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第44回 文教大学 拝仙 マイケル 学長

2008/05/07

拝仙マイケル(Michael Huissen)
 1950年米国ウィスコンシン州生まれ。1974年ハーバード大学大学院にて、地域研究・東アジア修士課程修了。その後、日本で英語教師をしながら、日本語を独学で習得。1981年に帰化する。文教大学には30年以上勤務しており、同大の文学部長を経て、2005年学長に就任。同大のキャンパスを訪れ、教職員や学生と交流することを楽しみにしている。

 

 日本で初めて私立大学として教育学部を設立し、昨年に創立80周年を迎えた文教大学。今年度から、学部改編や国際交流の強化など、改革を進める拝仙マイケル学長にお話をうかがった。
(インタビューは4月10日)


―学部改編など、大きな動きがありましたが、どのような趣旨で行われましたか?

 大学改革の背景は、建学精神の「人間愛」に基づいた教育内容を深めることが目的になっています。
 それは、以前本学で行った「大学評価アンケート」の結果で、学生に建学精神がほとんど浸透していなかったことと関係しています。80周年という区切りの年でもあったため、本学の建学精神を再度浸透させるためにも、大学改革を実施したのです。


―建学精神である人間愛にはどのような教育目標が設定されているのですか?

 「人間愛」という建学精神は、文教大学学園全体の教育理念であり、幼稚園から大学院まで一貫した教育目標となっています。
 学園がめざす人間愛とは「生命(いのち)を大切にする心」を育む教育です。それは、人と人が認め合い、お互いを思い合う社会を理想としています。
 その教育目標を達成するためには、異文化に対する理解力と人間のあり方について学びを深めるカリキュラムを強化しなくてはいけません。まず国際学部と人間科学部を改編したのはその部分に該当するからです。また、他学部でもカリキュラムの一部を変更しています。その一例に、ほとんどの学部で一年次から教養教育の一環として、時事問題に対するプレゼンテーションなどを課し、世界情勢や人間社会について関心を持たせています。
 学びの場所は日本だけでなく、海外も視野にいれています。本学では、在学中に多くの学生が海外の大学で学べるよう、長期留学だけでなく、短期間の留学プログラムも用意しています。
 異文化に触れる経験は、学生たちの意識に変化をもたらしていくのです。


―留学プログラムの具体的な内容について

 例えば、バングラデシュでの留学プログラムは、学生が現地の学校で子供たちと交流し、文化や生活を体験します。そこで、不十分な教育環境を目の当たりにした学生たちが、帰国後に、学校の建築費のために、自主的に募金活動を行ったエピソードがあります。こうした「他者への思いやり」から始まった活動は、本学の教育理念「人間愛」が実践された例だと思います。
 今年は日本文化の紹介として、昨年に留学協定を結んだ、アメリカにあるアーカンソー州立大学のフォートスミス校で、本学の和太鼓サークル「楓」が演奏を行う予定です。
 海外でさまざまな経験をすることが、世界に対する興味や関心を高め、学生たちの学ぶ力へとつながっていくのです。


―今後も国際交流を重視していくのですか?

 学びの題材は、日本だけでなく、世界にもたくさんあります。学生には、興味を持った分野があったら、国内外問わず追求してもらいたいのです。先日卒業生と食事をする機会があったのですが、彼らが、自分の学びを深めるために、卒業してから数年間留学していたことを聞きました。そこで、在学中にもっと気軽に留学できる制度を提供できれば、と考えたのです。
 本学では、短期で2週間程度の留学制度があります。留学先も、その国の文化や思想が学べるよう、14校の大学を協定校としています。以前は、国際学部で、東ティモールやコソボ共和国など、日本とかけ離れた政治思想を持つ国に学生を送り出していました。いまは政治が不安定な理由から実施していませんが、今後も、学生には多様な文化や思想に触れてもらいたいと考えています。
 また、今年から国際交流センターに専門の職員を配置するなど、学生が留学しやすいよう、学内の制度を整えていく予定です。将来的には、学生が海外の大学で学びたい学問があったときに、授業単位で留学できるようなシステムを作りたいと思います。


研究から教育中心へ移行


―入学式では、「君子は器ならず」を引用し、大学生活についてお話しされていました

 人間の可能性は無限大です。学生は、大学で出会う学問や多様な価値観を持った人たちと交流することで、自らの可能性に気付き、将来の道を見つけていくのです。 
 論語から「君子は器ならず」を引用したのは、入学してくる学生たちが、自らの可能性を狭め、大学を就職や資格取得のための「職業訓練校」と思ってほしくないからです。 そして、大学も就職や資格という器に学生を収めてしまう教育をしてはいけないのです。私自身も、大学で出会った学問で人生が大きく変わりました。アメリカの大学に入学したころは、医者になろうと考えていましたが、一般教養で学んだ東洋学がきっかけで、日本で学ぶことを決めたのです。
 学生の可能性を広げるために、より一層、教育面を改善していく必要があります。

―どのような点を改善していく予定ですか?

 以前実施した大学の自己点検評価報告書をみると、本学は研究に重きをおいている傾向がありました。大学の役割を大きく分けると、これまでは、「研究7・教育2・公務1」でしたが、これからは「教育7・研究2・公務1」にすべきだと考えています。これは研究を軽視することではなく、本学の役割を認識した上での判断です。
 世界に対して研究成果を発信していくのは、一部の大学でよいと思います。大学教育が大衆化している現代では、さまざまな学生が入学してきます。その中には、大学で学ぶための基礎学力がついていない学生も入学してくるでしょう。しかし、どのような学生であっても、社会で活躍する良き市民として、大学がうまく導いてあげなければならないのです。時代に合った教育プログラムを提供するには、現場を知っていなければなりません。そのために、周辺地域の高等学校と連携を結び、実態を把握しておく必要があるのです。

―今年の2月に、周辺高校との連携をしたのはその一例でしょうか?

 湘南キャンパスで、神奈川県の県立逗葉高校と県立横浜緑園総合高校などと教育交流協定調印を行いました。高校生が本学で講義が受けられるよう、科目履修生や聴講生として受け入れることを約束したのです。この連携をきっかけに、高校と大学の教員同士で情報交換を行う予定です。
 教育現場は刻々と変化していきますから、高校の状況を知る必要があります。また、本学には教育学部があるので、学生を教育実習に送り出す際にも、参考になります。

―小中高との連携が文教大学の教育を深めているのでしょうか?

 本学には、元小学校長の方が教員として在籍しておりますし、近隣の小中学校に、ボランティアスタッフとして教育学部の学生を毎年送り出すなど、近隣の学校とは昔から連携を取り、交流を深めています。
  その中で、教育現場の変化をつかみ、大学として、どう対応すればいいのかを知ることができるのです。
  現場の状況を学生教育へと反映させ、大学として教育を中心にしていくことが、結果として大学の研究にもつながるのです。


「教育の文教」が果たす役割

―文教大学がめざす方向性とは

 いまの日本に住んでいると平和や自由について考える瞬間は少ないかもしれません。ですが、世界では戦争が起きている国や、貧困や病気で苦しむ人々がたくさんいるのです。愛する家族と平和で安心のある生活を送りたいという願いは国や世代を問わず変わらないことです。
 この人類共通の願いが実現する社会を作るために、私たち一人ひとりが世界の中の市民としての意識を持ち、社会貢献していくことが使命だと考えます。
 本学の役割は、人間愛の精神を持ち、国際社会で活躍する人材を送り出すことです。学生には、「世界市民」としての自覚を持ってもらい、良き有権者として、社会のために行動を起こす人間になってほしいと思います。そのために本学は、教育内容を常に見直し、現状の問題点を改善していかなければなりません。

―大学改革は今後も続けていかれますか?

 完全な教育など存在しません。問題を見つけ、改善し続けていくことは大学としての使命です。
 日本の大学の悪いところは、戦後のエリート教育を未だに実践しているところです。かつての大学は、目的意識を持った学生が行く場所でしたが、いまはそうではありません。大学入学時に学生の進路がはっきりしていないことは不思議なことではないのです。大学の役割とは、学生の可能性を広げることです。そのために、教職員と力を合わせて改革を進めています。

―高校生・高校教諭へのメッセージをお願いします

 私は、「日本の社会に参加したい」という思いから、アメリカ人から日本人に帰化しました。日本での30年弱の生活の中で、日本国民として選挙への参加を一度も欠かしたことはありません。
 これからの社会を支える若者には、世界市民として、日本をみつめ、社会を良くしていってもらいたいです。そのためにも、高校の先生方と協力し、共に学生を育てていきたいと思います。

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