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「高大接続」という課題①
2009/03/28
昨年12月24日に中教審は「学士課程教育の構築に向けて」という答申\\\を出した。この答申の興味深い点はいくつもあるが、高校と大学の関係について従来とは大きく異なる内容になっている点もその一つである。
これまでの中教審答申では、大学入学者選抜の“多様性”を一貫して追及してきたといっていい。高校入学者の受入れが“適格者主義”を放棄し、実質的に義務教育に近い進学率となってきた流れとともに、専門学科の教育課程や進路多様校の問題など高校教育が多様化してきたことに対応して入試も多様化し続けてきた。推薦入試に加え、専門高校入試、AO入試と多様な入学者選抜を奨励する流れが続いてきたといってよかった。
この答申では、「いわゆる大学全入」を否定するのではなく、現状と認識しつつも、このまま多様化する大学入試を放置できないと、これまでの大学入試の見直しの必要性を明確に打ち出した。
今回はこの答申で論じられた高大接続についての議論の背景について整理しておこう。
中教審の議論が始まった2年前の段階で、最初に問われたのは、グローバル化が進み知識基盤社会という時代において、我が国の高等教育の質が国際的な目からみて通用性を持っているかという“質保証”という課題についてであった。ヨーロッパやアメリカなどの先進国でも、学生たちが身につける“学習成果Learning Outcome”というものが問われるようになっており“質”の向上という圧力は大きくなってきていた。
もう一つの観点は“量的規模”ということである。日本の高等教育進学率は「高すぎる」のか。大学の規模は過剰なのか。過剰であるから学生の学力低下が起こるのだという見方は、マスコミの論調にも少なからずみられた。これに対し中教審は、「高すぎない」という見方をとった。根拠として、OECDの2006年データから、大学型高等教育への進学率でみて、日本の45%という数字は、70%台のポーランド、アイスランド等の上位を占めるヨーロッパ諸国や64%のアメリカと比べても、OECD各国平均の56%、隣国韓国の59%のいずれと比べても低い。
しかし、現在の高等教育には大いに問題がある。これからは「学士課程教育(英語でいうUndergraduateに対応しており、学士号までの教育という意味)」というコンセプトで、質と量を両立する改革をしていかなければならない、というのがこの答申の中身になっている。
現在の日本の高等教育には問題が数多くある。第一に、学位授与(学士号を与える)の方針が明確でなく、学生が修得すべき学習成果が明確でないということである。大学に入学して単位を取ることだけでなく、「何ができるようになる」のかを明確にするというのは大きな課題である。各大学の責任で定めるべき学習成果の参考指針として示されたのが「学士力」である。そして各大学は、学位授与の方針に沿って、体系的に教育課程の編成をすることが求められた。
第二に、学習時間の実質化や教育方法の改善を図らなければ、学位授与の方針の実現も学習成果も実現できないということである。
第三の問題が、入学者受入れの方針である。特に問題視されたのが、推薦入試とAO入試という“非学力選抜”であり、私立大学では過半数がこれらの選抜を通じて入学してきている。AOはアドミッションオフィス入試の略ではなく、ALL OKの略語ではないかという話まで中教審では出た。
これからの連載で、これらの問題を検討していく。