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連載第5回 大学改革を問い直す

2014/12/11

連載 大学改革を問い直す

第5回 就職支援・キャリア教育の問題と課題

藤田英典


 平成23年2月に大学設置基準等が改正され、同年4月より「大学は、…(略)…学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り,適切な体制を整える」(第42条の2)ことが義務化された。
 大学が、受け入れた学生に最善の教育を提供するのは当然のことであり、その教育には広い意味での職業能力の形成やキャリア・ガイダンス(以下CG)も含まれることは言うまでもない。そのため多くの大学は、基準改正以前から就職支援やCG に力を入れてきた。しかし、この動向にはいくつか問題や危惧される傾向が胚胎している。
 第一は、かなりの大学で、就職に直結しそうな教育や就職試験対策(矮小化された実学教育)のウェイトが異様なほどに高まっている点だ。
 第二は、その矮小化された実学教育の肥大化と就活スケジュールの早期化・長期化やビジネス化が相まって、教養教育の軽視と専門基礎教育のハウツー化や専門教育の質の低下が起こっているように見受けられることである。この傾向は、ユニバーサル段階に入ってもなお維持すべき〈大学教育のミッションと質〉の低下を招きかねず、もう一方で「不確実性の時代」と言われる状況にあっての〈生涯にわたる学習能力や対応能力〉の低下をもたらしかねない。
 第三は、現代の就活・採用活動の早期化・長期化に関わる問題である。この点について、平成25年4月、安倍晋三首相が経済界に対し平成27年度卒(現大学3年生)からの採用時期の変更を要請し、同年6月の閣議決定「日本再興戦略」で広報活動解禁日は現行の大学3年次12月1日から3年次3月1日に、採用選考活動解禁日は4年次4月1日を4年次8月1日にする方針を決定した。この変更自体は好ましいが、職業・企業理解や就業意識の促進・向上という点でマイナス面もあるから、解禁日は現行通りとし、説明会・試験等は授業のない週末や長期休業期間に限定する方法も考えられよう。
 第四は、企業の社会的責任に関わる問題である。近年、企業の社会的責任の重要性が言われるようになり、どのようにCSR(corporate social responsibility)を果たしているかをホームページなどで積極的に広報する企業も増えている。しかし、こと教育については日本ほど企業が責任を果たしていない国は先進諸国では少ないと言っても過言ではないであろう。例えばキャリア発達支援と就活・採用活動の一環として近年インターンシップ(以下IS)の重要性が言われているが、アメリカやドイツ、スイスではIS は2カ月程度から1年以上にわたる長期が一般的で、しかも有給である。加えて、ドイツ、スイスの場合、後期中等教育段階での徒弟制教育(企業・公共団体等での職業訓練と職業高校での理論的学習をセットにした二元制)での職業訓練は有給である。つまり、それらの国では、企業等が若者に職業訓練・教育の機会を提供しているだけではなく、金銭的にも費用負担しているということである。この点を鑑みて、企業のCSR 促進策として、例えば国公立大学卒を採用している黒字幅の大きい企業を中心に、採用者1人当たり100 万円(私大の授業料総額との差額の半分)を奨学金財源として徴収し奨学金の拡充を図ることも検討に値するであろう。
 第五は、就職支援は政策面でも課題があるという点だ。文部科学省や経済産業省・厚生労働省などが実施している上記の大学設置基準改正や就職力向上施策などは、就職難の原因と対応責任を大学と学生にもっぱら押しつけていると見ることもできる。しかし、就職難や学卒無業者・非正規雇用増大の最大の原因は、経済の低迷と企業の効率優先の採用・雇用戦略にある。この点を踏まえない政策は大学教育の歪みの原因となろう。

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