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第2回 国際教養大学の実験

2004/06/25

 国立大学の法人化が一斉に始動して早くも二ヵ月半が過ぎた。中味が変わらないままの組織と制度の再編なので、これで日本の高等教育が再生し、国際的競争力をもつようになるのかどうか、その先行きが注目される。私たちは、これまでの日本にはない全く新しい特徴をもつ大学・国際教養大学を唯一の公立大学法人としてこの四月に開学したので、今回はその近況を報告させていただくことにする。

 新しい特徴というのは、①すべての授業が英語で行われ、外国人比率が六割強の教員はもとより、職員も英語に堪能なことを条件に採用したので、学内の会議も英語で行われる②学生には一年間の海外留学が義務づけられている③新入生は全員が個室全寮制④図書館は二十四時間開館⑤全教職員が三年間の任期制で給与も評価に基づく年俸制⑥入試試験は学外者を含むアドミッション・オフィスが方針を策定し、実施する⑦教員人事を含め学長のリーダーシップのもとで大学経営会議が経営の責任をもつ⑧中期計画では財政的にもできるだけ自主財源を確保することをめざす、といったかたちで整理できよう。

 こうして多くの注目を集めた国際教養大学が、秋田県雄和町に開学した。遠くは沖縄や鹿児島県、長崎県など全国各地から、大変な入試競争率(前期日程は二十三・二倍、後期日程は四十五・二倍)をクリアして入学した学生たちが、すべて英語で行われる授業に活き活きと励んでいる。入学式直前のTOEFLテストで能力別に少人数のクラスを編成したが、一年次の英語集中課程(EAP)では七・五週毎のテストでクラスが再編されるので、大いに頑張り甲斐があるようだ。二回目のテストでは平均四十七ポイントも成績が上がった。図書館では、「こんなに勉強したのは初めて」という学生たちが深夜まで自習している。

 定員一〇〇名を「暫定入学生」(成績優秀なら一年後に正規学生になれる)を含めて新入生一四八名を受け入れたが、開学してみて予想外だったのは、学生たちが個室全寮制の生活に大いに満足し、キャンパス・ライフを楽しんでいることである。

 入学式では新渡戸稲造の英語原文の『武士道』を共通の必読書にしようと英語で訓辞し、「諸君の中から二十一世紀の新渡戸を期待している」と結んだのだが、グローバル化の時代は同時にアイデンティティの時代でもあるので、秋田県は自然や伝統が大変に個性的であり、「国際教養(InternationalLiberalArts)」という新しい学問を培うにはもっともふさわしい場所かもしれない。

 それにしても、国際教養大学の発足までに秋田県では、国際教養大学の設立をめぐって県議会や県民の間で激しい論議が重ねられてきた。二十一世紀の高等教育をめぐってこれほどの論争があった県は、秋田県以外にない。従って私自身もきわめて重い責任と決意で学長への就任をお受けしたのだが、それだけに開学の成功を喜ぶ県民の声も強く、去る五月二十二日には全県をあげての祝賀会が秋田市で催され、文部科学省からも御手洗康・事務次官が出席された。

 スズキ・メソード出身の国際的なヴァイオリニスト渡辺玲子さんは、特任教授として芸術・芸術論(音楽と演奏)の授業を担当しているので、祝賀会では得意のカルメン幻想曲(ワックスマン作曲)を弾いていただいた。

 本学のトップ諮問会議(議長は明石康・元国連事務次長)のメンバーでもある評論家の大宅映子さんには、「国際人とは」と題してユニークな記念講演をしていただいた。

 この六月中旬に始まるサマープログラムには五十名以上の留学生が来校することになっており、秋田杉の美しい森に囲まれたキャンパスは、異文化空間としてさらに輝くことであろう。

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