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第3回 記録を、考え直す手がかりに

2026/09/12

連載 進路は、日々の選択でつくられる
第3回 記録を、考え直す手がかりに
立石 慎治 

 九月になると、夏に体験したことは少し遠く感じられる頃だろう。卒業年次の生徒にとっては、これまで以上に進路を具体的に考える時期である。卒業まで時間がある生徒にとっても、夏に見聞きしたことは、来年以降の進路を考える大事な材料になる。
 ただ、体験の細部は案外早く薄れていくものである。オープンキャンパスで聞いた話、職場を訪ねて見聞きしたこと、模擬授業でおもしろいと思った場面も、授業が始まると日々の生活に埋もれていってしまう。体験した直後は印象の強さもあって細かく覚えていても、後から思い出そうとすると、「良かった」「大変だった」といった大まかな感想しか出てこないこともある。前回の本欄では、体験を振り返ることの大切さを取り上げた。その時考えたことを、後から思い出せるように残しておく。それが記録の大切な役割だ。
 進路を考える場面で記録と言うと、将来の夢や志望先を書き、それをめがけてぶれないために残すものと思う人もいるかもしれない。そういう面もあるが、決してそれだけではない。記録は、後で読み返した時に、当時の自分は何を気にし、何を意外に思い、何をもっと知りたくなったのかを確かめるために残すものでもある。記録を残すのは、決めた進路に向けて進むためだけではない。後で読み返し、考え直すためでもある。
 「キャリア・パスポート」も、本来はこのための道具である。小学校から高校までの学びや活動を記録し、後で振り返ったり、これからの見通しを立てたりするための仕組みである。国立教育政策研究所の『令和7年度キャリア教育に関する総合的研究第一次報告書』では、高校入学後に「キャリア・パスポート」を活用した授業を受けたと答えた高校生は34・9%で、「わからない・覚えていない」は50・3%だった。一方、活用した授業を受けたことがある高校生の86・5%は、書いた記録を振り返ることに価値があると答えている。その生徒たちに使い方を尋ねると、「自分の成長を確認している」が53・3%、「自分の進路選択・決定の資料としている」が34・4%だった。大切なのは、記録を残すこと自体ではなく、生徒本人が後で読み返し、考える材料として使えるようにすることである。
 記録を残す時、最初から整った文章にする必要はない。まずは、短い言葉や箇条書きでも良いので、思い浮かんだことを書き出してみる。授業名や訪れた場所、そこで聞いたひと言、印象に残った場面など、体験を思い出す手がかりを残しておけば良い。書き足したり、まとめたりするのは後で良い。
 時間を置いて読み返すと、バラバラだったメモから、よく覚えている場面や予想と違ったところ、もう少し知りたいことを拾いあげることができる。大学の授業は思ったより身近に感じられたのか、反対に難しさを覚えたのか。これらは、これからの進路を考えたり、次に調べることを決めたりする時の材料になる。
 教員や保護者にできることも、記録を書かせることだけではない。「将来何になりたいのか」「やりたいことは何なのか」と尋ねるだけでは、すぐに答えられる生徒もいれば、答えにくい生徒もいる。記録があるなら「この時はなぜそう書いたのか」「いまはどう思うか」「考えが変わったなら何がきっかけだったか」と聞くことができる。文章として整っているかを先に評価するのではなく、生徒が考えたことを一緒にたどるための材料として使いたい。
 もちろん以前に書いたことと、いまの考えが違っていても構わない。何がきっかけで変わったのかを、少しずつ自分なりに言葉にしていけば良い。一方で、読み返してみると、同じことが何度も気になっていたと分かる場合もある。そこから、理由や背景を調べてみたいと思うこともある。問いを立てて調べ始めれば、探究の入り口になる。次回は、記録を読み返す中で生まれた問いを、どう探究につなげるかを考えたい。

 

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