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第2回 体験から、自分を読み解く

2026/07/17

連載 進路は、日々の選択でつくられる
2回 体験から、自分を読み解く
立石 慎治

 

 夏が来ている。オープンキャンパスに参加する高校生も多いことだろう。「楽しかった」「雰囲気が良かった」「思っていたのと違った」といった感想が返ってくる。体験を振り返ることは生じた関心や違和感、迷いを手がかりに自分の価値観や判断基準を育てる営みであり重要だ。
 私自身、高校時代を振り返ると、体験を深く意味づけて進学先を決めたというより、自宅から通えるという現実的な条件や、何となく興味を持てそうかという感覚を頼りにしていたように思う。そうした現実的条件や感覚も、進路を考える上で大切な手がかりではある。ただ、体験で生じた反応を振り返り、自分の価値観の主軸へ結び直す機会が加わって、体験はより確かな進路選択の材料になるのではないだろうか。
 国立教育政策研究所の『令和7年度キャリア教育に関する総合的研究』では、体験活動の事前・事後指導を行う高校のうち、事後に報告書やレポートを作成させる学校は878%だった。一方、経験を教科学習や学校生活につなげる指導は340%、卒業後の進路につなげる指導は485%、これからの在り方や生き方につなげて考えさせる指導は410%となっている。どうやら書く機会は広く用意されていそうだ。しかし、その言葉を本人の学びや生き方へつなげるところには、大きな余地が残されている。
 記憶は薄れていってしまいがちだ。そのため、報告書を書き、体験を言葉に残すのは重要な出発点だ。もちろん、「模範解答」などここでは要らない。報告書は、自分が何に反応したかを読み解き、関心や価値観を探るための手がかりとして書くものである。
 もし体験の深掘りが難しいと感じるなら、このような問いを考えてみるのも良いだろう。「いま手元にある感想を書いたのが、私ではない別の人だとしたら、その人はどのようなことを気にする人だろう。何を大切にしていそうだろう」――。
 この問いに近い発想として、青年期を対象にした研究によると、自分の経験を少し離れた視点から振り返ること(「自己距離化」という)は、出来事の意味を捉え直すことと関連するという。例えばオープンキャンパスの感想に「図書館が落ち着いていて良かった」「学生同士の距離が近かった」「説明が一方的に感じられた」と書いた時、少し離れたところから読むと、価値観の手がかりが見えてくる。この人は「学修環境を大事にしていそう」「友人関係やコミュニティを重視していそう」「対話を大切にしていそう」と読める。このように、オープンキャンパスは大学を知る機会であると同時に、自分は何に反応する人かを知る機会にもなる。
 大事にすべきなのは、いまの自分を表す言葉だ。人には自分のペースがあるのだから、仮のものでももちろん良い。「まだ分からない」「別の大学も見たい」という答えも、体験から得た大切な手がかりである。志望校が決まることが体験の成果になる人もいれば、迷ったままだけれど迷いの中身が少し具体的になったことが成果となる人もいる。キャリア理論家のマーク・サビカスのキャリア構築理論も、経験を語り直し、意味を与える過程を重視する。意味づけは、他者との対話を通して自分の言葉を見つける過程でもある。
 進路は、本人の意思だけではなく、成績、家計、地域、家族との関係、心身の状態、偶然の出会いなどが重なって形づくられる。そして、高校卒業後も続く進路の選択を、最終的に引き受けるのは本人である。だからこそ、本人が自分のペースで次の一歩を考えられるよう、経験の意味づけを支えることは、周囲が担うキャリア支援の役割なのかもしれない。
 体験で生まれた言葉を残しておけば、後に迷った時、かつての自分が判断の手がかりをくれる。記録は変化した自分が過去の自分と対話し、次の選択を考えるための材料になる。次回は記録が未来の自分に果たす役割を考えたい。



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