「第111号」
2014/09/11
頬を撫でる風がひんやりとする。空がどことなく高く見え、夏の影はおぼろげだ。わずかな感傷に浸りつつ、実りの季節の気配に心が躍る。マツタケやサンマの初物収穫の便りの中、異彩を放つ「深海魚」の三文字。深海魚漁の解禁も間近だという▼世界最大級の無脊椎動物・ダイオウイカや白銀色に揺らめく魅惑的なリュウグウノツカイ。謎多き海底へのロマンが心震わせるのだろうか。じわじわと続く深海生物ブームが止まらない。そのうちの一つに生きている化石と称される「ラブカ」という深海魚がいる▼名前から愛らしい外見を期待をするが、それはひと目で裏切られる。半開きの口や光る眼が印象的で奇怪な風貌。古代サメにも似たラブカの妊娠期間は驚くことに3年半。胎仔は60㌢・㍍ほどになるまで母体で成長すると聞く▼ある調査によると、40歳未満の非正規社員の57・1%が生活費の大半を同居家族らに頼っているという。長く保護下にいるという意味ではラブカと同じだが、その理由は一様ではあるまい。殻の外は光の届かない冷たい海。それでもいつかは一人で泳ぎ切らなければならない。過酷な環境でもたくましく生きる深海生物に人間の姿を重ねた次第。
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