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239号

2025/05/18

短い春が慌ただしく過ぎ去ると、目にも鮮やかな新緑が初夏の訪れを告げる季節になった。江戸時代の俳人・松尾芭蕉が江戸から北陸・東北地方を目指して旅立ったのは、現在の暦でいうところの516日のことだ。「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」│。『おくのほそ道』の序文を印象深く覚えている人は少なくないだろう。三百年以上前に著された紀行文はいまでも多くの人々に読み継がれている▼後世の文学史に大きな影響を残した芭蕉だが、『おくのほそ道』を著した理由の一つに、敬愛する歌人・西行法師の五百年忌であったことが挙げられると聞く。平安時代末期から鎌倉時代に活動したとされる西行法師は、修行のために各地を遍歴しながら、さまざまな和歌を詠んだ。西行から芭蕉へ、芭蕉から現代へと、旅を楽しむ心が連綿と受け継がれていることが興味深い▼約150日間かけて、東北・北陸地方を徒歩で巡ったという芭蕉を思えば、現在の旅がいかに簡単かつ快適なものになったかが分かるだろう。新しい環境に慣れずに落ち込むことの多い季節でもある五月。そんな時は先人に倣って、旅に出ることで心を切り替えてみるのはどうだろうか。

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