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83号 株式会社タニタ社長 谷田千里氏

2012/06/08

  女子栄養大学常任理事・染谷忠彦氏がホストとなる「シリーズ新・人材教育」。初回の今号は、体組成計や体脂肪計の有名ブランドというよりも、最近は「社員 食堂」が大きな話題となっている株式会社タニタ(本社東京・板橋区)に代表取締役社長・谷田千里氏を訪ね、学生時代のエピソードや若者に対するイメージな どを中心にその素顔に迫った。 

染谷 「丸の内タニタ食堂」が話題のタニタ社ですが、そんな谷田社長の学生時代にとても興味があります。谷田  小学校から大学まであるエスカレーター式の私学に通っていました。しかし、当時の私は敷かれたレールに乗るのが嫌で、高校卒業後は調理師養成の専門学校に 進学しました。調理師免許を取得することはできたのですが、高校時代に取り組んだレスリングの影響か、椎間板ヘルニアを患ってしまい、再発防止のために、 立ち仕事である調理師の夢はあきらめざるを得なくなってしまいました。そこで、栄養士になることを決意したんです。

  ちょうどその当時は、中学の家庭科の授業が男女必修化になると決まった頃で、女性の教員ばかりでどうするんだと注目が集まっていたんですね。これはチャン スだと思いました。けれども、男性で栄養学を学べて資格も取れる学校が非常に少なく、結局九州のある短期大学に進学することになります。その後、大学に編 入し、いくつかの会社勤務を経験して現在に至りました。

染谷 健康のタニタ社に相応しく、調理師と栄養士免許ですか(笑)。すると、ご自分の将来像を具体的に描き始めたのはいつですか?

谷田 少し乱暴に言えば、行き当たりばったりでした。ただし、常に「自分の能力を上げたい」「人間として成長していきたい」という気概は忘れずに持っていました。それ以外は別に特別な人間ではなく、どちらかと言えば挫折の連続だったように思います。

染谷 向上心を持ち続けることは大切ですね。これまでいろいろな企業人のお話をうかがってきましたが、すんなりと順調な人はむしろ少ない印象があります。

 

染谷 入社志望の若者と面接などを通じて接していると思いますが、どのような点に注目していますか?谷田  第一に、積極性があるか否かです。そつなく器用に対応することができても、自分から殻を破れないような人は、任せた仕事の範囲内でしか動けません。そうだ とすれば、上長がずっと見てあげなければならないことになりかねない。これはノーサンキューです。それよりは、失敗してもいいから自分で考えてどんどん動 いてくれる人材であって欲しい。動き過ぎてこちら側が困ってしまうくらいでも構いません。

 また、IT 分野や先端技術に対してどれくらい関心を持っているのかということも気になります。面接ではFacebook を使っているという学生が多く見られますが、少し残念に思うのは、就職活動を始めてから使い始めたというケースが少なくないことです。日頃から世の中の流れに関心を持ち、積極的に新しいものを取り入れているかは現代の企業人には欠かせない資質だと考えています。

  あとは語学力でしょうか。ただし「語学が得意で海外にも興味があります」と口では言っていても「では、海外はどこに行きましたか」と聞くと、経済的な理由 は別としても、行ったことがないという学生が結構いるんです。そういう人は、口先だけなのかなと判断してしまいますね。

 

染谷 若者を育成する側の高等教育機関に求める要望を挙げてください。

谷田  基礎教育の大切さを伝えて欲しいですね。例えば歴史。これは知っていればいるほど、事例や人間心理学が分かりますから欠かせないと考えていますが、それが 年号と出来事を単に暗記させるという教え方では何にもならない。ある時代にどのようなことが起きたのか、そういった全体の流れを学ぶことが本当に意味のあ る学問だと思います。人文であれ、社会科学であれ、自然科学であれ、これは共通しているのではないでしょうか。

  さらに、健康であることの重要性を十分に説いてもらいたいと考えます。今回、私どもの社員食堂が注目されたように、実社会に出てから健康の重要性に目覚め る方は多いのですが、早くからその大切さをしっかり認識できるような教育が求められていると思います。そのことは、自身の健康だけでなく、医療費負担減少 にもつながり、国としても重要なことだと考えますが、いかがでしょうか。

染谷 最後に高等学校の先生方、また高校生にメッセージをお願いします。

谷田  最近の若者は失敗を恐れる傾向にあるようですが、学生時代のうちに大いに失敗していただきたいと思います。若いうちは失敗できることが特権。その苦い経験 から学んだことが社会人になってから生きてくるんですよ。失敗してもいいからチャレンジすること、それを伝えたいですね。

  そして先生方に目を向けていただきたいのは、ネームバリューはなくても国内で頑張っている優良な中堅・中小企業が日本には非常に多くあるということです。 そんな小さな企業たちが現在の日本経済を下支えしています。重税感から拠点を海外に移す著名企業が少なくありませんが、そうした企業の雇用の恩恵に与れる のは海外であって国内の若者ではありません。そんな大企業志向にとらわれるということは、結局ご自分たちの生徒さんの就職機会を奪っていることにつながる と気づいて欲しいのです。弊社のような国内で必死にもがいている企業は、結局国内で人材を雇用しています。そう、国内の雇用の拡大に少なからず貢献してい るんですね。

 小さなことかも知れませんが、長期的に見れば、企業と社会、学校が良い関係になれる重要なテーマだと考えていますので、ぜひとも意識していただきたいと思います。

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