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第64回 明治学院大学 鵜殿博喜 第13代学長
2015/03/03
目指すのは人間力を磨く環境づくり
明治学院大学 第13代学長
鵜殿 博喜
日本の教育にも貢献したことで知られるアメリカ人宣教医、J・C・ヘボン博士が1863年に創設した英学塾「ヘボン塾」をルーツとする明治学院大 学(東京都港区)。創設者の信条であった「Do for Others(他者への貢献)」を教育理念に掲げた人間力の育成に注力している。2013年に創立150周年を迎え、ますます勢いを見せる同大が描く「こ れからの明治学院」像とは何か−。鵜殿博喜学長に切り込んだ。
150周年の記念行事の中で
大学全体に「一体感」が生まれた
―2012 年4月、学長に就任されてから3年が経過しようとしています。印象に残っていることを挙げてください。
本学は、2013年に創立150 周年を迎え、学長就任当初からさまざまな記念行事を執り行ってきました。振り返るとまさに怒濤の日々だったように思います。
築き上げてきた歴史や伝統を体感でき、“明治学院らしさ”を凝縮したイベントの数々で150周年を祝えたのは本当に喜ばしい。例えば、本学図書館付属の 「日本近代音楽館」が保存している貴重な資料を、「五線譜に描いた夢日本近代音楽の150年」と題して東京オペラシティ アートギャラリーで約2カ月にわ たって展示しました。この企画展に呼応し、ハンドベルや吹奏楽、管弦楽など音楽系のサークルや部活動に所属する生徒・学生総勢約450人が大学・高校・中 学の枠を越えて合同のコンサートを催すなど、華々しいものとなりました。
また、「横浜開港資料館」を会場にして、本学の創設者で あるJ・C・ヘボンが残した功績を紹介する企画展や、日本野球史に残る「インブリー事件」で歴史的な関わりがある東京大学野球部と本学野球部が“伝統の一 戦”を行うなど、これまでの歩みを再確認する試みも行いました。法人本部では、ヘボンが編み出した「ヘボン式ローマ字」で表記された日本初の和英・英和辞 書『和英語林集成』の復刻版を発行しました。
この3年間、全学的に活動を展開してきたことで、学生や教職員が「明治学院」を強く意識するようになりました。そして、これまでにない“一体感”を生みだせたように思います。
―貴学を語る上で欠かせない「ボランティア活動」でも、新たな試みに着手しました。
13年4月、「赤十字」が同じく150 周年を迎えたことを記念して、共同宣言「ボランティア・パートナーシップ・ビヨンド150」に調印しました。
本学では教育理念である「Do for Others(他者への貢献)」のもと、ボランティア活動が盛んです。この宣言の採択を端緒に、本学ボランティアセンターに「明学レッドクロス」という学 生組織を立ち上げ、日本赤十字社と共に活動しています。また、国際部長を客員教授に招き、人道的価値観とボランティア精神を学ぶ授業も展開する予定です。
そして、11年からスタートした“一日”社会貢献活動やインターンシップを行うという企画「1Day for Others」をみなさまにご紹介したい。NPO・NGOはもちろん、福祉施設や地元企業、地域などから協力を仰ぎ、昨年度は約600人の学生が参加しま した。献血の呼びかけや廃油でのキャンドルづくり、商店街の祭事のサポートなどを行い、学生は自分なりの「気づき」「発見」を得た様子でした。
ボランティア活動等に興味はあっても一歩が踏み出せない――。そんな学生が前進す
るきっかけとなっています。まさに本学の教育理念を象徴する取り組みでしょう。
学生に「気づき」を与える
多様な取り組みを展開したい
―今後どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?
「入口」「中身」「出口」の三つに分けて、改革を進めていきます。まず、「入口」の改革は「入試制度」の見直しです。具体的には、指定校推薦入試を整理 し、採用枠を減らしました。そして、本学がキリスト教主義に基づく学校運営を行っていることに立ち返り、キリスト教学校教育同盟の加盟高校との連携を強化 しました。
次に「中身」について、学部・学科の教育改革を進めるため、新たな事業や改革プランに対し特別予算を設ける「教育支援制度」を新たに 定め、いまも継続して実行しています。法学部では、この制度を用いて「公務員試験講座」を新設し、設置前に比べて合格者を格段に増加させるなど、実績を上 げています。 最後に「出口」、つまり就職支援体制について、キャリア教育の科目を刷新し、全学部共通科目として「ヘボン・キャリアデザイン・プログラ ム」を設けました。1年次から「どのような価値観を持った社会人になるのか」考えるきっかけを、さまざまな角度から与えていきます。
―産業界との連携も進めていらしゃいます。
経済学部経営学科では、城南信用金庫の理事長を客員教授に招き、社会貢献とビジネスの両立について理解を深めるなど、現役の経営者の思考にふれる講義を展 開しています。そしてこの春、本学の卒業生で構成される校友団体「ヘボン経済人会」がキャリアセンターとタッグを組み、企業トップやCEOなど、現に第一 線で活躍している卒業生が講義を行う試みが始まります。
―国際交流やボランティア活動も活発です。
本学の大きな特長の一つだと 言えるでしょう。その特長をさらに磨くべく、ベトナム・国民経済大学ビジネススクールやクロアチア・ザグレブ経済経営大学など、これまで交流がなかった言 語・文化圏と積極的に協定を締結してきました。現在、35校と協定を結び、南米、アフリカ、ロシア以外の全地域とのネットワークが構築できています。
とりわけトルコとの交流は特に深いものとなっています。本学では以前から「日本トルコ文化交流会」と活動してきましたが、これを足がかりに14年2月、希 望する学生たちと共にトルコへと渡り、大学の視察や地元学生との交流を図りました。また、国際的に活動している「キムセヨクム」というトルコ国内で最大級 のボランティア団体と協力して、トルコへ逃れたシリア難民の支援といったボランティア活動を行いました。今後、キムセヨクムや日本トルコ文化交流会と協働 したボランティア活動をさらに進めていく予定です。
日本の大学ではいち早くボランティア活動に注力してきましたが、今後は国際交流とボランティア活動を融合したプロジェクトを精力的に展開していきたいと考えています。トルコでの実践は良いモデルケースとなりました。
―多彩な取り組みに目移りしてしまいそうです。
どの取り組みにも共通しているのは、「学内での経験はもちろん、学外へも積極的に飛び出して、いまだからこそできる経験をたくさんして欲しい」という私た ち教職員の願いが込められているということです。大学として、そうしたチャンスをたくさん与えていきたい。多様な価値観にふれながら、「知らないこと」が たくさんあるということを「知って欲しい」のです。
―今春大学院で「法と経営学研究科」が始動します。
法と経営を双方の視点から学ぶのは、全国でも珍しい取り組みです。実社会では、法と経営は切っても切り離せない領域であり、双方を学び、より実践力を発揮するものと確信しています。
本来、学部・学科の教育体制の上に大学院の課程が積み上げられるイメージが一般的ですが、本科は「中核教員」として大学院の授業をメインに担当する教員を 多数配置しています。また、法学部と経済学部には「飛び級制度」があり、成績優秀者は3年次修了後、修士課程1年次に進むことが可能です。この飛び級制度 を使った場合、大学4年間の授業料で大学3年間・大学院2年間の計5年間学ぶことができます。今後にぜひご期待ください。
―高校の先生方や高校生にメッセージをお願いします。
このたび、首都圏以外の高校生を対象とする「白金の丘奨学金」という制度を新設しました。これは、入学前予約型給付奨学金で、4年間毎年40万円を支給する制度です。
また長期留学希望者を対象にした奨学金制度も整えています。意欲がある学生には経済的なサポートを積極的に行う環境があることを知っていただきたいと思います。
新約聖書に「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる」という一節があります。この言葉は本学の教育理念 「Do for Others」の前に置かれています。積極的に生きて得られたものを他者のために使うということです。そうした意欲、つまり「何かを求める」という強い想 いを持つ人に、ぜひ本学の門を叩いていただきたい。また、島崎藤村が作詞した本学校歌に「おのがじし道を開かん」という一節があります。この言葉のよう に、「自分の道は自分で切り開く」という気概で進路を進んで欲しいと思います。
明治学院大学 第13代学長
鵜殿 博喜
日本の教育にも貢献したことで知られるアメリカ人宣教医、J・C・ヘボン博士が1863年に創設した英学塾「ヘボン塾」をルーツとする明治学院大 学(東京都港区)。創設者の信条であった「Do for Others(他者への貢献)」を教育理念に掲げた人間力の育成に注力している。2013年に創立150周年を迎え、ますます勢いを見せる同大が描く「こ れからの明治学院」像とは何か−。鵜殿博喜学長に切り込んだ。
150周年の記念行事の中で
大学全体に「一体感」が生まれた
―2012 年4月、学長に就任されてから3年が経過しようとしています。印象に残っていることを挙げてください。
本学は、2013年に創立150 周年を迎え、学長就任当初からさまざまな記念行事を執り行ってきました。振り返るとまさに怒濤の日々だったように思います。
築き上げてきた歴史や伝統を体感でき、“明治学院らしさ”を凝縮したイベントの数々で150周年を祝えたのは本当に喜ばしい。例えば、本学図書館付属の 「日本近代音楽館」が保存している貴重な資料を、「五線譜に描いた夢日本近代音楽の150年」と題して東京オペラシティ アートギャラリーで約2カ月にわ たって展示しました。この企画展に呼応し、ハンドベルや吹奏楽、管弦楽など音楽系のサークルや部活動に所属する生徒・学生総勢約450人が大学・高校・中 学の枠を越えて合同のコンサートを催すなど、華々しいものとなりました。
また、「横浜開港資料館」を会場にして、本学の創設者で あるJ・C・ヘボンが残した功績を紹介する企画展や、日本野球史に残る「インブリー事件」で歴史的な関わりがある東京大学野球部と本学野球部が“伝統の一 戦”を行うなど、これまでの歩みを再確認する試みも行いました。法人本部では、ヘボンが編み出した「ヘボン式ローマ字」で表記された日本初の和英・英和辞 書『和英語林集成』の復刻版を発行しました。
この3年間、全学的に活動を展開してきたことで、学生や教職員が「明治学院」を強く意識するようになりました。そして、これまでにない“一体感”を生みだせたように思います。
―貴学を語る上で欠かせない「ボランティア活動」でも、新たな試みに着手しました。
13年4月、「赤十字」が同じく150 周年を迎えたことを記念して、共同宣言「ボランティア・パートナーシップ・ビヨンド150」に調印しました。
本学では教育理念である「Do for Others(他者への貢献)」のもと、ボランティア活動が盛んです。この宣言の採択を端緒に、本学ボランティアセンターに「明学レッドクロス」という学 生組織を立ち上げ、日本赤十字社と共に活動しています。また、国際部長を客員教授に招き、人道的価値観とボランティア精神を学ぶ授業も展開する予定です。
そして、11年からスタートした“一日”社会貢献活動やインターンシップを行うという企画「1Day for Others」をみなさまにご紹介したい。NPO・NGOはもちろん、福祉施設や地元企業、地域などから協力を仰ぎ、昨年度は約600人の学生が参加しま した。献血の呼びかけや廃油でのキャンドルづくり、商店街の祭事のサポートなどを行い、学生は自分なりの「気づき」「発見」を得た様子でした。
ボランティア活動等に興味はあっても一歩が踏み出せない――。そんな学生が前進す
るきっかけとなっています。まさに本学の教育理念を象徴する取り組みでしょう。
学生に「気づき」を与える
多様な取り組みを展開したい
―今後どのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?
「入口」「中身」「出口」の三つに分けて、改革を進めていきます。まず、「入口」の改革は「入試制度」の見直しです。具体的には、指定校推薦入試を整理 し、採用枠を減らしました。そして、本学がキリスト教主義に基づく学校運営を行っていることに立ち返り、キリスト教学校教育同盟の加盟高校との連携を強化 しました。
次に「中身」について、学部・学科の教育改革を進めるため、新たな事業や改革プランに対し特別予算を設ける「教育支援制度」を新たに 定め、いまも継続して実行しています。法学部では、この制度を用いて「公務員試験講座」を新設し、設置前に比べて合格者を格段に増加させるなど、実績を上 げています。 最後に「出口」、つまり就職支援体制について、キャリア教育の科目を刷新し、全学部共通科目として「ヘボン・キャリアデザイン・プログラ ム」を設けました。1年次から「どのような価値観を持った社会人になるのか」考えるきっかけを、さまざまな角度から与えていきます。
―産業界との連携も進めていらしゃいます。
経済学部経営学科では、城南信用金庫の理事長を客員教授に招き、社会貢献とビジネスの両立について理解を深めるなど、現役の経営者の思考にふれる講義を展 開しています。そしてこの春、本学の卒業生で構成される校友団体「ヘボン経済人会」がキャリアセンターとタッグを組み、企業トップやCEOなど、現に第一 線で活躍している卒業生が講義を行う試みが始まります。
―国際交流やボランティア活動も活発です。
本学の大きな特長の一つだと 言えるでしょう。その特長をさらに磨くべく、ベトナム・国民経済大学ビジネススクールやクロアチア・ザグレブ経済経営大学など、これまで交流がなかった言 語・文化圏と積極的に協定を締結してきました。現在、35校と協定を結び、南米、アフリカ、ロシア以外の全地域とのネットワークが構築できています。
とりわけトルコとの交流は特に深いものとなっています。本学では以前から「日本トルコ文化交流会」と活動してきましたが、これを足がかりに14年2月、希 望する学生たちと共にトルコへと渡り、大学の視察や地元学生との交流を図りました。また、国際的に活動している「キムセヨクム」というトルコ国内で最大級 のボランティア団体と協力して、トルコへ逃れたシリア難民の支援といったボランティア活動を行いました。今後、キムセヨクムや日本トルコ文化交流会と協働 したボランティア活動をさらに進めていく予定です。
日本の大学ではいち早くボランティア活動に注力してきましたが、今後は国際交流とボランティア活動を融合したプロジェクトを精力的に展開していきたいと考えています。トルコでの実践は良いモデルケースとなりました。
―多彩な取り組みに目移りしてしまいそうです。
どの取り組みにも共通しているのは、「学内での経験はもちろん、学外へも積極的に飛び出して、いまだからこそできる経験をたくさんして欲しい」という私た ち教職員の願いが込められているということです。大学として、そうしたチャンスをたくさん与えていきたい。多様な価値観にふれながら、「知らないこと」が たくさんあるということを「知って欲しい」のです。
―今春大学院で「法と経営学研究科」が始動します。
法と経営を双方の視点から学ぶのは、全国でも珍しい取り組みです。実社会では、法と経営は切っても切り離せない領域であり、双方を学び、より実践力を発揮するものと確信しています。
本来、学部・学科の教育体制の上に大学院の課程が積み上げられるイメージが一般的ですが、本科は「中核教員」として大学院の授業をメインに担当する教員を 多数配置しています。また、法学部と経済学部には「飛び級制度」があり、成績優秀者は3年次修了後、修士課程1年次に進むことが可能です。この飛び級制度 を使った場合、大学4年間の授業料で大学3年間・大学院2年間の計5年間学ぶことができます。今後にぜひご期待ください。
―高校の先生方や高校生にメッセージをお願いします。
このたび、首都圏以外の高校生を対象とする「白金の丘奨学金」という制度を新設しました。これは、入学前予約型給付奨学金で、4年間毎年40万円を支給する制度です。
また長期留学希望者を対象にした奨学金制度も整えています。意欲がある学生には経済的なサポートを積極的に行う環境があることを知っていただきたいと思います。
新約聖書に「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる」という一節があります。この言葉は本学の教育理念 「Do for Others」の前に置かれています。積極的に生きて得られたものを他者のために使うということです。そうした意欲、つまり「何かを求める」という強い想 いを持つ人に、ぜひ本学の門を叩いていただきたい。また、島崎藤村が作詞した本学校歌に「おのがじし道を開かん」という一節があります。この言葉のよう に、「自分の道は自分で切り開く」という気概で進路を進んで欲しいと思います。
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