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第5回 グローバル化と大学

2011/11/01

 大学を改革に突き動かすものに、グローバル化がある。日常化した今日の改革を遡ると、時の中曽根首相の意向で設置された臨時教育審議会の「1986年答申」にたどり着く。打ち出された改革の指針は、個性重視、生涯学習体系への移行、そして国際化・情報化等への対応であり、以降、「情報」「環境」と並んで「国際」を冠した学部・研究科の新設が相次いだ。
 その中曽根首相の指示によって、すでに83年から開始されていたのが、留学生受入数を、当時の約1万人から21世紀の初頭までに10万人にするという「留学生10万人計画」である。これは、大学等関連教育機関の努力と、約80億円から500億円超にまで拡大した支援予算に支えられ、ほぼ達成された。
 量的拡大を目標としたこの取り組みは、補助金目当ての留学生受け入れや学生の不法就労など、種々の問題を引き起こしたが、大学が国際化に目覚める契機となったことは確かだ。そして、2008年には、20年をめどとする「留学生30万人計画」が打ち出され、現在進行中である。
 こうした中で、海外の優秀な人材を確保しようとする国際化拠点整備事業、通称「グローバル30」が開始された。被採択大学は5年間、毎年数億円規模の財政支援を受け、英語で学位が取得できるコースの設置や、留学生数の千人単位での増加を約する。
 初年度の09年には13大学が採択され、全体で30大学の選定が予定されたが、10年に行政刷新会議の、いわゆる「事業仕分け」の対象となり、以降の申請受付はなく、また被採択大学への補助額も削減された。しかし、留学生受入拡大は一般の大学にも起こっていることであり、その流れが止まったわけではない。
 一方、研究面で大学のグローバル化を支援するものとして、日本の大学に世界最高水準の研究拠点を形成しようとする、センター・オブ・エクセレンス(COE)プログラムがある。2002年度に「21世紀COEプログラム」として開始され、その後「グローバルCOEプログラム」と名称を変えている。こちらは一大学の受領額が十億円単位と大きく、これも、先の事業仕訳の対象となったものの、実際の事業は姿形を変えて続いている。
 このように、日本の大学のグローバル化は、もっぱら留学生の受け入れ拡大を意味してきたが、近年になって、日本人学生の海外留学の縮小が話題になっている。国には海外派遣奨学金制度があり、大学では短期留学をカリキュラムに組み込む等の取り組みを行っているものの、日米教育委員会によると09年の米国留学生数は前年比13・9%減で、国別でもかつての1位から5位に転落している。
 こうした種々の形で展開するグローバル化の施策の背景には、日本の大学がすでにグローバルな競争市場にさらされている実態がある。それを端的に示すものとして、大学ランキングの世界版があり、国内で偏差値ランキング1位の東京大学でさえトップ20位には入らないという現実があるが、これについては、次回に詳述したい。
 今年の6月、経団連は「グローバル人材の育成に向けた提言」を発表し、その中で、英語で履修可能なカリキュラム、外国人教員の採用拡大、9月入学実施等による海外からの優秀な留学生の受入れ拡大と、海外大学との連携の強化を大学に迫っている。大学のグローバル化に向けた改革は、まさに正念場を迎えているのである。

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