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38号 ローソン代表取締役社長兼CEO 新浪剛史氏

2012/06/04

 今回は、株式会社ローソン代表取締役社長・新浪剛史氏にお話をうかがった。

 新浪社長は最近、「ローソン大学」と名付けた独自の教育研修プログラムをスタートさせ、社員教育に力を入れている。そんな新浪社長に大学の教育のあり方などを語っていただいた。

(取材は227日)

染谷忠彦氏(以下敬称略) 社長はハーバード大学経営大学院のMBAを取得するなど、海外の大学にも精通していると思いますが、ご自身の経験も踏まえ、最近の日本の大学について、どうお考えですか。

新浪剛史氏(以下敬称略) このままの状態ですと日本の大学は「シンガポール化」するでしょう。これは、優秀な人はどんどん海外に留学し、そのまま現地で就職してしまう現象のことです。日本も下手をするとそうなっていきかねません。優秀な人材を確保するためにも、日本の大学は、その辺りを考えていかなくてはいけないと感じます。

染谷 大学教育の見直しの必要性は以前から言われていますが、いまだめざすところがはっきりしていないという状況かも知れません。

 本学は、単科大学ですから、何をすべきかが見えています。その点で海外の大学にひけをとらないように、入学してから真剣に勉強できる環境をつくっていますが、それが学生のニーズでもあると理解しています。

 海外では、学費なども学生が自分で負担している場合が多いと聞きます。そこも日本の大学と違うところですね。

新浪 基本的に海外の保護者は教育費を負担しません。学生は、自分で奨学金を利用して大学に行くというのが主流です。

 ですから、教員に対する学生の評価がとても厳しく、教員もいい教育をしようという意識が高い。だから日本でも、保護者が学費を負担しない制度にした方がいいのではないでしょうか。そうすれば、学生も一生懸命勉強すると思います。

染谷 自分で学費を負担しているという意識を持てば、学生の勉学意識が高まるのでしょうね。

 企業の立場として、学生にもっと学んでほしいと思うことは、何ですか。

新浪 学生には倫理や哲学をもっと勉強してほしいです。私たちの世代はそれが足りなかったので、「世の中、金がすべてだ」と公言するような人間が出てくるのです。

 加えて日本では、独自の歴史観というものがないことも問題です。そもそも、日本では、現代史を学ぶ時間が少ない。本来、現代史だけで独立した科目を作るべきなのです。

 とくに戦中・戦後に「世界の中で自分たちの国がどうであったか」ということがタブー視されがちです。本来は徹底的に話し合っていくべきだと思います。そんなあいまいな歴史観の国で教育なんてありえないですね。

染谷 そのような社会、大人に囲まれて育った若者たちですが、最近の新入社員を見ていて、どうでしょう。もう少しここを強化してほしいと感じることはありますか。

新浪 最近の学生は、勉強をきちんとしているので、知識やスキルは持っています。

 ですが、社会に出て本当に必要なことは、倫理や哲学なのです。今の大学教育では、そういったものが欠けてしまっているように思われます。新入社員と接していて、面接のスキルや新聞の情報などはよく理解しているなと思いますが、熱意が感じられないことが残念ですね。

染谷 会社で働く場合は、ただ、知識だけあれば良いというわけではないですね。コミュニケーション能力、論理的思考能力といろいろなものが問われます。われわれ大学側の人間としてもその必要性を感じているところです。

新浪 大学でも実学的なことを学ぶ傾向が強くなり、大学が「専門学校化」しているのかもしれません。

 繰り返しになりますが、もっと大学では哲学を教えてほしい。哲学というと難しく考えてしまいますが、日常の考え方だと思うのです。それは、人生経験の豊富な教授が、学生に話をして、伝達すべきではないでしょうか。学生時代にピンとこなくても、いつか「そういうことだったのか」と思い出すときが来ると思います。

染谷 教育は10年後に成果が出るといいますが、私もその通りだと思います。

 御社は、社員教育に非常に力を入れていらっしゃるとうかがいましたが、どのような取り組みをされているのですか。

新浪 弊社では、教育のガイドラインを変えました。新入社員を本社近隣の店舗で研修をさせて、実際の接客を学んでもらうのです。

 その期間に、新入社員を何度も本社に呼び、役員が並んだ中で、新入社員にディスカッションを行ってもらいます。実際の業務の中で自分が何を改善できるかを発見し、提案をする機会を与えるわけです。

 そこでは、役員との接点を必ず持つ大切さを学びます。現場も大事ですが、われわれの夢を新人に直接伝えることも大事だと考えています。 

 こちらが将来どうしたいかということを伝え、新人から現場での問題を聞き、真のコミュニケーションをとります。技術的なこと以上に、心が通じていることが大事だと考えています。

 みんな入社時は夢を持っているものですが、それをずっと持ち続けられるかは、経営の中心にいる人とのコミュニケーションが、とても大事なことだと思いますね。

染谷 毎年多くの学生が御社を希望してくるわけですが、「こういう学生に入社して欲しい」という具体的な要望はありますか。

新浪 基本的には、リーダーシップを取れる人が欲しいですね。「全員がリーダーで困る」と嘆くくらいでいいです。なぜなら全員が意見を言ってくる方が、会社は健康だと思うからです。 

染谷 社員教育として、「ローソン大学」というものを設置されていますが、その経緯や展望などをお聞かせください。

新浪 ローソン大学では、会社内の風土改革を目的としています。会社が大きくなればなるほど、上下のコミュニケー__ションが難しくなってくるものです。

 ここでは、社員を会社のトップに立っていることを想定させて、「いま、ローソンでは何をやらなければいけないのか」ということを議論し、発表させます。そうすることで、日々の売上だけで一生懸命だったところを、社長の立場でモノを考え、そこで思ったことを、自分の職場に持ち帰って実践するようになります。われわれも現場の斬新なアイディアを聞けますし、そういった研修を繰り返して、役員候補を育てています。

染谷 モチベーションをどう高めるかは、教育の現場でも大きな課題です。最後に高校の先生方、教育の現場にメッセージがあればお願いします。新浪 みなさん一生懸命やられていると思いますが、ご自身の意志で指導されたらいいと思います。

 そして、いま一番足りないのは「心」の部分だと思います。現場の先生方も感じられているとは思いますが、スキルは心がなければ使いものになりません。やさしさや、厳しさということを、もっと大切にしていただければいいと思います。


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