になっていくつもりです。

――高校生・大学生といった若者と高校教諭のみなさんにメッセージをお願いします。
 いまの高校生や大学生は、COVID-19感染拡大の前後の2〜3年間を失われた時間のように思っているかもしれません。私は、そのような高校生・大学生を勇気づけてあげたいと思っているのです。
 自分たちで未来を切り拓くためには、これまでの価値観にとらわれず、新しい価値を創造していく主体になる必要があります。これからの新しい社会を築く一員となるよう、大学生活を送って欲しい。一人ひとりの自己実現が、新しい社会の創造につながっていくと私たちは考えています。
 本学の教職員は、学生一人ひとりの志向や目指すことを全力で支えたいという気持ちを共有しています。その一環としてさまざまな選択肢を準備していますから、本学を志望する人には「共に〝自分軸で共生できるコミュニティ〞を目指していきましょう」と、お伝えしたいと思います。
 高校教諭のみなさんに対しては、進路指導に生徒と大学のマッチングという観点をぜひ取り入れていただきたいと思います。私自身が高校教諭として勤めていた時期を振り返ると、進学してから生徒本人がミスマッチに気づくことがしばしばありました。生徒一人ひとりの性格や考え方は、担任を受け持つ先生が十分にご存知のはずです。そこに大学の校風や将来性などを考え合わせて、より望ましい進路を生徒のみなさんに勧めていただければ大変幸いです。



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