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34号 パソナ代表取締役グループ代表兼社長 南部靖之氏

2012/06/04

今回は、人材派遣会社である株式会社パソナの南部靖之社長にご登場いただいた。

パソナではフリーター、ニート、失業率の増加を深刻な問題ととらえ、様々な取り組

みを実施している。フリーターを対象とした農業研修を行うなど、最近では雇用問題

を解決する糸口として農業にも注目。本社地下にオープンしたばかりの人工光で農作

物を栽培するスペース「PASONA O2」も話題をよんでいる。

 

南部社長も自ら、全国各地の大学やハローワーク、商工会議所をまわるなど、積極

的に失業率増加の原因を追求し、解決策を生み出している。また自身も、3人の子ど

もをアメリカで育て、テンプル大学の理事長をつとめた経験から、アメリカの教育事

情にも詳しく、雇用問題のほか、教育問題にも提言しつづけている。

 

インタビュアーは女子栄養大学広報部長兼理事長付部長の染谷忠彦氏。染谷氏は、

入試・広報統括の傍ら進路指導勉強会、PTA総会、学校経営セミナー等で幅広い講

演活動を行っている。                    

(取材は729日)

 

染谷忠彦氏(以下敬称略) 現在の高等教育機関、それをとりまく環境には解決しなければならない問題が山積しています。大学自体にも問題が多く、改革が必要だと考えますが、南部社長はどのようなことが問題で、どのような改革が必要だと思われますか。

南部靖之氏(以下敬称略) 大学卒業後に、何をして良いかわからずフリーターになる人数は抑えるべきだと思います。就職が決まらない、決まったとしても自分が納得して就職した会社ではなく、すぐにやめてしまうということが非常に多いのです。

調査の結果によると、東京などの都市よりも地方にフリーターが多いのです。東京には就職先がたくさんあるにも関わらず、地方の大学生が東京で就職するのは容易ではありません。でも、実際に学生に聞いてみると、東京で就職先を探したい学生は多いのです。けれども、どうやって活動したらよいのかよくわからない、自分の大学は地元企業以外での就職には無関心だとぶつぶつ言っているんですね。地方の学生が東京の学生と同じような情報を得ることは難しいのです。大きな大学では東京に就職センターを持っていることがあり、就職率が上昇しています。けれども、小中規模の大学が同じようにセンターを作ることは大変なことです。

そこで、東京に地方大学共同の東京就職センターを作ろうと考えています。いくつもの大学が共同で東京に就職センターを持ち合えば、効率よく多くの情報を集めることが可能です。カウンセラー等のサービスも持ち合うことができます。いまは、共通のプラットホームを作って、共同で効率よく物事を進める時代です。新幹線だとか、各駅停車だとか、いろいろな電車が止まるけれども、駅は共通だというイメージです。

 東京就職センターができれば、地方の学生に色々なサポートやアドバイスができます。いままでは、東京に23日来たとしても、アポイントを取った会社にしかいけないから23社程度しか回ることができませんでした。もっと多くの会社を回りたいというときに、就職センターに相談すれば、来る前にいくつかアポを取っておくとか、来てからでも幾つかアポを取るなどといった活動拠点ができるのです。このような就職をサポートするセンターができれば、就職率も良くなるはずです。

 フリーターを無くすためにどうしたらいいかと一生懸命考えた結果、東京だなと思ったんです。

染谷 各大学は生き残るためにいろいろな改革をしています。この競争の時代、大学で何かを連携しようとしてもなかなか難しいのです。そんな時、今一番重要視されている学生支援の出口の部分に共同センター設置を提案されることは、特に地方の大学にとって有意義なことと考えられますね。

南部 各地の大学を回っていて感じたことは、一昨年の法人化を機に、国立大学は随分変わったということです。とくに、地方の国立大学が急速に改革を始めました。就職に関して言えば、就職課がなかった大学も次々と作りはじめました。けれどもまだまだ、考え方が変わらずに、このままではつぶれても仕方ない、という施策しかとっていない大学も多く見られます。企業はアウトソーシングがどんどん進んでいますが、大学が一番遅れていますね。

 

染谷 フリーターになる原因はなんだろう、どこから発生しているのだろうかと調べると、やはり家庭環境、保護者の影響を受けていることが大きいですね。

南部 保護者の影響は非常に大きいですね。800人から900人のフリーターに聞いてまわったところ、そのうちの約70パーセントは、保護者が一流企業に勤めている、いわゆるエリートサラリーマンなんですよ。なぜ、保護者がエリートだと、子どもがフリーターになってしまうかというと、今の学生は、子どもの頃から保護者の愚痴を聞いて育っていることが影響してるんですね。15年前にバブルがはじけ、「いい大学を出て、いい会社に入れば一生安泰だ」という価値観の時代は終わりました。一流企業に勤める保護者が会社から帰ってきて、「リストラになるかもしれない」「ボーナスが下がった、給料も下がった」「会社がつぶれるかもしれない」などと話していることを聞いているんです。就職することは、面白くないし、不安だということを感じてしまうんですね。これは、保護者の影響ですよ。その証拠に、いまの子どもたちに将来の心配事を聞いてみると、驚くことに「年金」だとか言うんですよ。保護者が年金について不安だと話していることを聞いているんですよね。だから、家庭環境は非常に影響力が強いですよ。

 

染谷 いま、日本の教育制度が問題視されています。学力低下ということがいわれていますが、日本の子どもの意欲の低下は非常に大きい問題ではないでしょうか。アメリカと日本の教育制度を比較してどのような違いを感じますか。

南部 日本の子どもたちにどうして学校に行くのかと聞くと「良い大学にいきたいから」と答えるんです。アメリカの子どもたちに同じ質問をすると「将来自分はこういう仕事をしたくて、そのために才能を伸ばしたいから」というような答えが返ってくるんです。日本が横を向いているのに対し、アメリカは上を向いているんです。日本の子どもたちはどうして勉強をするのか、どうして学校にいくのかがわからないのではないでしょうか。

 学んで知識をつけるということは、将来の自分の人生を豊かにするひとつのツールなのです。それから、どうして学校にいかなければならないのかというと、将来何をしていくかを生活しながら考え、将来の自分のビジョンを確固たるものにするため、また、社会に出たときにはずかしくないような判断基準、行動規範を育むためだと思います。学校ではホームルームがあったり、皆で掃除をしたり、ご飯を食べたりしますよね。知識だけではなくいろいろ社会的なことを学ぶことができる場であると考えるべきなのです。

 今の日本の教育制度は、学力主義であり、テストの点数のみで人を差別し、区別するようなやりかたなんです。こういう教育のありかたが、落ちこぼれを作っていくのではないかと思います。日本は社会全体が順位主義ですよね。大学も一流大学、二流大学という順位にこだわりすぎていると感じます。もっと違った角度で評価していかなければいけないのですが、日本の社会全体の考え方、慣習なのだから、すぐに変えるのは困難ですね。

染谷 日本には、どのような教育改革が必要だとお考えですか。

南部 OECDが行ったPISA調査の結果から、日本の生徒の学力が低下したという問題が発生しましたが、このままでは、ますます落ちていきますよ。PISA調査は知識ではなく、応用力を見ていますよね。日本のいまの教育方針のままでは応用力は育たないんですよ。

 一つの学力という基準で子どもたちの能力、才能をはかっていることがそもそもの間違いではないかと思いますね。価値観の多様性がわかっていないのだと。算数で100点取るのも、100メートルで1番取るのもピアノが上手いのも、同じように評価すべき才能だということに気付いていない。いまの教育制度では、せっかくの才能をつぶしてしまうと思います。

 だからといってただ単に海外の制度を真似するということではなく、日本に合った形に変えた改革をしていかなければならない。教育も金融のようにビックバンが必要です。

染谷 大学としても、全入時代を迎えようとする中で、これまでとは異なるあり方を考えていかなければなりません。大学は、より開かれたものとして存在しなければならない。その時に、南部社長のやろうとしている事、お考えは、改革の大きな一歩となるのではないでしょうか。

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