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第43回 山形大学 結城 章夫 学長インタビュー

2008/04/02

学生中心の大学づくりをめざす

結城 章夫(ゆうき あきお)
 1948年山形県生まれ。1971年、東京大学工学部物理工学科卒業後、科学技術庁入庁。1975年にミシガン大学大学院原子力工学科を修了(工学修士)。中央省庁再編後、2005年には旧科技庁からの初の文部科学省文部科学事務次官に就任。2007年7月に退職後、同年9月より国立大学法人山形大学学長となり、現在にいたる。

 

本紙 国立大学の学長としては異例の経歴だが、今回の選出をどう受け止めている?
 私は大学を外から見てきたので、その分、危機意識を強くもっていました。今回、私が外から学長に招かれたということは、外部からの視点で思い切った改革をやってもらいたい、大学人による中からの改革の限界を突破してもらいたいということだと、受け止めました。

本紙 中から反発の恐れは?

結城 章夫学長(以下敬称略) 少なからず反発はあったと思います。「天下り」ということも言われました。しかし、山形で生まれ育った私にとって、山形大学はふるさとの大学です。
 私は文部科学省の官房長の時代に、国立大学の法人化法案を担当しましたので、国立大学の法人化の結果については、強い関心を持っていました。事務次官の時の2年半の間に、87ある国立大学のうちの71大学を訪問しました。そういう時に、山形大学へとの話があったのです。私にとっては、まったく未経験の分野で、不安もありましたが、「山形大学に来てくれないか」というお誘いに、これを断ったら男ではないなという気持ちもあり、学長選考に出馬をしたわけです。
-就任後すぐに「結城プラン」を打ち出しました
 就任して私が言ったことは、二つだけです。それは、なによりも学生を大切にした学生中心の大学づくりをする。教育、特に教養教育を充実させるという2点です。
 やはり、どうやってそれを実現するかというアクションプランが必要だと思いました。就任後、4カ月間仕事をしてみて、山形大学の課題や向かうべき方向性が見えてきましたので、この結城プランを打ち出しました。

本紙 課題とは何か?

結城 一番大きな課題は財政問題です。国立大学を支えている国からの運営費交付金が、毎年1%ずつ減額されています。5年経てば5%減となり、20分の1の規模が縮小されてしまいます。この経営が逼迫していく傾向は、山形大学や多くの地方大学にとっては、大きな問題です。

本紙 どのような対策を考えているか?

結城 まずは、科学研究費補助金などの競争資金や、科学技術振興機構の資金などを獲得したいと思います。
 本学には世界に誇れる研究があって、先生方の実力はあるのだけれども、競争的資金への応募が遠慮ぎみでしたので、先生方を激励し、積極的に応募してもらっているところです。

本紙 国からの資金だけで十分なのか?

結城 国の資金だけではやはり足りません。企業との共同研究や、民間からの奨学寄付金をお願いしています。
 それから、「未来基金」という、卒業生やご父兄からの寄付をお願いしています。
 この基金の元金には手をつけずに利息を優れた学生や頑張っている学生に、奨学金としてさしあげるつもりです。
 この制度は、この4月から始めようと思っていまして、学部生を対象に、1~2年生の間の学業やその他の活動を見て、優秀な学生には、当面学生全体の約1%にあたる15~20人くらいに、3~4年生の2年間、月3万円ずつ奨学金をあげるというものです。
 そうすると1年間で一人36万、10人だと360万、20人で720万が必要となります。1千万円もあればできますね。最初は学長裁量経費から数百万を出しますが、学長裁量経費だけではなかなか長続きしません。「広く薄く、繰り返し、長く」というコンセプトで募金をして基金を造成していきます。

本紙 企業の反応はどうか?

結城 まだこれからです。企業からの募金も期待していますが、ただただ寄付をお願いしますというだけではだめであって、基本は山形大学がいい大学だ、応援したい、いい研究をしていて、いい学生を育てているという風になっていないと、声高に希望しても寄付は集まりませんよね。だから、大学を、まずよくしていくことが大事で、それと並行して、企業への声かけの活動をやっていきます。

本紙 「結城プラン」でいう学生が主役というのは、どういう意味を持つのか?

結城 私は、教職員の意識改革を迫る意味合いを込めて、「何よりも学生を大切にし、学生が主役となる大学づくりをする」と、言っています。
 この学生中心主義が学生を甘やかしたり、学生に媚びたりすることにつながるようなことは、あってはなりません。教職員は、人生の先輩として、学生に対しては、常に暖かく、かつ、ときには厳しく対応すべきであると考えています。

本紙 学生には、主役だという意識があるのか?

結城 学生にもよりますが、鶴岡キャンパスには、「エコキャンパス」といって、ゴミの分別回収とか、卒業生のいらなくなったテレビや冷蔵庫などの家電を、新入生にリサイクルしている学生団体があります。非常にすばらしいと思って、学長表彰をいたしました。徐々に、そうした学生たちが増えてきてくれると思います。
 また、学生にとって勉学が大事ですけれども、サークル活動もとても大事ですので、サークル活動を積極的に応援していきます。

本紙 なぜサークル活動を大切にするのか?

結城 大学時代のサークル活動は、スポーツで体を鍛えたり、芸術文化に触れて感受性を磨いたりすることができる貴重な体験活動です。サークル活動を通して、その後の人生にとって重要な「人間力」を育成し、鍛えていけるので、学生に対しては、サークル活動への参加を、大いに奨励したいと考えています。
 私の大学時代は、ワンダーフォーゲル部に参加し、その時に得た山登りの経験は、私のその後の人生を豊かで潤いのあるものにしてくれました。また、その時に得た友人は、今でもつきあいが続く、一生の財産となっています。

本紙 「結城プラン」のもう一つ、教養教育については?

結城 大学生の時には、人間とは何であるのか、人生をどう生きるべきかといった根源的な問題意識を持っていてもらいたいですね。そして、自分の専門だけではなくて、すべてのことにどん欲な好奇心をもって、いろいろなことを勉強してもらいたい、読書もいっぱいしてもらいたい、友人と激論を交わしてもらいたいし、先生と人生を語り合ってもらいたい。そういうことをするのが大学という場所じゃないかと思うのです。
 だから、教養教育が大事なのです。人間力の育成というか。そういう思いで、教養教育の充実を言いました。その一環でサークル活動も重視しています。

本紙 キャンパスが分散されている山形大学だが、教養教育の間はどうする?

結城 1年間は、山形市の小白川キャンパスで教養教育をやって、2年から工学部は米沢キャンパス、医学部は飯田キャンパス、農学部は鶴岡キャンパスと分かれていきます。ですが、その仕組みを、見直そうという議論もあります。

本紙 具体的には?

結城 まだ明確には言えないけれども、教養教育の期間が1年だけでいいのかという問題もありますし、いまはまず教養教育をやって、そのあと専門教育と、横に切れています。
 それを縦に切って、3年生、4年生でも教養教育をやる。あるいは、1年生も少しは専門教育にも触れるとか、横に切ってあるものを、縦にカリキュラムを作りかえていくことも考えられます。
 しかしそうなると、米沢キャンパスや鶴岡キャンパスでも教養教育をしなければいけません。課題はたくさんありますので、あれこれ議論をしています。

本紙 「学長せんべい」は、ユニークな取り組み

結城 結構、売れているようですね。うちの家内も相当買っています。
 また、学長になるべく親しみを持ってもらう取り組みとして、「学長オフィスアワー」をやっています。月1~2回の頻度で、これまで7回やりました。場所は、すべてのキャンパスでやりました。ある時間帯を決めて、学生、教職員など、「学長にものをいいたい人はどなたでも来てください」ということで、いろいろな人が来てくださいました。

本誌 どんな話があるか?

結城 教職員の方は、仕事に関する話が多いですね。
 学生からは、図書館をもっと長く開館してほしいとか、学生食堂が狭いとか、進路についてとか、さまざまです。また、自分はこんな活動をしていると、PRしてくる学生もいました。

本紙 少子化が続くが、これからの大学づくりとは?

結城 やはり大学の特色を出し、強いところを伸ばしながら、山形大学の魅力に惹かれて、ぜひ入学したいと思われる大学になりたいものです。
 さらに、これまでは競争という面が強調されてきましたが、これからは、競争だけでなく、協調、連携、協力が大事だと思います。山形県の11の高等教育機関と山形県で組織する「大学コンソーシアムやまがた」の強化・充実を図りたいと思います。

本紙 山形大学の強みとは?

結城 弱みという人もいるかもしれませんが、分散キャンパスになっていることです。これは別な言い方をすれば、県内の主要都市に根を張っているということでもあります。地域貢献が非常にやりやすい体制になっています。鶴岡にも米沢にも山形大学の戦略拠点があるということですから、地域貢献をきめ細かくできる体制です。より一層、地元にとって不可欠な大学、ということをめざしていきたいです。

本紙 一見、弱みなところが、強みになる?

結城 考えてみれば、これからは大学の再編・統合の時代です。そうなると、統合した大学は分散キャンパスになるわけで、本学がその経営の仕方のモデルを作れれば、全国に発信できると思います。
 そして、遠隔授業や、EラーニングなどのICT技術を、どう使いこなすかが、非常にチャレンジングな課題となるでしょう。

本紙 高校の先生に対してメッセージを

結城 単に偏差値での大学選びではなく、生徒と大学のマッチングを考えた進路指導をお願いしたいと思います。
 山形はとても自然環境がいいですし、町並みも落ち着いていますから、勉学をするにはとても適したところです。じっくりと勉強をし、深く思索をしたい人は、山形にいらっしゃいと言いたい。本学では、これからも教育を大事にし、学生を中心とした大学づくりを進めていきたいと思います。

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