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第52回 大阪産業大学 籠谷 正則 学長

2010/04/01

(かごたに・まさのり) 。 工学博士  交通機械工学科教授。専門は機械要素。1949年生まれ。1973年大阪産業大学工学部機械工学科卒業、1977年大阪工業大学大学院工学研究科修士課程修了、1984年京都大学より工学博士の学位授与。大阪産業大学工学部教授、同大工学部長兼工学研究科長、同大評議員、理事を歴任。


 日本の産業は、質の高い多くの中間層の力で発展してきたと言われている。大阪産業大学は1965年の創立以来、建学の精神「偉大なる平凡人たれ」のもと、社会に有為な人材を多数輩出してきた。籠谷正則学長に今後、大学が目指すものについて伺った。(インタビューは3月8日)

「知識力」と「社会人基礎力」を共に育てる大学

ー建学の精神である「偉大なる平凡人たれ」の意味は?
 この言葉は、本学園の創立者である、瀬島源三郎の残したメッセージです。
 偉大と平凡とは相反するため、さまざまな解釈ができると思いますが、実はとても深い意味が込められている言葉なのです。
 簡単に申し上げれば、地位や名誉を追求するのではなく、社会に貢献することに純粋な喜びを感じるような人間になって欲しいということです。一般社会を支えている人たちのほとんどは普通の人ですから。
 ただ、よく考えますと、社会に貢献できる「平凡人」とは、業務上の専門知識と一般常識があり、自分の生活も大切にできるという条件を満たせる人になります。このバランスを取ることはなかなか簡単なことではありません。そうした能力、資質を身に付ける努力は当然必要とされますので、「平凡人」になるのも実は大変なことです。「偉大な」という言葉の意味はそこにあるのだと思います。

ー建学の理念を根幹として行う教育とは?
 これからの時代は「知識力」だけでなく「社会人基礎力」が必要になります。両方をバランス良く併せ持った人材を育成することが、建学の精神に基づく教育の実践だと考えています。
 経済産業省は、「社会人基礎力」とは①前に一歩踏み出す力②考え抜く力③チームで働く力の三つであると提唱しています。
 大学としての課題はそうした力をどのように在学中に身に付けさせるかです。学生の持つ問題解決能力やコミュニケーション能力をより向上させるには講義以外の取り組みも欠かせません。
 ゼミやクラブ活動もその一つですが、本学では独自の「プロジェクト共育」の実践を通して「社会人基礎力」を醸成できる仕組みを有しており、これは他大学にはない特長だと自負しています。
 この「プロジェクト共育」は、学生自身が好きなテーマに基づいて計画をしたプログラムに取り組み、チーム内で議論を積み上げながら実行し、目標を達成するという活動です。
 例えば、燃料電池車の開発や海外の途上国に対する支援、小型ロケットの打ち上げなど、30以上のプロジェクトが立ち上がっています。4年間関わることにより、チームワークやコミュニケーション能力が身に付き、結果として社会人としての基礎力が養われていきます。

ープロジェクトの位置付けは?
 現在のところ、正課の授業ではありませんが、担当教員と予算もつけています。将来的には内容を整備し、学科内の授業単位として認定することで、卒業研究にまで連動させる構想も描いています。


社会との接点が持てる
「プロジェクト共育」のメリット


ー「プロジェクト共育」の具体的な事例について
 いくつか、ご紹介したいプロジェクトがあります。
 まずは「燃料電池ビークルプロジェクト」です。このプロジェクトは、温暖化の原因となっている二酸化炭素を一切排出しない車である、燃料電池自動車の開発に取り組むというものです。学生自身が、温暖化から地球を守るための問題提起をしてプロジェクトを推進しています。既に車両は完成していて、走行実験を重ねていますが、解決すべき問題点も多々あります。公道を走ることのできる車両にすることがメンバーの目標ですので、今後、国土交通省の保安基準に合うように改良していく必要があります。
 企業であればさまざまな実験を繰り返し、データを取得して検証ができるのでしょうが、1台しかない実験車両では、実証作業がなかなか難しい。しかし、学生の熱意に応えるために、教員が実験の指導から対外的な交渉までをフォローしています。
 そのような作業や失敗の一つひとつの積み重ねが、学生にとっては貴重な経験です。このプロジェクトメンバーは工学部の学生が中心ですが、学生時代にものづくりの原点を体験することは、社会に出てから間違いなく役に立ちます。
 
ー大学の外に目を向ける効果がある?
 大学での講義は最も大切な学びの基本ですが、プロジェクトは学内の枠から一歩実社会に踏み出していくことに価値があります。
 「菜の花プロジェクト」はその良い事例ですが、近隣の小学校や企業と協力して、空き地に菜の花を育て、その菜種を絞ってバイオ燃料を作っています。作られた燃料は大阪の町を走るバスに実際使われています。2009年4月には、橋下徹大阪府知事から感謝状をいただきました。
 このプロジェクトにしても、小学生に環境の大切さを教えたり、企業に対する交渉を手掛けたり、とても大学内だけでは経験できない、社会体験ができるわけです。
 途上国の子どもたちに支援をするプロジェクトもあります。これは大学と教員のサポートがかなり必要になりますが、恵まれた日本の学生にとっては、本当に視野の広がる体験ができます。現地に出かけることにより、生きることの意味を知り、食糧や物を無駄にしないことなどを経験することができるため、学生の意識が大きく変わります。

ー指導する教員に熱意がないとできない?
 学生より熱くなっている教員もいますし、自分の専攻とまるで違うプロジェクトを指導している場合もあります。

ー全学生がプロジェクトに携わることができるのか?
 いまは、全学生が参加している取り組みではありませんが、ゼミや部活動と同様に学生の大学での居場所の一つとして、確立していきたいと考えています。
 学びと部活動が融合した雰囲気のプロジェクトは、学生にとって幅のある受け皿となる可能性を秘めています。

学生の成長が教育者としての喜び

ー面倒見の良い大学との評判だが?
 いま、大学の中退率が問題になっていますが、本学では、学生一人ひとりに手間をかけて教育する方針をとっています。過保護に思われるかも知れませんが、縁あって入学してきた大学ですから、有意義な学生生活を送って卒業できるように、学生支援には最大限の努力をしています。

ー具体的には?
 やはり、1年次で学生生活と講義になじめるかどうかがポイントです。まずは、AOや推薦入試の合格者に対して入学前教育から学生との接点を持っていきます。
 また、各学部別の対応になりますが、入学後すぐに懇親旅行を実施し、友人を作る場を大学側から提供しています。
 また、大学の講義に無理なくついていけるように、初年次教育も導入しています。例えば、工学部であれば、プレスメントテストによって成績別クラス編成を行い、理数系の基礎教育を徹底しています。

ーかなり手間がかかる?
 確かにそうですが、面倒をみればそれだけ学生が成長します。本学の場合、人間的にも学問的にも大学時代に力をつけていくタイプが多いので教育力が問われます。
 大学全入といわれる時代になり、画一的な教育をする大学には存在意義がありません。実際、本学には、さまざまなタイプの学生が入学してきますが、活力のある学生がいろいろ悩みながら試行錯誤して成長していくことをサポートできるのは教育者としての喜びであり醍醐味です。
 大学の教員は研究者でもあり教育者でもありますが、私は教員に対しては、教育を大切にして下さいと常に言っています。学生がいてこその大学ですから。

ー就職対策は?
 2010年度の就職状況は大変厳しいものがありましたが、本学では、学生へのきめ細かな個別対応をして支援をしてきました。キャリアセンターでは、各学科に最低一人の専任職員がおり、担当学生のことを把握し、その適性をみながら、企業を紹介しています。
 また、本学内で三年生を対象にした企業セミナーを複数回開催しています。標準的な内容としては、一日に80社の企業に来ていただき、800名程の学生が参加します。
 JR西日本など大手企業の参加もありますが、個性的で成長性のある中小企業にもセミナーに参加していただいています。私もセミナーに来ていただいている企業の方にご挨拶をさせていただきますが、採用現場の生の声が聞けることは非常に参考になります。

ーどんな高校生の入学を望むか?
 基本はやる気のある生徒です。この大学でこの勉強をしたい、こんな活動をしてみたいなど、入学後の目標が明確で好きなことを追求する意欲のある生徒は入学後に伸びます。
 高校生の方には、是非、理解してもらいたいのですが、勉強というのは、単に大学受験のためのものではなく、自分が人生を生きていくための糧となるものです。
 大学卒業後、自分はどのように社会に貢献をしていくのか、そのためにはどんな学部、学科で何を学んでいけば良いのかを高校時代から考えて欲しいと思いますし、本学はそのような意欲を持った学生が自己実現をはかるための支援を今後も全学あげて行っていくつもりです。

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