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第3回 大学にあるモノと人の関係性

2025/08/06

連載 関係性から考える大学のアレコレ
第3回 大学にあるモノと人の関係性
佐藤 万知

 本格的な夏の暑さがやってくると、大学はオープンキャンパスの時期となる。私が受験生だった頃は、オープンキャンパスはいまほど盛んではなく、インターネットも普及していなかったため、印刷媒体の限られた情報に基づいて進路選択をしていた。通うことになった大学を初めて見たのは受験の前日で、高校の校舎のほうが立派だと思った記憶がある(現在は移転し、素敵なキャンパスになった)。
 オープンキャンパスにはさまざまな形態がある。一般的なのは、対面型で、参加者がキャンパスを訪れ、学部や施設を見学する形式である。そこでは教員や在校生との対話、模擬授業、教育プログラムや学生生活、入試に関する説明会などが行われる。最近では、遠方からの参加も可能とするオンラインオープンキャンパスも実施される。それ以外に、特定の学部や学科が専門的な内容や実験・実習を体験する機会を提供する特別プログラム型や、大学が地域の高校や団体と連携し、特定の学生を対象としたイベントなどを提供する地域連携型がある。いずれにしろその目的は、断片的にでもリアルな大学を経験してもらい、ぜひこの大学で学生時代を過ごしたいという志願者を獲得することを目的としている。しかし、いろいろと聞くうちに、自分がどうしたいのか分からなくなるというのも事実だ。
 ここで質問。みなさんは、知らない場所に行った時に、なぜか誘われるように何かの行動をとってしまった、という経験はないだろうか。例えば、初めて行った広場にぽつんと置いてある切り株を見つけ、思わず上に立って辺りを見渡していた―というようなことである。自らの意思で上に立つ切り株を見つけようとしたのではなく、切り株を見つけたことで、上に立ってみようという行動が引き起こされたのだ。そう考えると、普段、私たちは、自分の意思で自分の行動すべてを決定しているのではなく、意外とモノによって引き起こされているということに気がつく。そのような理解に基づいてキャンパスを見てみると、行動を引き起こすような意図的なモノの配置や、たび重なる行動の結果、出来あがった環境が見えてくる。
 異なる文化圏から学生が集まる欧米の大学キャンパスに行くと、とても意図的に空間が作られていることが多く見受けられる。例えば図書館の前の芝生の広場にデッキチェアや4人ほどで利用できるベンチと机が設置してあり、天気の良い日には、学生が図書館で借りてきた本を各々のスタイルで開いている様子が見られる。頻繁にセミナーが行われる部屋の外の廊下は広々とし、ソファーや椅子、ウォーターサーバーが置いてあり、セミナーを終えた参加者がそこで議論を繰り広げている。フォーマルとインフォーマルの境目のような場所を使って何かをするという習慣のない文化圏の学生でも、自然と立ち止まって参加してしまう環境がある。
 以前はなかったのに学生の行動に対応する形で空間が整えられる場合もある。私が勤務した大学でも、学部生が授業で多く利用する建物で、以前は何も置かれていなかったのに、気がつくとあちこちの空きスペースにコンセントの口のあるデスクや可動式のホワイトボードが雑然と置かれていた。学生が工夫して空きスペースを使っていたことを受けて、大学が設置したようだ。これを外からの目で見てみると、この大学では、学生がキャンパスに滞在して、何かをするような雰囲気があるのだということが分かる。
 通常、オープンキャンパスに行くと、キャンパスツアーがあり、特徴的な場所の説明がなされるが、できれば何の説明も受ける前に、キャンパスのいろいろな場所に身を置き、そこに学生の息遣いが感じられるか、自分が何かをしたくなりそうかを感じて欲しい。感じたことがワクワクすることであれば、その大学は、きっと大学生になった時に、自分も知らないような行動を引き起こしてくれるに違いない。

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