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第4回 高等教育改革の国際的比較-アメリカと比べて-

2004/10/25

 わが国は現在、国立大学法人化やいわゆる「二○○七年問題」に見られる大学へのユニバーサル・アクセスの時代を迎えて、高等教育機関とくに大学にとっての歴史的な転換期にある。しかし、わが国のみが大きな課題を負っているわけでは決してない。「国家百年の計」として教育の重要性を考えている点は、どの国にも共通しているのである。

 ブッシュ米大統領が二○○二年に策定して注目された「落ちこぼれをつくらない法」(LawofNoChildLeftBehind)は、幼児教育重視の政策としても注目されたが、十分な予算措置が伴われていないので、教育水準の格差がかえって広がったとの見方もあり、現に今回の大統領選挙でも重要な争点の一つになっている。ひるがえってわが国ではどうであろうか。いわゆる三位一体改革の一環として義務教育国庫負担分の地方財源化が話題にはなっているが、それは主に財政上の問題として論議されているのであって、教育の在り方それ自体が政治的争点になっているわけではない。

 ところでアメリカの場合、高等教育は日本の状況とはほぼ逆に、四年制大学の約七十%が私学であり、残りの大部分が州立であるが、学生は約三十%が私立の大学に通っていて、残りの大部分の学生は州立の大学に在籍している。カリフォルニア州などは大部分の学生が州立の大学生だといってよい。たとえば、私が教鞭をとった経験のあるカリフォルニア大学サンディエゴ校は、有名なバークレイ校をはじめ全部で十のキャンパス(分校)をもつ州立のカリフォルニアの大学(UniversityofCalifornia)の一つであるが、サンディエゴ校自体が広大なキャンパスを持つ総合大学だといってよく、もう十年以上も前になるが、当時サンディエゴ校だけでノーベル賞受賞者が八名もいた。カリフォルニア州には、私立大学としては著名なスタンフォード大学などもあるが、州立大学としては十のカリフォルニア大学以外にサンフランシスコ州立大学、サンディエゴ州立大学などの大学があり、さらに多くのカレッジやコミュニティ・カレッジがあるという構造になっている。

 州立大学や私立大学も財政的には連邦政府(国家)からかなりの支援を得ている場合が多く、このような財源の多様性という点でも日本の大学とは大きく異なっている。しかも、アメリカの多くの大学が財政的困難から主として九十年代前半に授業料を大幅に値上げしたことにたいしては、連邦政府が大学生をもつ家庭にたいして学生一人当り最大千五百米ドルの減税措置を講じたり、様々な奨学金制度を強化してきている。こうしてアメリカでは約五十%の学生に連邦政府が奨学金を与えているのであり、これに州政府や大学独自の奨学金を含めると、約七十%の学生が学部段階でもなんらかの奨学金を受けている。州立大学に在学する州の学生の授業料は概ね州外学生の三分の一ですむこともよく知られている。

 ここに見られるように、教育にはコストがかかることを、指導者自身が自覚し、教育力の向上を最優先の課題にしていることを忘れてはならない。アメリカの場合、さらに大学院教育がきわめて充実しており、加えてビジネススクール、ロースクール、メディカルスクールなどの専門大学院が発達している。わが国でも、私が部会長を務める文部科学省中央教育審議会大学院部会で大学院改革のための真剣な議論がいままさに行われているが、大学院教育をアメリカと比較すれば、克服しなければならない課題はあまりにも多い。

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