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第3回 名門校出身は有利か

2013/06/15

学歴入門 真実と対応策

第3回 名門校出身は有利か

            橘木 俊詔


■外国のほうが名門校出身はより有利
 今回は学歴をどの学校を卒業したのかという点に注目して、名門校と非名門校の間に差があるのか、ということを論じてみよう。
 わが国では東京大学をはじめとした名門校を卒業した人は有利な人生を送ることができると信じられてきたので、多くの保護者と若者ができるだけ名門度、有名度の高い学校への入学を望み、このことが受験競争の大きな原因になっていた。
 ところが日本を他の先進諸国と比較すると、意外と名門校出身者の有利さは小さい。どこの学校を卒業したのかは、例えばお隣の韓国やフランスのほうがはるかに有利である。ここでは私がよく知るフランスを例にして紹介しておこう。
 フランスの高等教育機関は二つに区分されている。一つはグランゼコール(高等専門学校と称される)という少数のエリート校の一群であり、もう一つはバカロレア(高校卒業資格試験)をパスすれば入学できる大学(ただし医学部を除く)である。前者は学校ごとに非常に厳しい入学試験をパスせねばならない。高校卒業後に2 ~ 3 年の浪人は普通であるし、その間に通う学校は日本のような予備校ではなく、高校の上に設置された正式の教育機関となっているほどである。例えばエコール・ポリテクニク、ENA、エコール・ノルマル・シュペリエールといった学校の卒業生はエリートとして優遇される。ポリテクニクは技術者と経営者、ENA は高級公務員、エコール・ノルマルは学者・教師になることができる学校として有名である。どの学校を卒業したかが大きく左右するのがフランスであり、日本以上の学歴社会であると共に受験競争の国なのである。
 これらグランゼコールの入学者決定がほぼ学力試験のみでなされるので、日本の入学試験制度と似ている。その点アメリカでは各学校が独自の入学試験を課すのではなく、全高校生が受ける統一試験の成績と、高校からの内申書、本人の志望動機書、そして面接という各種の基準を総合して入学者を決定している。


■意外とアメリカも学歴社会
 かといってアメリカが学歴社会ではない、とは決して言えない。個人の自由競争を重視する社会なので、学歴の作用する程度は弱いと想像されるかもしれない。でも企業が新人を採用するとき、その学生(例えばビジネス・スクールの卒業生)がどこの学校の出身者かによって、採用枠が大きく異なるし、驚くべきことに初任給までかなり異なるのである。日本企業においても大学別の採用枠は異なっているが、少なくとも初任給の差は大学別に存在していないのとは好対照である。
 分かりやすく言えば、MBA(経営学修士)が必要というのは学歴社会の証拠となるし、しかも名門大のMBA は良い企業に就職できる確率が高いし、初任給はかなり高いのであるが、無名校のMBA は就職先探しに苦労するし、初任給まで低いのである。実は戦前の日本企業でも卒業学校名で初任給に差をつけていたのである。
 ところが、ドイツはそれほどの学歴社会ではない。大学間、そして高校間に目立った格差は存在していない。これは分立した小国が統一されて連邦国家となった歴史的経緯から、大学はほとんどが州立なのでそれぞれが小国時代の特色を引き継いでいること、大学の数が多くないことによる。
 日本の学歴社会はどちらの方向に進むのであろうか。入試の困難な大学とそうでない大学の格差が拡大中なので、前者の卒業生をもっと優遇せよという声が強くなる可能性もあるが、人の評価は学力や卒業学校名だけが基準ではないと認識されつつあるので、そう単純な予想はできない。

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