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第9回 豊かな生態系を維持するために

2026/03/10

連載 関係性から考える大学のアレコレ
9回 豊かな生態系を維持するために
佐藤 万知


 本連載「関係性から考える大学のアレコレ」も今回が最終回となる。「大學新聞に連載をしませんか」というお話をいただき、テーマを決める上で、この新聞をどのような人がどのように読んでいるのだろうかと想像してみた。紙面を見ると、学生を育てよう、学生に主役になってもらおうという想いがあふれる独自の取り組みが熱量の高いメッセージと共に紹介されており、読んでいるだけでもワクワクとしてくる。そのような中、ふと「もし自分が高校生で、まだ何をしたいのか、将来どうなりたいのか分からなかったら、何が正解なのかに悩み、選ぶことができなくなるのではないか」という考えが頭をよぎった。つまり、目標を設定して主体的に取捨選択をする、という逆算的思考は、合理的な側面がある一方で、意思決定が個人の責任となり、少ししんどいのではないか、と。
 そこで本連載では、知らずうちに動かされるようなこと、巻き込まれることで原動力が生まれるようなことを考えてみたく、大学を事例に関係性そのものに焦点を当て考察を重ねてきた。
  
12回では大学という状況そのものに参加するという視点でキャンパスについて考え、第3回には自分の意思で行っていると思っていることも実は状況や環境に動かされている部分が大きいのかもしれない、という視点を紹介した。第4回では大学教員を動かしてエネルギーを生み出す共愉性をもった集まりについてふれ、第56回では大学教育の目的と教育活動のみに従事する大学教員についてを考えた。
 第7回には参加することである実践について熟達するような特徴を持つ実践コミュニティという観点から大学の活性化について論じた。そして第8回では大学と言語と社会の関係性についてマレーシアの事例を紹介した。
 これらの描写から、必ずしも個人が意思を持たなければ行動や変容が起きないわけではなく、時には状況や環境に身を置くことで、他者やモノなどから影響を受け、同時にそれらに影響を与え、相互に変容しながら存在しているということが見えてきただろうか。そのような生態系のような中に自分も存在していると考えると少し肩の力を抜いて、相互作用に身を任せてみようという気にならないだろうか。
 しかし生態系が維持されるためにはある種が自分たちの利益を優先し、他をコントロールしようとするなど、生態系のバランスを大きく損なうことがないようにしながら、多様な種が共存できるようにすることが重要だ。そこで最後に豊かな生態系が維持されていくにはどうすれば良いのかという点について考えてみたい。
 ここで紹介したいのは、学問的誠実性だ。この言葉は高校の探究学習において求められる態度・姿勢としても使われるため、耳にしたことのある方も多いかと思われる。学問的誠実性とは、知を扱うに当たり、学問的に望ましい行いについて理解し、責任感を持ち、倫理的に行動すること、そして学術のコミュニティに関わる一員として、学問的誠実性を大切にしようとする文化を涵養していくことに関わることを意味する。つまり、大事だと思うことを共有し、お互いを尊重して、行動を起こすこととも言える。
 
例えば、学問的誠実性が共有された教員と学生の参加する授業であれば、教員と学生の役割は異なるが授業に関わるという点において対等に責任を持つことになり、お互いに対する信頼を生み出す基盤ともなる。
 そうすると授業は安心して知を扱うことのできる場になり、教員と学生や学生同士が活発に議論をし、一人では得ることのできない意義深い学修経験が生まれる。多くの人が過ごす大学という場が、試行錯誤を許容し、より豊かな経験を促すような関係性にあふれたところになるよう、これからもその在り方について対話を通じて考えていきたいと思う。




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