[第85・86合併号]
2012/07/17
季節は「夕張メロン」の最盛期である。3年前の梅雨の時期、北海道夕張市を訪れた。かつては10万を超えていたという人口も1万に激減。メインストリートの空き家があまりにも多いことに驚いたが、1軒だけ深夜まで煌々としている建物があることに気がついた。夕張メロンの発送所である▼その象徴である赤い果肉は天然ものだが、高い糖度が加わったのは品種改良の成果であり、それ以前の昭和30年代当時は砂糖をかけて食べるほどだったという。その後、さらに改良を重ねて現在の味覚を獲得した▼欠点とされた「日持ちの悪さ」は当時珍しかった宅配便による直送で、また「知名度の低さ」はマスコミへの露出作戦で、それぞれ打開策を見出した。現在のようなブランド力を備えたのは昭和50年代のことだ▼昭和30年代といえば、国内最大級の炭鉱の町としてにぎわっていた時代。成功するかどうか分からないメロンの改良・開発への投資はある意味賭けだったに違いないが、いたずらに即効性を求めない積み上げがその後の町の生命を紡ぐことにつながった▼やがて炭鉱は姿を消し、市は破綻。町は「観光」をキーワードに国内外に新たな活路を求めようとしている。地道な研究の結実と思いも寄らぬ破綻、そして海外展開と、メロンの芳香の向こう側に揺れる夕張の栄枯盛衰に、興味深い大学界との類似性を見つけた次第だ。