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第2回 学歴間賃金格差は小さい

2013/05/14

学歴入門 真実と対応策

第2回 学歴間賃金格差は小さい

            橘木 俊詔


■日本と諸外国との比較で学歴を見ると
 今回は、中卒・高卒・大卒といった、どの段階の学校まで進学したのかという学歴に注目する。
 戦前の日本ではごく一部のエリートしか大学に進学しなかったが、戦後の教育改革や家計経済の向上により、多くの人が上級学校に進学できるようになった。
 戦前のようにごく一部の人しか大学を卒業していない時代では、大卒と非大卒との間の所得や賃金の格差は非常に大きかった。しかもこの時代は旧社会なので学歴による不平等への抵抗も少なかった。しかし戦後の民主化によって平等意識の高揚があり、学歴間の格差は小さいほうが望ましいという社会になった。それを示す例が学歴間の賃金格差の縮小である。
 ここで主要先進国における学歴間賃金格差の実態を見ておこう。中卒に対して高卒、短大・専門卒、大卒が何倍の賃金を得ているかを示したのが図1 である。これによると日本はどの国よりも学歴間の賃金格差が小さいことが分かる。大卒に注目すると、アメリカが2.78 倍で最も大きく、次いでイギリス、韓国、フランス、ドイツと続き、日本は1.60 倍と最小である。他国と比較する限り、日本は大学を卒業しても高い賃金を得られない国なのである。
 なぜ日本で学歴間の賃金格差が小さいのか。第1 に、すでに述べた戦後の平等意識の高まりがある。第2 に、学歴の低い人の賃金が低いとその人たちの勤労意欲にマイナスと考えたし、高学歴の人には仕事の与え方や昇進の早さで優遇して賃金を抑えたことを補填しようとした。第3 に、企業は年功序列によって賃金額を決めたので、勤続年数や年齢の果たす役割が大きく、学歴の効果は後に追いやられたという背景がある。



■昇進差には学歴効果がある
  第2 の理由を確認しておこう。図2 は男女別に企業における学歴別部長級労働者比率を示したものである。大卒男子が6.33%であるのに対して高卒男子は2.18%と3 倍弱の差があり、高学歴の人ほど昇進確率が高いことが分かる。部長は平社員よりもかなり高い賃金を得ていることは確実であるが、たとえ大卒であっても部長に昇進しない人が多くいるので、それらの人の賃金がそう高くないことによって、平均すると図1 でも見たように大卒の賃金は高くならないのである。
 ではなぜ英米といったアングロ・サクソン諸国で学歴間賃金格差が大きいのかを論じておこう。第1 に、欧米では賃金決定における年功の役割が小さく、他の要因に応じて賃金を決めている。その一つが教育である。
 具体的には、賃金決定において本人の仕事能力と実績を評価する程度が高く、高い教育を受けた人は仕事遂行能力も実績も高いという事実に注目するのである。これは経済学でいう「人的資本理論」というもので、高い教育と職業訓練はその人の労働生産性を高めるという理論として、欧米では定着している。


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