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多様化した学生をどうするか

2009/07/10

 近年、同じ大学の新入生の間で学力も含めた“多様化”が進行してきている。国立や大手私大においても生じているといわれているが、中堅以下の大学でこうした傾向は顕著である。多様化といっても、その中にはさまざまな多様化が含まれている。学習習慣、学習目的、学習意欲、そして学力それぞれが多様化してきている。

 図はそのひとつの例である。昨年12月の中教審「学士課程教育」答申の中で、話題になったものの一つに高大接続テスト(仮称)がある。しかしこの議論の5年以上前に、大学入試センターは総合問題調査研究委員会という委員会をつくり、センター試験とは別に、多様な入試で入学してくる新入生のプレースメントや、推薦入試等の入学者の基礎学力を測定できるような、高校1年修了程度の「総合基礎試験」をつくるための試作問題(国語、数学、英語)を作成し、関東地区の高校生と、いくつかの大学・短大でモニター調査を実施していた。

 地方私大A大学はモニターの1校で、2004年度入学者に対して「総合基礎試験」の試作問題(国語、数学、英語)のモニター調査を実施した。筆者は共同研究者のひとりとして、A大学より提供された2004年度入学者の学業成績(GPA、取得単位数)及び学籍異動(退学・除籍等)に関するデータと、総合基礎の英語成績を用いた分析を行った。

 図中のアット・リスク学生というのは、学力事由の中退者と成績下位者、つまりこのままでは退学勧告を受けるくらいに学業成績(GPA)が悪い学生である。色の濃い棒グラフがアット・リスク学生の分布、もう一つが全体の分布である。学力上位にもアット・リスク学生はいるが、大部分は30点(6割)未満の入学時の学力下位者である。この試行テストは一定の基礎学力を確認する、基礎的なテストがあれば、学力の面でリスクの高い学生をある程度予測し対応することによって、退学者数を絞り込むことができる可能\\\\性があることを示唆している。

 それでは高校までの学力が大学入学後の成績を全面的に規定するかというと、そうではない。仮にそうであれば、新入生を選べない大学には救いようがないということになる。非学力選抜で入学してくる総合基礎試験の成績下位者でも、入学後に学習適応をしていった場合には、学力差をある程度カバーしてくれる。

 こうした大学での学習適応に有効だと近年注目されているのが初年次教育である。初年次教育とはアメリカで生まれたFirst Year Experience(直訳すると「初年次体験」)という教育プログラムが、日本で普及し始めたのは21世紀に入ってからといってよく、10年足らずの歴史である。

 「学士課程教育」答申では、「高等学校や他大学からの円滑な移行を図り、学習及び人格的な成長に向け、大学での学問的・社会的な諸経験を成功させるべく、主に新入生を対象に総合的につくられた教育プログラム」と定義され、文科省の「大学における教育内容等の改革状況について」の調査結果によれば、2007年度で79%の大学が、初年次教育を何らかの形で導入していると答えている。

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