トップページ > 連載 21世紀の大学に求めるべき課題 > 最終回 高等教育の将来像と国際教養大学

前の記事 | 次の記事

最終回 高等教育の将来像と国際教養大学

2005/02/25

 一年間にわたって連載させていただいた私の大学論も、今回が最終回になった。そのような折しも、文部科学省の中央教育審議会が去る一月二十八日に答申した「我が国の高等教育の将来像」の審議には、私自身も加わってきたので、今回はこの答申にも触れつつ、同時に、開学一年を過ぎようとしている唯一の公立大学法人・国際教養大学の実験についても語ってみたい。

 「我が国の高等教育の将来像」と題された今回の答申は、その位置づけの重要性からすると、これまで大学審議会や中央教育審議会が出してきた高等教育に関する答申のなかでは、平成十(一九九八)年の答申「二十一世紀の大学像と今後の改革方策について-競争的環境の中で個性が輝く大学-」と並ぶ重要な意味をもつものと思われる。それは、「知識基盤社会(knowledge-basedsociety)といわれる二十一世紀において、わが国の高等教育のグランドデザインとも見られる将来像を描きつつ、大学、大学院、短期大学という高等教育全体の役割を明確にするばかりか、とくに大学の個性と特色を求めようとする方向が強く押し出されているからである。具体的には、大学の機能別の種別化を図り、

(一)世界的研究・教育拠点

(二)高度専門職業人養成

(三)幅広い職業人養成

(四)総合的教養教育

(五)特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育・研究

(六)地域の生涯学習機会の拠点

(七)社会貢献機能(地域貢献、産学官連携、国際交流等)

といったそれぞれの機能が分化していくことを想定し、各大学はこれらの機能のいずれかもしくはいくつかに種別化して特長を出すべきことが期待されることとなった。したがって大学院に重点を置く大学や教養教育中心のリベラル・アーツ・カレッジ型の大学が、米国の多くの大学のように、それぞれに個性を持って役割分担することが必要になる。

 こうした方向性が打ち出された大きな理由としては、いわゆる「二〇〇七年問題」ともいわれる、大学の総定員と受験者数がほぼ一致して、誰でも大学に入れるようになるといういわゆるユニバーサル・アクセスの時代が目前に迫り、大学間の学生獲得競争が熾烈化するとともに、外国の大学の参入など、大学市場がますます国際化することが背景に存在する。こうしてわが国の大学は、その数が規制緩和の波に乗って依然として増え続けるという悪循環のなかで、今後ますます苦闘を強いられることになるのである。

 そうしたなかで、秋田県に全国初の公立大学法人として開設された国際教養大学は、「秋田に奇跡が起こっている」といわれるほどの成功を現段階では収めている。学生定員百名に対し、教員数が非常勤を含めると六十数名(専任教員は四十三名)という手厚い教育体制にあり、授業はすべて英語で行われ、一年間の海外留学が義務づけられ、新入生は全員一年間の寮生活、図書館は二十四時間開館、成績次第で二年次から正規学生になれる¢暫定入学」制度などの特徴が歓迎されたのか、初年度の入試は前期A日程(三教科)が二十三倍、前期B日程(五教科)が十三倍、そして後期日程はなんと四十五倍という高倍率で、全都道府県から出願があり、優秀な学生諸君を迎えることができた。しかも最後まで国際教養大学を第一志望にしている受験生が多く、三月下旬に行われた後期日程の実質受験倍率は三十六倍であった。

 開学二年目の平成十七年度入試は現在実施中であり、本年からは大学入試センター試験の成績が加味されるので、昨年に比して受験者はかなり減少するのではないかと思われたが、実際の出願状況は定員三十名の前期A日程(三教科)が十七倍、前期B日程(五教科)が十一・五倍であり、今年も全都道府県から出願があって、しかも秋田県内者と県外者の比率は一対九となっていて完全な全国型になっている。後期日程はまだ出願締め切りに至っていないが、国際教養大学は国公立大学の前後期分離分割方式を離脱していることもあって、今年もかなりの高倍率が予測される。しかも受験率がきわめて高く、さる一月二十七日の前期A日程試験(定員三十名)は九十九・六%、秋田会場などは雪の中を八十五名の受験者が全員受験していた。二月十九日の前期B日程(定員三十名)の場合、A日程合格者は当然欠席するのだが、実質受験率は全国六会場の合計で九十一・六%であった。成績上位者の中にはセンター試験の英語が満点という受験者が何人か出願しており、それらの受験者は他の受験難関校(東京外大、ICU、上智、大阪外大、早稲田など)との併願者も多いが、国際教養大学への志望動機も強く、すでに一年生はTOEFLの平均点が五百三十前後で、英語で国際問題や社会問題を堂々と討論しているといった成果が広く認められているものと、さらに全学一致して教育に力を注ぎたいと考えている。

 「我が国の高等教育の将来像」答申の区分に従えば、国際教養大学は「世界的な教育拠点」であると同時に「総合的教養教育」をめざしており、「教養」の重要な要素としての外国語の高度なコミュニケーション能力とともに、第一級の「教養」を身につけるために「芸術・芸術論(音楽と演奏)」ではわが国を代表するバイオリニストに特任助教授として、「美術史」では国際的に活躍している美術史家に特任教授として出講していただくこととしている。 海外からの留学生も多く、居ながらにして異文化空間となっている国際教養大学の開放的なキャンパスをぜひ多くの方々にお訪ねいただければ幸いである。

前の記事 | 次の記事