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第46回 東京工科大学 軽部 征夫 学長

2008/11/01

 

軽部 征夫(かるべ いさお)
東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻博士課程修了(工学博士)。アメリカ・イリノイ大学へ留学、東京大学先端科学技術研究センター教授、東京大学国際・産学共同研究センターセンター長を歴任。東京工科大学バイオニクス学部学部長、同大副学長を経て現職


 

 

 

理想の教育に全学で取り組む

 

 東京工科大学(東京都八王子市)の学長に今年6月より就任された軽部征夫学長に大学教育の理念と改革の構想をうかがった。
(インタビューは9月30日)


-学長に就任しての感想を
 本学のバイオニクス学部(現・応用生物学部)学部長、そして副学長を経て学長となりましたが、今後は大学のマネジメントに力を入れていきたいと考えています。
 研究者としてのキャリアは築いてきたという自負はありますので、今度は管理者としての力量を試されることになると思っています。
 これからの取り組みとして、まず学部の改革があります。
 蒲田キャンパスとして学部を二つ新設することを計画し、そして八王子キャンパスの学部を改革することです。
 本学の属する片柳学園発祥の地である蒲田には、平成22年の開学をめざして医療系と芸術系の2学部を計画しています。医療系につきましては私自身がバイオの専門家でもあり、またヘルスケアを研究することは大学の使命でもあると考えていたことから、以前より設立の構想を持っていました。具体的には看護、リハビリテーションといった医療従事者の養成です。
 そして芸術系学部ではデザイン・映像等の感性を重視した基礎教育を施し、3・4学年で高度な3D技術を学ぶことで感性豊かなグラフィック系のデザイナーを養成します。
 また、教育の方法や施設設備の見直しをはじめ、そもそも現在の学部構成が、社会のニーズに合っているのかどうかを含めて議論しています。

-それだけの改革・検討を進める学内組織について
 私が学長になってから、学内の組織を大幅に変えました。まずは、5人の学長補佐と2名の事務局員による編成で学長室をつくりました。学長室による学長室会議を開催し、各学部長を加えて学部改組等の検討を行っています。ほかに理事長会議、大学運営会議、評議会と、検討内容により異なる会議を行います。さらに、大学運営にかかわる全教職員が参加する全学教職員会議を、毎月1回開きます。

-全学教職員会議は、かなりオープンな印象を受けます
 そうです。今の時代は、会議のみでなく何でもオープンにしないと、組織の経営が行き詰まります。どのような運営が行われているかを皆が知ることが大切です。そうすることによりコンセンサスが得られます。
 もちろん決定者は必要ですから、学長室会議、大学運営会議、評議会で皆の意見を入れながら決定をしていきます。

-意思決定のスピードアップと同時に職員のモチベーションも高める会議について
 全学教職員会議は、大学経営陣の方針を知ることだけでなくFD、SDを兼ねたアゴラ(民会)的な存在にしています。
 迅速な会議運営をはかると同時に、全員にきちんと理解してもらう努力をしています。今はこんな時代ですから、トップダウンでないと駆け抜けられません。ただし、大学の自治がありますので、皆の意見をいただきながらトップダウンをしていくしかないと思います。

-なぜ、それだけ柔軟な動きがとれるのか
 大学自体が若いということと、本学の場合は教授会からボトムアップというより、学長室会議で大学の主要メンバーによる大学運営に関する議論をしますので、合意のとれるトップダウンで迅速な決定ができます。伝統校などでは、学部改革は10年かかることもありますが、本学では1、2年で可能になります。またそうでないと、生き残れないですよ。


会議運営と自治のバランス


-そのようなアクティブな行動が学生対応にどのように反映されているか
 学生に対しては、授業評価以外の項目も含む綿密なアンケートを徹底して行っています。その結果を教育に反映していく、私はその活動を「BEST CARE」と呼んでいます。
 先日も全教職員を集めて結果をフィードバックしたのですが、学生が本学のどこに満足で、何が不満かがよくわかりました。それは全部インターネット上にも公開しますが、各学部、部署に持ち帰ってもらい、来年1月の学長室会議に改革案を提案してもらいます。
 それから私の発案で学内各所に目安箱を設置しました。BBC(BOX for BEST CARE)といいます。学生は何か意見があればここに投函できますし、アンケートに記入もできます。
 いまや本学のように教育を主体とする大学は「学生はお客さんだ」という考えで学生が満足する大学を実現していかないと生き残れない。私自身がそういう強い信念を持っています。

-先生方の力が試されるところがある
 今、先生方に特別ボーナスを出しているのですが、来年はこれを教育力の強化軸にシフトしたいと考えています。ベストティーチング賞とかティーチング努力賞とか何かそういった教育にかかわるもの、あるいは学生をいかに良い企業に就職させたかといった成果を特別ボーナスとして反映できないものか、検討をしています。学長が先生方のボーナス査定まで計画するわけですから、当然責任は発生します。

-教育へのウエイトが高いと、研究はどうするのかといった意見が出ると思われる
 少なくとも私が副学長になってからは、人事委員会で「ここは教育のための大学です。7割は教育に力を入れてください」と言ってきました。
 今まで特別ボーナスは業績と役職に応じたもので、教育の部分を担保していなかったのです。それでは今まで教育に力を入れてきた先生方が報われない。論文を書くことは教育と反比例する傾向にあるので。やはり研究をやってきた人も教育に力を入れてきた人も、両方報いられる仕組みを作ろうという考えです。
 研究のために大学に来る教員も多いのですが、ここが教育のための大学だということが理解できない人は、「研究中心の大学へ行っていただいて結構です」と言ってきました。私たちがしっかり教育をして、年代が経つにつれ伝統大学になっていく。そういう道を歩むしかないと思っています。

-これから大学の役割はますます分化してくる
 そういうことです。年々、定員割れをしている大学が増えているわけですから。本学は大丈夫ですが、余力のあるうちに改革をしないと間に合いません。
 学長の一番の仕事は危機回避をすることです。黙っていても受験生が減っていくわけですから、定員割れしないように、どう改革するかが問われます。
 私の仕事は、どんな施設でどんな講義をさせるのかということ、そしてもっと大きな課題は、どういう教員を選ぶかです。

-片柳研究所について
 われわれは「実学」を教えているわけです。これは世の中でやっている学問ですから、ある意味、最先端なのです。その先端の部分を研究所の中で学生に触れてもらいます。同研究所には(独)産業技術総合研究所が入所し、大企業や官公庁の第一線の技術者も集まり、最先端技術の共同研究をする産学官の連携が行われています。その環境の中に本学の学部・大学院の学生を参加させることに大きな意味があります。


教育の原点はほめること


-高校生・高等学校教諭に対してのメッセージを
 これからの日本にとって、科学技術やものづくりの発展がなければ、産業立国としての未来はなくなります。高等学校の先生方には、生徒に対して科学技術に興味を持ってもらえるような授業や見学、高大連携を積極的にしていただききたい。今、理系の希望者が減っていて理系クラスの編成ができない高校もあるくらいですから。
 高校生に対しては、理系というのは文系に比べて、実験等に時間を割かなければいけないので、大変と思うかもしれないが、世の中は努力したことに等しい成果が、本人に返ってくることを理解してほしい。私の尊敬する人で、「電力の鬼」と言われた松永安左ェ門という実業家がそのように言っています。
 困難にチャレンジする習慣を身に付けると本当に人間として成長するものです。

-今の高校生にはハードルが高いのでは
 いえ、そんなことはありません。自分の「好き」を作れば良いのです。好きなことなら時間も何も関係なく取り組める。例えば数学だったら好きになる努力をすれば良いのであって、好きになってしまえばものすごく楽。それに問題を解くことが、おもしろいはずです。
 高校の先生には、とにかく生徒をほめてほしい。どんな小さな事でもほめる。例えば丸の描き方が上手なら、それを盛大にほめる。そうすると生徒は自信が付くのです。その積み重ねです。
 私はほめることが得意です。私の研究室から50人以上の大学教員がでています。
 皆ほめた結果だと思います。先生から認めてもらえば学生は達成感があるし、伸びるのです。学生をよく見てあげてほめること、それが教育の原点だと思います。

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