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第14号(平成24年4月25日発行) 作家 河原 れんさん
2012/06/04
選択肢は一つじゃない。
いろんなものに目を向けて可能性を広げよう。
作家 河原 れん
デビュー作の『瞬』が映画化、医療ミステリーに挑戦した長編小説『聖なる怪物たち』が連続ドラマ化されるなど、2007年のデビュー以来、常に注目を浴びている作家・河原れんさん。
東日本大震災を題材にした最新作では初のノンフィクションに挑戦するなど、その活躍の場を広げている河原さんですが、学生時代は「小説とはまったく無縁の生活を送っていました」といいます。学生時代の夢、そして作家業に取り組むきっかけなどから、河原さんの「進路ストーリー」をご紹介します。
いま、こうして作家として活動させていただいている私ですが、実は小さい頃は、本なんて読んだことがないんです。元々は弁護士になるのが夢で、大学も法学部に進みました。けれど、大学卒業直後に目の病気にかかってしまって…。
予定していた就職も留学も流れて、周りが社会人としてスタートを切っているという時に、自宅で療養生活を送らざるを得なくなったんです。「家でもできることは何か」と考えてたどり着いたのが、〝小説を書く〞という結論でした。
■図書室で出会った法律書
法律家への憧れを抱いたのは、小学5年生くらいの時。図書室で偶然見つけた法律書がきっかけでした。当時、PKO法案が国会で可決されて自衛隊が海外に派遣されたというニュースが話題になっていて、学校の授業でもPKO法案と憲法9条に関する作文の課題が出たんです。それでいろいろと調べていくうちに、「すごく面白い!」と、どんどん法律書に引き込まれていったんです。
結局、私一人だけ、原稿用紙10枚くらいの作文を提出したように記憶しています(笑)。
■高まる法律家への思い
高校時代は、勉強だけ、あるいは遊びだけというようにはなりたくなかったので、4月から夏休みくらいまで必死に勉強して、あとはそれほど頑張らず気楽に流すという生活を送っていました。母親にも「自分でちゃんと勉強するから『勉強しなさい』って言わないで」と、クギを刺していたくらいで、当時の私は、とにかく大人に文句を言われたくなかったんです。でも何より「卒業後は法律を勉強したい」「法学部に入りたい」という思いが、私を机に向かわせていたんだと思います。
■国際政治学に惹かれて上智大学へ
よくよく私は図書室に縁があるのか、高校の図書室で大きな出会いがありました。国際政治学を専門とするご高名な上智大学の教授が書かれた法律の本だったのですが、読んですぐに「この先生に教わりたい!」と思ったんです。日本の法律だけでなく、貿易など国際的な分野で法律と携わりたいと考えていた私にとって、法学部でありながら国際政治学も学べる上智大の法学部はとても魅力的に映ったんです。
■志望校合格のために努力した日々
その後の私は、上智大の法学部に入学することしか頭になかったですね。それに、母親がとても厳しい人で、いわゆるすべり止めの学校は受けさせてもらえなくて。
そんな状況に追い詰められて、それからは猛勉強でした。自分で言うのもどうかと思いますが、努力は人一倍しました。電車の中はもちろん、お手洗いやお風呂の中でも教科書片手に勉強していたくらいですから、合格を知った時は本当にほっとしました。
■療養生活で夢が一転、小説に傾注
念願の大学入学後は、司法試験に向けて勉強していました。
ところが、卒業後、予期せぬ病気で生活は一変。これからどうなるのかと不安で一杯の毎日でした。そんな中で書き始めたのが、後に映画化までしていただいた『瞬』だったんです。小説の書き方もまったく分からず試行錯誤しながらでしたので、書き上げるまでに三年近くもかかってしまいました。だけど、書き終えたばかりの作品を出版社に送ると、すぐに連絡があって。とんとん拍子に出版していただけることになったんです。
大学生までは法律にしか興味がなくて、弁護士になることしか頭になかったのに、不思議なことにいまでは法律家への夢や憧れはまったくなくなりました。
■努力の姿勢は今も昔も変わらない
いま思うのは、いろいろなことに挑戦しながら、「ものを書く」という作業のクオリティを上げていきたいということ。そういった意味では、法律家への夢を持ってそれに向かって努力していた高校生の頃と、やるべきことは何ら変わらないのかもしれません。
私は、努力し続けるのに必要なのは「瞬発力」と「集中力」じゃないかと思っています。「やる時はやる」「遊ぶときは遊ぶ」といった切り替えが重要だと思うのです。
■将来につながる一冊になれば
2月末に出版した『ナインデイズ』は、東日本大震災発生直後の岩手県災害対策本部を舞台にしたノンフィクション・ノベルです。初めて挑戦したジャンルでしたが、読んでくださった方、そして実際に取材に協力してくださった方々が完成をとても喜んでくださいました。
少しでも今後の復興や災害対策に役立ってくれればと願っています。
■高校生のみなさんへ
自分の人生を振り返って良かったと思うのは、高校や大学の時に留学を経験して、外に目を向けることができたことです。多くの選択肢があればそれだけ可能性は膨らみますから、「楽しいものを探す」という軽い気持ちで、いまとは違った世界に一歩踏み出して、たくさんのことを吸収してほしいと思います。
かわはら・れん
1980年12月29日生まれ。東京都出身。東京女学館中学校・高等学校を経て上智大学に入学。大学卒業後の2007 年、初の長編小説『瞬』を発表。同作品は2010 年に映画化された。また、2011 年に出版された長編小説『聖なる怪物たち』は連続ドラマ化されている。そのほか、チャリティプロジェクトを主宰し、絵本『ホホとロッソ』シリーズも出版。マルチな才能に注目が集まっている。
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