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第4回 大学におけるキャリア教育

2011/09/01

 「改革の日常化」の一環として、新たな項目が加わった。2011年4月施行の改正大学設置基準において、「社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、・・・適切な体制を整えるものとする」の条文が加えられた。いわゆる「キャリアガイダンス」のことである。
 高校段階では、多くが「進路指導」の意味で使われてきたキャリアガイダンスだが、大学・短大の高等教育においては「社会的・職業的自立に関する指導等」(中央教育審議会審議経過報告)と定義されている。この定義は、当初の議論では「職業指導」としていたものを、特定の職業に就くための職業指導という誤解を避けるために考案されたものだとされる。
 1999年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」が、「キャリア教育」を「望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身につけさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」と規定して、大学を含むあらゆる教育段階での実施を求めた。
 さらに2003年には、増加する「フリーター」や「ニート」対策として、文部科学、厚生労働、経済産業および経済財政政策担当の4大臣によってまとめられた「若者自立・挑戦プラン」が、「キャリア教育、職業体験等の推進」をかかげ、取り組みを後押しした。
 結果として、すでに、大学には「キャリア」を冠した活動が溢れている。多くの就職部が「キャリアセンター」「キャリア開発センター」等に組織替えした。キャリアデザインを名称とする学部や学科が創られた。「キャリアプラン」「キャリア形成論」といった正規科目を置く大学が増え、学生を支援する担当者として、「キャリアカウンセラー」「キャリアアドバイザー」といった名称のスタッフが配置されるようになった。
 つまり、大学におけるキャリア関連の取り組みは相当に進展しており、設置基準化はそれに拍車をかけるものと考えていいだろう。
 その中で、次の課題が浮かび上がってきている。第一に、厳かに定義されたキャリア教育は、実は大学教育そのものだという事実である。
 学校教育法は大学の目的を「広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること」としており、これが果たせればキャリア教育の定義する内容は達成できる。
 言い替えれば、「キャリア教育」は「キャリア○○」の実施のみでは達成できず、専門教育を含む大学教育全体の根本的な体質改革を必要としているのである。
 第二に、キャリアガイダンスは特定の職業につくための就職指導ではないとされるのであるが、学生は、現実的な就職指導を必要としている。企業側と大学側との間で採用開始時期を定めていた就職協定が1996年に廃止され、以降は年々就職活動の時期が早まった。結果、以前であれば4年次の秋からだったものが、現在では、専門の勉強もそこそこに、3年次から始まるのが通例化している。
 この就職環境は、大学教育の、すなわちキャリア教育の十全な実施を阻害するものにほかならない。教育課程の修了を待って就職活動と適切な就職指導が行われる体制を、国、産業界、大学を挙げて構築する必要があるのである。

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